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第74話

宴会ではまずこの国の主要人物との顔合わせをさせられ、そのまま席に案内された。


聞いていた通り様々な人種がいる。


魔族や人間、エルフだけでなくドワーフや獣人まで顔を揃えており、視界の中にはファンタジー要素が溢れかえっていた。


「あなたが賢者ソーか。私は···」


様子をうかがいながら何人かがこちらに寄ってきて声をかけてくるが、隣にいるビジェに視線を止めて絶句している。


殺戮ウサギヴォーパルバニー···」


殺戮ウサギヴォーパルバニー


「何か?」


物騒な固有名詞を出されたビジェが無表情に答える。


「い、いや···」


慌てたように去って行く彼らを見て、絶妙な人選をしたものだと今更ながらに思う。


殺戮ウサギヴォーパルバニーと呼ばれているということは、戦闘では相当に苛烈だということではないだろうか。


それに護衛として一緒に住むという話だが、彼女にその気がないのにこちらから手を出そうとすると、『殺戮ウサギヴォーパルバニーの餌食』になるよという俺への牽制も含まれているような気がした。


俺やビジェが実際のところの話をしなければ、賢者に言い寄ろうとする者たちは漠然とした考えを巡らせる。


自らも賢者の血を引く殺戮ウサギヴォーパルバニーが俺の護衛として一緒に暮らしているとなると、エフィルロスとの婚約が前に進まなかったとしても近寄り難いに違いない。


魔族、いや帝国で暮らす様々な人種は賢者の血を紡ぐことに高確率で失敗している。かつての賢者の妻が10人以上いたということは、存在する人種のすべてから後世に子を残すための働きかけがあったのだと解釈できるのではないか。


しかし、実際に子を宿したのはひとりだけで、今もその血を受け継いでいるのはビジェのみということである。


俺が本物の賢者であるかどうかは棚上げにしたとして、役目を担う上では最も可能性が高いのはビジェであると考えるのではないかと思えた。


それに、周囲から聞こえてくる声には「羅刹がいるぞ···」だとか「修羅だ、修羅がいる」などという言葉も混じっている。禍々しい単語のオンパレードじゃないか。


···ともかくだ、ビジェは武人としてそれだけ畏怖されているということだろう。


これは俺にとっても都合のよい展開なのだと思えた。


今のところ、俺からエフィルロスやビジェに婚約を申し出ることはない。しかし、護衛としてのビジェは、面倒な者たちを寄せつけない存在として機能する。


おそらくマイグリンやエフィルロスにしても、俺を抱え込むために何かを強行することは、逆効果になるのではないかという考えがあるのだろう。そのために身近に置いておく護衛としてビジェを人選したのだ。


ここで問題があるとすれば、俺がビジェに特別な思いを寄せたり、情欲にまかせた行動に出ることくらいだ。


彼女自身は公務として護衛につき、実害がなければ何の問題もないと言っていた。実害とはおそらく誹謗中傷などではなく、実力行使で危害を加えようとする者が現れたときのことだろう。


戦争が終わり今後の復興に差しかかるとなれば、有力者同士によるマウントの取り合いは少なからず起きる。その辺りの関係値は人種や立場など複雑に絡み合ってくるはずだ。


そこに巻き込まれてしまうと俺自身の力など簡単に封じ込まれてしまう。知識は活用できなければ何の意味も成さない。協力者や生かせる環境があってはじめて成り立つものなのである。


くだらない権力闘争や有力者のプライドなどは、国の繁栄の阻害要因にしかならない。前世でいうなら一部の政治家の利権への執着などがいい例だ。得票や贈収賄が絡むと、正しい政策などは論外になることが多いのは世の常だといえる。


仮に政略結婚などを受け入れると、公共のためではなく個人や集団のために制約が課せられるだろう。


そんなものは不要だ。知識は人々に笑顔を与えるものである。どれだけ地位や名誉を提供されたところで、間違った行いに力を貸すつもりはなかった。


「おお、殺戮ウサギヴォーパルバニーを従えるとは、これは本物かな。」


また新手が来たと思ったが、その面構えを見て別物だと感じた。


屈強な体に不敵な笑みを浮かべた頑固そうな顔。そして、他に比べて低い身長。


ドワーフか?


「珍しいですね。あなたがそうやって人に興味を持つとは。」


「あたりまえだろう。他の奴に持てるような関心はねぇ。だが、賢者は別だ。」


ビジェが殺伐とした雰囲気を緩めたように思う。どうやら知り合いのようだ。


このドワーフについては見覚えがあった。会話は交わしていないが、マイグリンとの初見の際に後ろでじっと俺を見ていた男だ。


値踏みするような遠慮のない視線だったので印象に残っている。スラムであったような不快な視線ではなく、例えるならビジネスの相手の力量を知るために目を凝らしていたような感じだった。




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