二人の客室はさほど広くはない。寝室と居間。とはいえ、客船の部屋としては上の部類に入ることは間違いなかった。
調度品は程よく使い込まれ、それが旅に安心感を与えてくれるような気がした。
すざくは船旅は初めてである。当然、豪華客船に乗るということも。
「まあ、何事も経験だよ。それが人間を成長させる」
すざくの目の前には見たことのないような白を基調としたドレスが広げられていた。
「ディナーはドレスコードがあってね。僕は第一装の軍服を着させてもらう。すざくは――」
思わず目をまるくしてしまうすざく。
《これを......私が......》
廊下を行く二人。まるでロボットのようにぎこちなく歩くすざくを
「似合っているよ」
「緊張することはない。こういうのは楽しまないと」
そっとすざくの髪を触れる
階段を降りる二人。木製の幅の広い、まるで舞台のような階段。
《ほとんど宮殿だな。学園よりも大きいかも......》
はあ、とためいきをつくすざく。通路の両側にはステンドグラス張りの壁が続く。
給仕に案内される二人。
天井が吹き抜けになっているホール。ここがディナーの会場らしい。
まるで地平線のように部屋の端が霞んで見える。その中ほどに、二人の席があった。
テーブルの上には真っ白なテーブルクロスがかけられ、目を凝らすと白い生地に細かい造作が浮かび上がる。
「豪華だねぇ......」
それしか声がでないすざく。テーブルの上にはいくつものフォークやナイフが並ぶ。学園時代、先生に厳しく仕込まれたテーブルマナーを思い出す。あの時は嫌な思いでしかなかったが、今になってみればありがたいことである。頭の中で何度も手順を思い出す。
なにやらざわざわした雰囲気を感じるすざく。
上品な英語が聞こえる。必死で聞き耳を立てるすざく。しかしネイティブな早い発音に耳が追いつかない。
「――船主のお出ましだよ。大英帝国比類なき豪華客船『パークス=ブリタニア』個人船主、ウェストアビン伯オフィーリア=アイアランドどののおでましさ」
固有名詞の洪水にあっけにとられるすざく。
その二人のそばに、その船主がゆっくりと近づいてきた――