ワンサードとは3分の1だが、ここで重要なのはビジェネリックが3種族の血を引くということなのではないだろうか。
「ワンサード···ですか?」
「ええ。彼女はアイスエルフと魔族、そして賢者の血を引いているのよ。」
賢者が人族ではなく、アイスエルフや魔族と同じように種族扱いされているように思うのは気のせいだろうか。
「確か···魔族と人族とでは子を授かりにくいと聞きましたが、それはアイスエルフも同じではないのですか?」
少し嫌な話題だと思った。
種族差別云々を考えているのではない。
エフィルロスとの婚姻については、賢者の血を取り込むための政略的なものだと公言したのは彼女自身だ。しかし、魔族と人族とでは子を授かりにくいとの情報もある。
「ええ、確かにそうよ。賢者と人族とでは少し異なるのだけれど、ビジェは紛れもなくその血を引いているの。」
「賢者の血を引く者はいないと聞いた気がしますが···」
いや、マイグリンは賢者を直接知らないと言っただけだ。血を引いている者がいないとは一言も言っていなかった。今の言葉は俺の本心が反映されてしまったものだ。
「それは賢者の力を受け継いだ者はいないって意味よ。かつての賢者には妻が10人以上いたけれど、子を授かったのは一例だけなの。」
それがビジェネリックということだろう。
ただ、それと俺の護衛につくことへの関連性が憂鬱だった。
「子を授かりやすいという憶測でビジェネリック様との関係性を曖昧にしておけば、周りの方々は私に言い寄らないだろうということでしょうか?」
ここでエフィルロスとの代わりにビジェネリックと結婚、もしくは婚約しろと言われるのではないかと考えた。
政略が絡むのだから自由な意思を尊重されない可能性もある。いや、むしろその可能性の方が高いといえるだろう。
種族であるとかビジェネリックがどうとかという話ではなく、身を固めるにはこの世界をまだまだ知らなすぎる。それに、結婚というものについては自分の意思でしっかりと考えたかった。
「あなたが私との婚約について前向きではないことをマイグリンに伝えたわ。彼は私がそう仕向けたのではないかと疑ったけれど、最終的に賢者ソーの意思を尊重するという結論になった。ビジェが護衛につくのはその折衷案ともいえるし、あなたを守るためでもあるの。」
「要するに、ビジェネリック様が私の護衛につくことで、周囲への牽制になるという解釈でよろしいのですか?」
ビジェネリックは護衛として相応しい実力の持ち主なのだろう。そして若い女性が俺の護衛につくと、周囲はエフィルロスの代わりをその女性が狙っていると勘繰る可能性がある。
しかし、ビジェネリックが賢者の血を引いている稀な存在として認知されているならば、子を授かる可能性が最も高い人選であると思わせる対応策ではないかと思えた。
「さすがに理解が早いわね。その通りよ。」
この話を受け入れても、こちら側にはそれほど不都合はない気がした。こちらの意思とは関係なくエフィルロスと婚約させられることを思えば、理解のある対応だともいえる。
ただ、この案を素直に捉えるべきかといえば疑問があった。
表面上はこちらの意思を尊重しているといえる。しかし、様子を見ながらか強行的に既成事実を作る機会をうかがうには妥当な策とも思えるのだ。
疑いだしたらキリがないが、ビジェネリックがそうしないとは限らないし、マイグリンやエフィルロスが俺を懐柔するためにそういった遠回しな策を練った可能性も否定できない。
そうではないと言い切れるほど、互いのことを理解できていないからだ。
「わかりました。お気づかいに感謝します。しかし、一番大変なのはビジェネリック様ではないのでしょうか?」
「私は自分の意思でこの話を受け入れたから問題はありません。周囲からどう思われようと、実害がなければどうでもいいと思っています。それと、敬語は不要ですよ。」
食事のときはほくほくとした顔をしていたが、今はまた表情に乏しかった。
もともとが無感情、無関心な性質といったわけではないのだろう。職務に対して実直なのか感情表現が下手なのか、もしくはエフィルロスとの会話を聞いている限り人見知りや周囲と馴染めていないだけなのかもしれない。個人的には護衛として見なすならそれでも良かった。
「ビジェは今日からここに住むから。」
「···················。」
エフィルロスの言葉は別に衝撃発言でも何でもない。
護衛なのだから当然ともいえる。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。」
俺の考えを読んだかのようにビジェネリックがそう言った。
俺と目が合うと、興味深そうな瞳で微かに笑ったように思う。彼女の意図は読めないが、様子を見るしかなさそうだった。