こういった面において、日本の品質管理は世界一だといえよう。
孵化後のヒナのエサからこだわり、洗卵、検卵、選別などを経てようやく流通されるのだ。
この生卵の徹底した衛生管理は、他の食物にも良い影響を及ぼしている。
海外でマヨネーズを食べた人は「んん?」と思ったことがあるだろう。日本と海外のマヨネーズは明らかに味が異なるのだ。
日本では卵黄のみを使用するが、海外では全卵を使って作られている。また、酢は日本の米酢に対して、白ワインビネガーや野菜を発酵させた高酸度醸造酢が用いられているといった違いもある。さらに、日本では旨み成分であるアミノ酸を原材料に加え、酸化を防ぐ容器を用いるなどこだわりがすごいのだ。
日本のマヨネーズが世界中のマヨラーを魅了するのは納得といえるだろう。
因みに、マヨネーズは日本がルーツではなく、スペインのメノルカ島にある港町マオンだといわれている。マオンのソースがマヨネーズという言葉になったというのが有力説だったりするのだ。
余談だが、生卵を使用するマヨネーズにサルモネラ菌の心配はないのかと不安になったりするが、製造過程で撹拌した卵を60℃のお湯で湯煎し、殺菌効果の高い酢を用いることでその心配はないのである。
たまにラノベで「異世界でマヨネーズを作る」シーンがあるが、知識なしで自家製マヨネーズを作ると食中毒の危険性があるので注意が必要だ。
卵以外にもビールを飲ませて上質な霜降り肉にさせる松坂牛など、日本の食文化は海外から見ても特異なものが多い。
ごぼうや松茸などは日本人しか食べないと言われており、ナマコや白子も見た目で忌避されている。デビルフィッシュと呼ばれるタコは、韓国やタイ、イタリアやスペインなどの国以外では宗教上の戒律や見た目で忌避されていたりするのだ。
魚の生食も最近でこそ受け入れられているが、海外ではやはり食中毒の不安から敬遠されてきた日本の料理といえるだろう。
日本で生魚が食されてきたのは、島国で新鮮な魚介類が手に入りやすいからに他ならない。大陸内部の国では日本ほど新鮮な魚は手に入りにくいこともあり、冷凍技術が発展していなければ未だに世界では受け入れられなかった可能性すらある。
また、水道水がそのまま飲めるという環境も大きい。世界的に同じことができるのは、日本以外には14カ国しかないというデータもあるくらいだ。
こういった背景により、我々日本人は食に対して非常に恵まれた環境で生活している。
食肉の臭みも近年でこそ世界的に気にならなくなったといえるが、昔はこちらの世界と似たり寄ったりだったと考えるのが正解なのだ。
「あ···」
色々と考えていると重要なことに気がついた。
この家のコンロは、こちらの世界でいう最新式のものが設置されている。
魔石を動力にして使う魔道具だ。
これに火を着けるには魔力がいる。
「···エフィルロスが来るのを待つか。」
そう、俺に魔力はない。
魔道具に火を着けることができないのだから、ひとりで料理などできるはずがなかったのである。
仕方がないので塩水で洗浄したキノコを軽くすすぎ、布巾で水気を取って並べておく。
因みに、上下水道はかつての賢者の知識で補完されている。浄水のための設備もあるらしく、そのまま飲むことはないにしても加熱すれば料理にも使えるそうだ。
食材は他にそら豆とパセリ、それに干しタラを使う。
そら豆はサヤから出すとすぐに鮮度が落ちるのでそのままにしておく。火がついたら焼き用のキノコと一緒に火で炙るつもりだ。
干しタラはポルトガルやイタリア、スペインでよく食べられる食材である。こちらでも保存食として重用されているらしい。タラがあるならイワシも出回っていそうだが、内陸部にあるこちらでは日もちのしないイワシは手に入りそうにない。
こちらの干しタラは日本の干物とは違い、ポルトガルのバカリャウそのものだ。骨や皮がそのまま付いており、表面が白くなるほど塩が浮いている。
塩抜きしなければならないのだが、その行程はすでにされてあった。干しタラは臭みが強い場合があるので牛乳に漬け込んで1日くらい放置しておくとよいのだが、すぐに食べるので省略する。代わりにワインを振りかけておいたので気持ち程度はマシになるだろう。
「···やることがなくなった。」
エフィルロスが来るまで料理は中断するしかなさそうだ。
何か本でもないだろうかと思い家の中を探索しようとすると、約束した通りの手順でノックする音が聞こえてきた。
「待たせたわね。」
エフィルロスはひとりではなかった。
後ろにあまり見ない容姿の女性を伴っていたのだ。
「いえ、予想よりも早かったですよ。」
「早速だけど紹介するわ。アイスエルフのビジェリゼックよ。」