「……えっと、それってどういうこと?」
念のため、恐る恐る確認してみる。
「そのままの意味だよ。」
れんさんは表情を変えずに答えた。その冷静な態度に、なんだか胸に警戒心が芽生える。
「これって…遊びだったりする?」
思い切って核心を突くように尋ねてみた。
「違うよ。」
……まあ、遊びだなんて正直に言う人はいないよね。
拒否されるのは目に見えてるんだから。
「でも、こんなに早すぎるし…なんで突然?」
疑問をぶつけると、れんさんは少し考える素振りを見せてから、淡々とした口調で答えた。
「まあ、この歳だし、そういうのもアリかなって。」
――は? 納得できるわけない!
私、この展開、知ってる。
TL小説とかで嫌というほど見たやつだ!
キスまでしておきながら告白はなし。それどころか、この発言――完全にやりモクじゃん!
アプリで出会った、女性に困ってなさそうなイケメン。こんな典型的なパターンに引っかかるなんて……。
最悪だ。これこそ、私が一番恐れていた展開。
れんさんといる時間は確かに楽しくて、警戒心も少しずつ薄れていたけど、冷静になれば、彼は「今日出会ったばかりの人」だ。
もしかしたら、とんでもない遊び人かもしれない。
そんな不安が募る中、私はれんさんをじっと見上げた。すると、さっきまで親近感を感じていた彼が、突然まるで知らない人のように見えた。
わかってた。うん、わかってたよ。
こんなに上手くいくはずなんてないって、心のどこかで気づいてた。
何もかもが順調すぎて、進むのが早すぎて、怖いくらいだったもの。
でもね?
だからって、こんなのあんまりじゃない?
もう少しだけ、夢を見させてくれてもよかったんじゃないの?
「……うん、いいよ。」
――もう、どうにでもなれ。
気づいたら、そう呟いていた。