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第20話

その後、自重トレーニングを行った。


自重トレーニングについてはティファニーも行っているようで、この世界でも数千年前から一般化しているらしい。


地球でも古代ギリシャや古代ローマ時代から存在しているもののため、特に不思議はなかった。因みに、ダンベルなどを使用するフリーウェイトトレーニングも戦闘職の者には常識的なものらしい。こちらも紀元前2500年頃のエジプトですでに行われていた記録があるため、当然なのかもしれなかった。


ただ、魔法で身体能力を強化することができるという話が出た時には驚かされた。


ティファニーいわく、魔力量や制御するための技術で個人差はあれど、2〜3倍くらいまでは短時間だが強化できるらしい。


俺の合気道で対応できるかは正直わからないが、とんでもない世界だなと思い知らされた。


「技をある程度教わったら、模擬試合もしてくれる?」


そんな物騒なことをティファニーが言い出したので迷ったが、この世界で生活する上では自分の限界を知っておくことは重要だろう。


「わかりました。」


「・・・ソーは誰にでもそんな堅苦しい受け答えをするの?」


「ティファニーさんは貴族でしょう?」


昨日、執事のドニーズさんにそのことを説明されたのだ。正確にはユーグやティファニーは貴族の直系となる。爵位を持っていないとはいえ、貴族の一員に違いはないのだ。


「そうだけど、必要な場面でなければ問題ないわ。あなたは私にとって指導者になるんだから。」


いつの間にか指導者扱いされていた。


気まぐれや興味本位だと思っていたが、このティファニーは強さに対して貪欲な姿勢を持っていることはこの短い時間でも感じている。


「失礼でなければ、素で話しますが。」


「そうして。あと、ティファでいいから。」


ユーグやドニーズさんから指摘されそうだが、本人がそういうなら二人だけの時はそうした方がよさそうだ。


「わかった。」


返答すると、ニヤッとした笑いで返された。


こういったところが雪豹っぽい。穏やかな笑顔なら猫のように可愛いのかもしれないが。


形稽古を始めた。


ティファは昨日に引き続き、一通り見学するとのことだ。事前にどういった武術なのかを説明していたので、基本の形を見て実戦でどのような使い方をするのかイメージするらしい。


じっと、一挙手一投足を注意深く見ている。彼女は生粋の武人なのかもしれない。何気ない所作を見ていてそう感じた。


兄であるユーグもそれなりの実力を持っていそうだが、ティファは別格なのかもしれない。俺を交代で監視していた男性よりも、実力は上だとも感じた。


「形だけだと最終までの流れがわからないわね。何となく相手を投げる技だとはわかるのだけれど。頭から地面に叩きつけたりするの?」


また物騒なことをいう。


咄嗟にそう思った。


発想が血気盛んな兵士そのものだ。


そういえば、祖父が指導していた兵士にも似たような奴が何人かいたのを思い出す。彼らは相手を無力化することを目的に体術を学ぶ傾向が強い。だからこそ、合気道のような一見地味だが、実戦で効果の高い武術に着目するのだろうが。


「どちらかというと、相手を投げて固め技で制圧するものだよ。本気でやればいろいろとあるけれどね。」


「試合とかで魅せる体術なの?」


そう言ったティファの表情は、明らかに落胆の色を見せている。


「いや、この流派に試合はない。本質からいうと様々な武術を長い時間をかけて研究し、その利点を取り込んだり対抗できるようにしている。体格や体力で勝る相手を打ち倒すことも可能だ。」


「うーん、あまり想像がつかないわね。」


元の世界でも合気道は受けの体術だと勘違いされて軽視される傾向にあった。騎士なら剣を主体に戦うのだろう。実戦で役立たないと思われるのは少し癪だった。


「模擬試合してみる?」


「試合はしないって言わなかった?」


「実際にどういったものかは、仕合わないとわからないだろうから特別に。」


「それはおもしろそうね。他の人も参加させてもいい?」


「かまわない。木剣や模擬戦用の武器があるなら、それを使ってもらってもいいよ。」


「素手でそれに対抗するわけ?」


「もちろん。」


ティファのプライドに火がついたようだ。


彼女たちにすれば、生意気な態度に出たと思うかもしれない。


命をかけた勝負をする気はないが、武芸には武芸で対抗できるところを見せておいた方がいいと思った。


今はユーグの庇護下にあるが、それもそう長くは続かないだろう。


有事の際に何とかできるレベルなのか、もしくは逃げなければ危ないのかは知っておく必要がある。


それに、可能なら魔法を見てみたいと思ったのだ。


俺が魔法を使えるかどうかは別として、ゲームや創作の世界ではなく、現実に魔法を見るというのは貴重な体験に違いない。


そんなふうに気持ちを高まらせていたのだが、このやり取りが後で大きな意味を持つようになるとは夢にも思わなかった。





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