「あなたの時計には貴金属が使われているってこと?」
「少し特殊な時計だから、微々たるものだけど白金や金、銀などが使用されている。」
「驚いたわ。見た感じ真っ黒だったけれど、王族が使うような時計だったのね。」
「装飾ではなく、中のパーツ···からくりに必要なものだから。少量だし、大した価値はないと思うよ。」
「量にもよるけれど、金や銀は小粒程度だと買い取ってもらえないわ。それに、白金は加工が難しいからまず無理ね。兄があなたのピアスのことを話していたけれど、それにとんでもない価値があるのは加工されたものだからよ。」
なるほど。
ようやく理解した。
白金に価値があるというよりも、装飾品として加工されているものだからという意味である。
白金=プラチナだとして、その加工は技術的にかなり難しいのである。プラチナは融点が高く1769℃だ。鉄は1535℃、金なら1064℃という数値を見ても相当な熱処理が必要だといえる。古代エジプトやプレ・インカ文明でわずかながらもプラチナの装飾品が見つかっているが、その加工技術については未だ解明されておらず謎に包まれていたはずだ。中世ヨーロッパでもそれは同じだったらしい。
「白金の加工はどこでされているのか知ってる?」
「そうね。白金は加工ができなくて、もともとは貴金属扱いじゃなかったのよ。ある行商人が装飾品に加工されたものを持ち込んだことから注目されたのだけれど、一説によるとドワーフが絡んでいるらしいわ。」
ドワーフ!?
やはりいるのか。ファンタジーあるあるだな。
「そのドワーフはどこに住んでいるかはわかっているの?」
「いいえ。その行商人は年に数回訪れるだけで、加工技術については何も知らないそうよ。出処も製作者の都合で明かせないらしくて···何でも、漏らせば流通させないとまで言ってるそうよ。」
徹底した秘密主義か。
「ドワーフの存在は確かなものなのかな?」
「エルフと同じよ。ごく稀に姿を現すけれど、基本的に人間社会とは隔絶したところで暮らしているみたい。一昔前は一部の地域で交流があったらしいから実在はするようよ。」
ふむ。
エルフもいるのか。
いや、それよりも···
最近のファンタジー小説では金貨よりも価値のある貨幣として白金貨なるものが出てくるが、今の話によると中世をモデルにした異世界物で白金を加工すること事態に無理があるということになる。まあ、創作だし、それこそ魔法やドワーフが加工した物とするとありといえばありだが。
確かに技術的に無理だと思うところもあったが、現実的にはやはりそう簡単なものではなかったようだ。
結局、スマートウォッチから取り出したレアメタルの換金についてはあきらめた。
衣服についてはどれくらいの金額なのかを確かめるために、街に住む人たちがよく利用する店舗へと案内してもらえないか聞いてみると意外な答えが返ってくる。
「街の人たちは裕福ならオーダーで、それ以外は自分たちで作ってるわ。」
「え、そうなの?」
「服は業者に頼むと小金貨一枚以上はするから。」
衛兵の1ヶ月分の給料の三分の一かよ。
元の世界で例えるなら一着が家賃なみってこと?高いなぁ。
「小売店はないってことだね。」
「生地を売る店はあるけれど、縫製は裁縫師ギルドに依頼するか個人で手作業ね。」
テーラーやクーチュリエはなく、裁縫師ギルドに採寸してもらいフルオーダーする流れらしい。高いことに納得した。
「パターンオーダーやイージーオーダーなどはないの?」
「何それ?」
そういったものはないらしい。
いちおう、その概要をティファに説明してみた。
「なるほどね。裁縫師の負担も減るし、量産しやすそう。」
「価格も抑えられるしね。」
「ただ、一番のお得意様は貴族だから一点物が好まれるのよね。」
「役職ごとの制服もフルオーダーだったりする?」
「ええ。だから役所の経費も圧迫されるみたいね。でも、待って。そのアイデアを取り入れたら様々な方面で喜ばれそうね。」
「経費の削減だけでなく、衣服の価格も抑えられて流通量も増えるだろうね。その影響で服に興味を持つ人も増えるから、装飾品の類も需要が増えるかもしれない。上手くいけば求職者を雇い入れることにもつながる。」
「しかし衣服の縫製には時間もかかるし、技術もすぐには身につかないでしょう?」
「そうだね。裁縫師だけでなく、分業化して作業効率を上げる必要がある。」
「具体的には?」
「型紙をサイズとパターンに合わせて量産し、カットや縫製をそれぞれ専任で行うとか。たぶん、今はひとりの職人がすべてを行うから時間も手間もかかっていると思う。」