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第7話

そういえば、アメリカやカナダで電気や車を使わない昔ながらの生活をする人々がいたのを思い出した。


ドイツ系の移民を中心とした20万人ほどの宗教家たちだ。


彼らは信仰上、現代技術を拒否して生活していると聞く。アーミッシュといわれる人々で、ガスも使用を禁止しているという。移動はもっぱら馬車を使用していた。


いや、ヒグマはその地方にもいるが、ペニーロイヤルミントは基本的にアメリカでは自生していない。誰かが植えた可能性もあるが、あんな森の中にあるのはやはりおかしいと思えた。


それと馬車についてだが、日本では馬車文化は発展していない。牛車が利用されることが多く、馬車は明治頃まで存在しなかったとも聞いている。


人と出会えたり、街が見えればその辺りもはっきりとするのだが···


歩きながらそんなことを考えていると、前方から大きな物音がした。そちらを見ても何もない。しかし、道は先でカーブを描いており、その先で何かがあったのだと感じた。


まさか、誰かが熊に襲われているのではないだろうか。


先ほどのような体験は勘弁してもらいたいと思っていると、次は怒声のようなものが聞こえてくる。


しばらく様子を見ていたが、声はすれども何を話しているのかまったくわからなかった。


言葉ははっきりとしている。


しかし、聞いたことのない言語だったのだ。


やはりここは外国なのだろうか。


そう思いつつも、興味本位でおそるおそる近づいていく。


獣の咆哮は聞こえないため、人同士が争っている可能性が高かったからだ。


カーブをゆっくりと進み、目立たないように様子をうかがう。


また想定外だった。


3人の男が武器を持って馬車を足止めしている。


強盗かと思ったが、それ以上に彼らの装いに驚かされた。


3人とも小振りの剣を持ち、チュニックらしき服に皮の鎧をつけていたのだ。


まるで映画で見るヨーロッパの中世時代のような格好である。


映画の撮影だろうか。


最初に思ったのはそのことだ。


しかし、馬車に乗っている男も含めて、全員が日本人ではなかった。


栗色の髪をした白人ばかりである。


しかも、全員が俺の鼻下に届かない身長だった。それなりの体格をしているが、いわゆるマッチョではなく肉体労働者のような体だ。


たまたまかもしれないが、本来は白人男性なら日本人よりも大柄なことが多い。4人揃って似たような身長というのは、おかしくはないがイメージ的に違和感があった。


「!?」


3人組の1人が俺に気づいて何かを口走った。


相変わらず何を言ってるのかわからないが剣呑な感じだ。さらに何かをまくし立てながらこちらに近づいてくる。


撮影の邪魔をして怒っているのだろうか。


悠長にそう思った瞬間、目の前に来た男が剣を振り上げた。


俺は咄嗟に男の懐へと飛び込み、両腕を掴んで抑え込んだ。合気道の正面打ち一教抑えの技である。ボクシングでも合気道でも、下手に間合いをとるよりも懐に飛び込んだ方が安全なことがある。


それにしても、模造刀とはいえ振り回したら危ないのがわからないのだろうか。


目の前の男が何かを叫んでいる。体を激しく揺さぶりながら抜け出そうとしているが、少しは冷静になってくれないものか。


「!?」


男の仲間が横から剣を振り下ろしてきた。


俺はすぐに手を離して後退する。


そこで馬車が急発進して行くのが見えた。


まさか、本当にこの3人は強盗で、俺に気を取られている間に馬車は逃げ出したということだろうか。


···冗談はこのくらいにしておいてもらいたいのだが。


舌打ちしながらこちらに詰め寄ってくる男たち。


そこで久しぶりに嫌な感情に触れることになった。


祖父の付き添いで行った海外で、模擬戦で高校生の俺に負けた兵士が放った殺気と同じもの。


武器を持った男が3人。


殺気が本物なら非常に危険な状態だった。


俺が構える振りをすると、相手は一瞬動きを止める。そこから全速力で走り出した。


虚をつかれたのか、3人は出遅れたようだ。俺は後ろを見ずに馬車が走って行く方向へと足を動かし続けた。




どれくらい走り続けたのかはわからない。しかし、3人を撒けたようだった。


荒くなった息を整える。


この辺りの地理はまったくわからない。だから無闇に身を隠そうとせずに、全速力で走ったのが幸をそうしたようだ。


それにしても、いきなり剣で斬りかかってくるとかありえないことだった。いくら模造刀でも、当たりどころが悪ければ打撲だけではすまない。


本音でいえば、そう思いたいだけだった。


この場所に来てからのわずかな時間で、俺は嫌な予感をひしひしと感じていたのだ。


様々な本に目を通すが、ラノベやWeb小説ではある流行りがある。まさか、自分が同じような体験をするとは思っていない。あれはあくまで娯楽作品の中での話だ。いくら状況がそういった作品の設定に似ているからといってありえないだろう。


試しに定番の言葉を唱えてみた。


「ステータスオープン。」


···ほらな。


何も起きないじゃないか。







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