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第18話 報告書:真実の鏡


『試作疑似人格魔術式照応器甲型、および同乙型試験評価報告』


 かねてから軍務や各捜査機関の職務遂行に付随する過度な尋問が批判の矢面に晒されてきたことは言うに及ばない。本兵器の目的は尋問過程における人道上の問題を解決し、天地に名高き我がヨルアサ王国のいと気高き仁徳の誉れを回復せしめんとする点にあり。


 本兵器はその性能及び成果において当初の想定を大きく上回り、尋問における被疑者の身体的、精神的苦痛を軽減せしめ、ヨルアサに虜囚の辱めなしと言わしめる、画期的な兵器であることは疑いようがない。


 試作疑似人格魔術式照応器甲型、および同乙型については二度の性能評価試験が行われ、そのいずれにおいても想定を上回る成果を得たり。

 部内にて実施された第一次性能評価試験において、本兵器は諸元を満たす性能を発揮せり。評価試験標本たる女性隊員は本兵器に暴露し赤面羞恥し、極度の混乱に陥りたり。

 実任務を含む第二次性能評価試験においても、本兵器はかわらず著しい効果を発揮せり。尋問に対抗し得る訓練を積んだ対象であっても本兵器の作用は避け難く、機密情報を自供せり。


 本兵器の性能が期待さる諸元を十分に満たすことは二度の試験でも明らかである。が、本兵器に看過できない欠点があることも確かである。

 すなわち、本兵器に付与された疑似人格が不安定であり、それゆえに本兵器の耐用年数を著しく短いものにしている点である。


 この問題に対して第三次評価試験として機能安定性回復試験が実施されたものの、当試験には30日間を費やし、誠に遺憾ながら、現在の魔法技術での解決は困難と結論づけられた。


 本兵器が魔法兵器である以上、再生産は容易であり、その高い性能を鑑みれば耐用年数の短絡も、費用対効果という評価点では決定的な瑕疵とは言いがたい。正式採用による量産化によって、上記の欠点は補填し得るものと愚考する。


 さりとて、魔術による疑似的な産物であるを理由に、棄損さるが自明な人格を量産せしめ、神ならざる人の手によって恣にせんという試みは、はなはだしき人道上の過ちに繋がりかねない。

 この一点において、本兵器は当初の目的を逸脱し、開発理念を満たし得ない。


 よって、引き続き試験器の再安定化をはかるとともに、これをもって第四次評価試験とし、当試験が終了するまで本兵器の正式採用及び実任務への投入を見送るものとする。



王国歴435年 天道虫てんとうむしの月34日

魔法兵器開発局

開発局顧問および技術試験隊顧問

クレノ・ユースタス技術中尉


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