怪我がすっかり治り、一週間ほど経ったある日、れんさんと動物園デートに出かけた。
以前、電話で何気なく「お父さんが忙しくて、家族でテーマパークとか動物園に行ったことないんだよね」と話したとき、れんさんが「じゃあ、今度行こうよ」って言ってくれた。その約束を忘れずにいてくれたのが嬉しかった。
動物園なんて、小学校の遠足以来だ。最初はテーマパークに行く案もあったけれど、人混みが苦手な私を気遣って、れんさんが「動物園なら平日だと空いてるんじゃない?」と提案してくれたのだった。
「やっぱり空いてるね」
平日の真冬の動物園は、予想通りガラガラだった。目に入るのは、お年寄りや母と子供の家族連れがちらほら。そんな静かな園内の中でも、子ゾウが新しく仲間入りしたエリアだけは賑わっていて、私たちも自然とそちらに足を向けた。
「かわいい~!」
お母さん象のそばで、小さな象が元気に走り回っている。鼻や足を使ってバケツを転がしている姿があまりに愛らしくて、見ているだけで癒されてしまった。れんさんが「写真撮ってあげるよ」と言ってくれて、子ゾウをバックに嬉しそうに笑う私をカメラに収めてくれた。
れんさんの写真センスには毎回驚かされる。撮った写真を確認しながら私は、「ほんとに有能彼氏だな」と誇らしい気持ちになった。
その後も、れんさんと手を繋ぎながら園内を回ったけれど、冬のせいか動物たちはひっそり隠れていたり、別の部屋に移されていたりで、姿を見られないことも多かった。
そんな中、ある猿が檻の隅で背中を向けながら黙々と食事をしていた。その姿がどこか中年のおじさんのようで、れんさんが「なんか、誰かの休憩時間をこっそり覗いてしまった気分だわ」と笑いながら言ったので、つられて私も吹き出してしまった。
他愛のない会話を交わしながら、れんさんと2人で歩く時間がただただ心地いい。動物たちののんびりした姿に癒されるのもあるけれど、それ以上に、私のために提案してくれたり、笑わせてくれたりするれんさんがただ愛おしかった。
動物園って、こんなに楽しい場所だったんだっけ?
れんさんと一緒だから、こんなにも幸せに感じるのかな。
「楽しかったね」
帰り道、冬空の下で少し冷えた手をれんさんがそっと握ってくれた。
今日から動物園は、私の中で特別な思い出が詰まった大切な場所になった。
いつの間にか、れんさんは私の「大好き」をたくさん作ってくれる存在になっていたんだ。れんさんと出会えたおかげで、毎日の楽しさが何倍にも膨らんでいく気がする。
気づけば、れんさんのことをもっともっと好きになっている自分がいて、その気持ちに胸がぎゅっと温かくなった。