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第23話

街に行きたいと言ったら、ティファが護衛兼案内役を申し出てくれた。


監視役ではないのかと思ったが、ユーグが先日のようなことに遭遇しないように配慮してくれたらしい。


もしかすると、俺が思っている以上にアヴェーヌ家には歓待してもらっているのかもしれない。


「服を買いに行きたい。ずっと借り物なのは気を使うし、住むところも探さないといけないしね。」


「指導の件を断るってこと?」


ティファの表情には悲しそうな色が浮かんでいた。本気でそう思ってくれているならうれしい限りだ。


「いや、そちらはまだ検討中なんだ。中途半端なことはしたくないから、もう少し考えさせて欲しい。」


「だったら今のままでいいんじゃない?」


「迷惑じゃないのか?」


「全然。むしろ私も兄も大歓迎だけど。」


「そうなのか?」


「私はあの体術に魅力を感じている。兄はソーの知恵に興味があるんじゃないかな。」


「知恵?」


「そのうち詳しい話があると思うよ。もしかして、住むところを探そうとしているのは、女の子を連れ込んだりいかがわしい店に通いたいからだったりする?」


「俺はそういうのはあまり好きじゃないから。」


ユーグ本人が時機を見て話すというならそれを待つしかないだろう。しかし、女性に変なイメージを持たれるのはショックだ。そんなふうに見えるのだろうか。


「そうなの?」


事業をやって少しお金を稼げるようになると、金銭を目当てに近寄ってくる者が多くなったりする。女性に限らず男性もだが、色仕掛けや美人局まがいのものもあり煩わしくて仕方がなかった。


それに、お金を払っていかがわしいサービスをする店などは病気が気になるし、はっきりいって行きたいとは思わない。そのような店や通う男性がダメというほど潔癖ではないが、個人的に興味がないのだ。女性とつきあうなら真面目なのが一番いい。


「他は知らないが、俺はそうだ。それより、服以外に身分証なんかを発行してくれるところはあったりするのかな?」


「あるけれど、住民として一定期間暮らしていないと無理だわ。後見人がいるしね。」


思ったよりもまともな治世のようだ。


まあ、創作の世界ならいざ知らず、どこの誰ともわからないやつに身分証を発行する冒険者ギルドなどが実在するとは思えなかった。


身元を確認しない身分証など、そこらの店で作ったポイントカードよりも価値がない。


そんなものを掲示して「あなたの依頼を受けた〇〇です。安心してお任せ下さい。」なんていわれても、俺が依頼者なら怪し過ぎてお任せしようとは思わないだろう。


ラノベなどではいわゆるテンプレとして機能している。他に本題があるのだから、話を円滑に進める潤滑剤として否定する気はない。


「なるほど。では、貴金属の買取りを行っている業者というのはあるのかな?」


「あのピアスを売る気なの?」


「いや、壊れた時計を分解した。」


スマートウォッチに使用されているレアメタルはそれほど多くない。その中でもこちらで換金できそうなものとして白金、金、銀を夜中に分解して取り出していた。とはいえ、合わせて数ミリグラムしかないので換金してもらえるかもわからない。


しかし、白金でできたピアスの価値はとてつもないようだ。わずかな量でも装飾品のアクセントに使うなど需要があるかもしれない。取り急ぎ、当面の生活費の足しになればと考えたのである。


因みに、俺を襲った衛兵たちの賠償として手に入れたのは金貨で30枚弱あった。内訳としては十分の一程度が一月分の給金で、あとは身売りした金額だ。衛兵の一月の給金は金貨3枚に満たないということになる。


調べたところ、金貨にもいくつか種類があった。


一番価値のある金貨は一枚およそ30グラム。純度や金の相場によって左右されるが、一枚でもそれなりの価値になる。俺が受け取った金貨は一番小さいもので一枚10グラムほどのものだ。それが3枚ということは、大金貨一枚相当となり金の純度が最も高い24Kなら日本円にして15〜25万円くらいのものだろうか。


金はこちらでもかなり希少性が高いらしく、一般的には使用されることは少ないらしい。市井で用いられるのは銀貨が主流であるため、あの金貨はユーグが用意してくれたものと考えるべきだった。給金も銀貨でもらうことが多いらしいので、金貨のままだとそこらの店では使えないかもしれない。


何にせよ、あの金貨はあぶく銭ともいえる。できれば使用せずに置いておいた方がいいと思ったのだ。





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