少し歩いたところで、Rさんがふとカフェに入ろうと提案してきた。そのカフェは、まるで私の好みをすべて把握しているかのように、雰囲気もメニューも完璧だった。
心の中で、「もしかして、事前に私のことをリサーチしてくれたの?」と疑うほど。彼の店選びは、もう見事に私の心をつかんでしまった。いちいち、ときめかずにはいられない。
カフェに入り、落ち着いた雰囲気の中で彼と話していると、自然と私の家族の話になった。父親が仕事で忙しく、子どもの頃はあまり一緒に過ごす時間がなかったことを打ち明けると、彼は少し間をおいて、「それって…何かしら影響がありそうだね」とクールに呟いた。
でも、その言葉のトーンや瞳には、どこか温かさがあった。
その瞬間、彼が私の心の深い部分を見抜いているような気がして、ふと初対面のはずの彼がとても身近に感じられた。まるでずっと昔から知り合っていたような、不思議な安心感に包まれる。そして同時に、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
彼の穏やかな声と優しい目つきに、気づけば私の心はすっかり彼の存在に引き込まれていた。これが運命の出会いってやつなのかも…なんて、少しだけ思ってしまう自分がいた。
ふと彼がマスクに手をかけた瞬間、私の心臓は一気に早鐘を打ち始めた。これは大事な瞬間だ…でも、心の準備が全然できていない!慌てて目をそらし、まだ顔を見ないようにした。小さく深呼吸をして心を落ち着かせる。よし、覚悟を決めて――。
そして、パッと顔を上げた瞬間、自分の目を一瞬疑った。
そこには、まぎれもなく自分好みのイケメンが、まるで映画のワンシーンみたいに、コーヒーを飲んでいたのだ。
「えっ、見間違い?」と内心パニック。だって、以前だって、何かの拍子にロン毛の中年のおじさんを、ふとした瞬間にイケメンと見間違えたことがあったんだから。
今回も同じように、脳が一瞬錯覚したんじゃないかと疑ってしまった。でも、いやいや、そんなイケメンが、アプリで私と出会って、しかも目の前でデートしてるなんてあり得ない…はず!
それでも、どう見ても彼は紛れもなくイケメンだった。
私はニヤケを必死に抑え込み、できるだけ平静を装おうとしたが、声がいつもより高くなっているのが自分でも分かるし、無意識に体がクネクネと変な動きをしているのを感じて、気持ち悪い自分に気づく。
「ああ…彼になら遊ばれても、まあ仕方ないかも…」と、妙に納得してしまった。
「Rさん、お名前は何て言うんですか?」
「れおだよ」
「れおさん…!」
名前を知った瞬間、何だか一歩踏み込んだ気がして、心の中が少し温かくなった。