「あ、来た」
博物館の正面でエレクトラムが待っていたのは、〈人間〉の友人、
「どうもぉ! 噂の魔法使いさんですね?」
「おお……。そうです。えっと、
「日本式の名乗り方をどうも! 僕は
「わ……」
糸目、口角の上がった口、白い歯、オシャレなスーツ、高そうなウールのロングコート、黒い艶々な長い髪は低い位置で一本に結んでいる長身の男性。
一方、
まるでちぐはぐな二人に、エレクトラムは苦笑いするしかなかった。
「ね⁉ 反応に困るでしょ⁉ どうしたらいいと思う、エリー」
「えっと……、じゃぁ、
「え、で、でも……」
「
「それが良いと思う!
「えっ……。ふ、二人がそう言うなら……。じゃぁ、珈琲飲んできます……」
少し不満そうな
「博物館の中っていいよねぇ。僕、好きなんだ」
「私もです」
「でも、話をするのには向いてないんじゃ?」
「大丈夫ですよ。今は二十時。開館前ですから」
「ああ、だから待ち合わせの時間を早めたのか。君は抜け目ないね」
糸目を一瞬見開き、また細めて微笑んだ
「いえいえ。何から話しましょうか」
空気が変わる。
エレクトラムの優しい声色に、
「……君は優しいね。違和感に気づいているのに、言わないでくれている」
「ご自身から話してほしいので」
「ああ、そうだよ。僕はただの霊能者じゃない。それに、退魔師とか、そういう類でもない」
エレクトラムは静かに頷きながら、
「
二人は階段を上り、踊り場にあるベンチに腰かけた。
「自分の意志で手放したんだよ。命をね」
悲しそうに微笑む顔。
エレクトラムは、彼が負った傷をこれ以上広げないためにも、事実だけを問おうと、そっと口を開いた。
「では、あなたは……」
「そ。〈
「魂魄を結合している〈糸〉のようなものを結ぶ人……、ですよね」
「うん。その〈糸〉にも臓器移植みたいにさ、適正って言うのがあるんだよ。前世とか
「そこらへんで浮かんでいる幽霊なら誰でもいいってわけではないんですね」
「その通り。貴石族は話が早くて助かる」
通常、幽霊は魂魄を繋いでいる〈糸〉がさ迷っている状態のことを指す。
死ぬと人間はまず魂が抜け、死後の裁判のために一度地獄へ行く。
そのとき、繋いでいた〈糸〉は純粋なエネルギーの塊として残り続ける。
自然に次の命の元へ紡がれる〈糸〉もあれば、さ迷い続け、幽霊となってしまう〈糸〉もある。
そのさ迷っている〈糸〉を、今まさに死にかけている人の魂魄の継ぎ目へと移植し、延命させるのが〈
ただ、誰でも彼でも延命させるわけではない。
「人間は幽霊と聞くと魂がさ迷っていると考えるらしいんだけど、それは違うんだよね。魂だけで動けるのは高次元の存在。多次元波長ってことになるから、いわゆる天使とか悪魔、妖精、精霊、はたまた神と呼ばれる存在のことだね」
「なるほど」
「若い魔法使いも知らないかもね。僕の職業はかなり古めかしいものだから」
「妹がさ、もう長くないって言われて。昨日、何度も意識不明に陥った」
窓の外に、雪が降り始めた。
「探したよ。街中を何時間も。でも、見つからなかったんだ。妹に適合する〈糸〉が」
窓のふちに降り積もり、景色を彩っていく。
「でも、灯台下暗しってよくあるよね。僕のが完璧に一致することがわかって、すぐに移植した」
エレクトラムの中で生まれていた疑問が、確実なものに変わって行く。
「君の考えていることはわかる。だって、正解だもの」
「天使は難しい。妖精は種族が違う。精霊は自然のもの。神はそもそも無理。だから……。だから、僕は、君たち魔法使いが言うところの、〈悪魔〉になることを選んだ」
エレクトラムの胸に、重く鈍い痛みが走った。
「この仕事、
「〈糸〉を取り出す前に、契約したんですね」
「その通り。僕は十字路の悪魔に魂を売り渡した」
十字路は
そこならば、誰でも悪魔を呼び出すことが出来る。
方法さえ知っていれば。
「今目の前にいるのは、
「呑み込みが早いね。日本では古来より、魄だけで動く存在のことを〈
そう言うと、
「まだ小さいけどね」
「で、でも、じゃぁ……、なんで
「それは、僕を救ってくれたのが
まるで時間が停止したように、間が開いた。
エレクトラムは目を見開き、
「え……! し、知りませんでした」
「家族の誰も知らないと思うよ。彼の仕事は極秘事項だったから」
「と、いいますと……」
「千代田区の中央付近にその謎を解くカギがある、と言えば、察してくれるかな?」
「……ええええ!」
千代田区の中心にあるものと言えば、それはもう……。
「これ以上は話せないんだ。ちなみに僕はフリーの
「日本にはいったい何人の
「ううん、どうだろう。そのほとんどはその、ほら、話せないって言った場所の所属だからわかんないけど、フリーで働いているのは十人くらいだと思う」
「そうなんですね……」
エレクトラムは思っていたよりも重大な秘密を知ってしまい動転した。
「あと一年待てば移植用の臓器が手に入るけれど、それまで命がもたないかもしれないって患者さんの家族からよく連絡があるよ。どうやって調べているのかはわからないけど」
エレクトラムは深呼吸をして気を落ち着かせ、真剣に話を聞き続けた。
「
「でも、
エレクトラムの言葉に、
「あはは。ちょっと強引だったかもね。能力を自覚させるには、強制的に引き出すしかなくってさ。飲ませちゃった」
「えええ……」
まったく悪びれていないのは、倫理観などを失った悪魔の状態だからなのか、それとも元々の性格のせいなのかがまったくわからない。
「だからさ、エレクトラムくん。
エレクトラムは頭の中で友人の人生と目の前にいる人物が教えてくれた事実を巡らせながら、心から唸った。
「え、ううん……。一応、話してみますけど……」
「彼には生き甲斐が必要だと思うんだよね」
「それはそうですけど」
「じゃぁ、さっそく話しに行こう!」
「え、ちょっ」
エレクトラムは
この後、