「あやつが革命ロシアにいるのか。相変わらず分別のないこと。大戦中は敵国だったでしょうに」
口調こそ穏やかだが、明らかに苛立ちをオフィーリアは隠しきれない。
すざくは思わずはらはらする。先程まで淑女然としたオフィーリアが明らかに怒っているからだ。
「そもそもはあの大戦」
こつりとテーブルの上にカップを置きながら、そう切り出すオフィーリア。
「ドイツがロシアを刺激しなければ回避できたはずですわ。我が国も巻き込まれて、挙句の果てには戦費で借金漬けに。戦後、この船をクルージングに提供しなければいけないのもカティンカのせい。もう!いい加減働くのはやめて引退しようと思ってたのに!高地地方の別荘で、ゆっくりとお茶でも飲んでいるはずが!あの女!」
早口でまくしたてるオフィーリアを横目に、
「まあ、カティンカにも言い分はあるだろうね。大戦中、虎の子のUボートをさんざかオフィーリアに沈められたんだから」
言葉を区切って
「に、してもだ」
壁にかけられた海図を見ながら
「この船は現在、香港に向け日本海を航行中だ。先程のUボートは『誦戦記』の魔法によるものだろう。この海域を一時的に大西洋上の通商破壊作戦を再現し、あり得ない攻撃を仕掛けてきた」
すざくは二人の会話を見て、お互いが親しい関係であることを察する。
『魔法少女』、それは人間の寿命より遥かに長い歴史を歩んできた存在なのである。
「ならば、二の矢三の矢もあると思わないか?先程の攻撃はあまりに後手過ぎた。Uボートはあくまでも偵察任務でその背後に、攻撃の本体があるのでは――」
少しの沈黙の後、オフィーリアは呼吸を整える。詠唱を始めるオフィーリア。目を閉じ、じっと頭をうなだれて。
「私の魔法は、『機械』を操作すること。本来なら数百人の水兵が必要な戦艦も、一人で砲弾の発射から、観測まで何でもこなすことができる。わが大英帝国は『知』によって自然を支配した国。科学の力とわれの魔法の力が合わさることにより、無敵の戦いを行ってきた。この仮装巡洋戦艦『パークス・ブリタニア』とともに――」
空中に丸い輪が描かれる。一本の線がその輪の中を描くようにくるくると回り始める。数個の大きな点がそして、描き出されていった。
「電波探知測距、電波を利用したはるか彼方にいる敵を察知するシステム――わが大英帝国の優れた科学の前に、ドイツだろうが革命ロシアだろうがねじ伏せてみせようぞ。わが力、「知は力なり」の言葉の通り!」
二度目の戦いが始まろうとしていた――