カフェを出ると、外はすっかり夕暮れ色に染まっていた。11月の冷たい空気が、頬をほんのり赤らめさせる。
「まだ18時前なのに、こんなに暗いなんて…」
そんなことを思いながらも、隣を歩くれんさんの存在に意識が引き寄せられる。昼間とは違う、少し影のある横顔が妙に大人びて見えて、胸が高鳴った。
――こんな時間まで男性と一緒にいるなんて初めてだ。
そう思うとますます緊張し、でもそれ以上に心が踊る。ふと、れんさんの視線が私に向いている気がして、思わず目を逸らした。でも、その視線にはどこか優しさと熱を感じる。
「この先、夜景がきれいに見える場所がある…ベンチもあるし、行こうか。」
提案というより、どこか断定するような口調だった。その瞬間、ふと最初に電話をかける時の誘い方も思い出した。「電話しない?」じゃなくて、「電話するか。」だった。なんだか不思議な人だなと思いつつ、その少し無愛想な感じが逆に心をくすぐった。
私は誘いに頷き、二人で静かに歩き出す。会話はないのに、不思議と気まずさはなく、むしろ心地よい沈黙が漂っていた。
男性と一緒にいるのがこんなに自然で心地よく感じたのは、初めてのことだった。
歩いているうちに、気づけばお互いの距離がどんどん近づいていた。れんさんの手が、歩くたびに私の手に触れる。そのたびに胸がざわつき、「もしかして…?」と期待が膨らむ。
そして次の瞬間、れんさんは迷いなく私の手を取った。
彼の大きな手が、指先までしっかりと絡めてくる。指先から伝わる温かさに、全身が一気に熱を帯びた。
――恋人繋ぎだ。
一瞬、何が起きたのか理解できず固まったけれど、れんさんの確かな握力に安心感を覚える。そして、告白の言葉はないのに、私たちが同じ気持ちだと分かった瞬間、嬉しさと恥ずかしさが一気に押し寄せてくる。
思わずれんさんの横顔を見上げると、彼は無表情のままだったけれど、その瞳の奥には揺るぎない優しさが見えた。
――この手を、もっとずっと繋いでいたい。
そう心の中で願いながら、私もそっと指先に力を込めたのだった。