れんさんと向き合ってパスタを食べる私は、大きな不安を感じていた。
だって、お店に入ってからというもの、れんさんがなんだか冷たい。
さっきまではあんなに自然に密着してくれていたのに、一体どうしたんだろう。
「私、何かしちゃった…?」
胸の奥がモヤモヤする。
結局、お店はイタリアンに決まり、2人でパスタを注文した。
けれど、テーブルを挟んでいるのに、会話はほとんどない。
れんさんが無口なのは知っている。けれど、私が話を振れば割と楽しく会話が続く人だ。
でも、今のれんさんは違う。話しかけても「うん」とか「そう」とか、短い返事ばかり。
視線も全然合わずに、ひたすらパスタに集中している。
「デートって、もっとこう…食事しながら楽しくおしゃべりするものじゃないの?」
そんなことを考えながら、手元のフォークをいじる私。
そんな時だった。
パスタを食べ終えたれんさんが、ようやく私に視線を向けた。
「おいしい?」
不意打ちの優しい声に、心臓が一瞬飛び跳ねた。
「う、うん!すごくおいしい!」
慌てて答えると、れんさんは少しだけ微笑みながら、私が食べ終わるのをじっと待ってくれた。
お店を出てエスカレーターに向かう途中、れんさんがそっと私の肩に手を触れる。
えっ…?と驚いていると、エスカレーターに乗った瞬間、また彼がすっと近づいてきて、私の体に軽く触れるくらい密着してきた。
さっきの冷たいれんさんが嘘みたいで、思わず胸が高鳴る。
私の横顔をちらっと見るれんさんの瞳は、さっきまでの無表情とは全然違って、柔らかくて優しい。
「…寒かった?」
その一言に、また心臓が跳ねた。
「えっ、あ、ちょっとだけ…」
しどろもどろに答えると、さらに私との距離を縮めてくる。
クールで無口だと思ったら急に優しくしてくれて、情熱的に近づいてきたかと思えばまた冷たくなる。
この人は、本当はどんな人なんだろう?
私の気持ちは、れんさんの一挙一動でぐるぐる振り回されっぱなし。
でも、そんな彼の不思議さに、どうしようもなく心が惹かれてしまう自分がいる。
今日という日が終わる頃には、きっと私はれんさんのことをもっと知りたくてたまらなくなるだろう。
そして、それが少し楽しみになっている自分にも気づいてしまった。