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第6話 赤いシャンデリヤ

 長いまどろみ。夢が繰り返し、繰り返す。

 すざくは夢の中で、一人の少女と出会う。

 最初は同室者ルームメイトの燁子のように見えた。

 近づいてみると、それは今の同室者ルームメイト唯依ゆよりの姿であった。彼女がこちらに気づく。

 手から滴り落ちるのは、赤い液体。そしてその手には赤い藻が絡んだような銀色の細い鋼――


 はっとして、すざくは目を覚ます。

 ベッドの上で天井が見える、いつもの定位置である。

「おはよう」

 無愛想な声は唯依ゆよりのものであった。すでに朝支度を済ませて、本を読んでいるらしかった。

「お、おはよう......!」

 いつもと変わらない朝、変わらない風景である。寝坊な自分を後目に、唯依ゆよりはマイペースに朝の雑事をこなす。

 ベッドから飛び起きたすざくはガウンを引っ提げ、洗面所に行こうと部屋を飛び出した。

 しかし

 不思議な雰囲気をすざくは感じた。

 普段スムーズに流れているはずの廊下に溢れる人の群れ、そして喧騒。はっとしてすざくは、その人の群れをかき分け足早に進む。

その列は寮に併設されていた、日常礼拝所へと続いていた。

 ミッション系の聖アリギエーリ高等女学校には、いくつもの礼拝所が併設されていた。四つの寮それぞれに小さいながらも礼拝所があり、朝に夕に生徒たちが礼拝を行っていたのだ。

 すざくの耳に聞こえるのは『大前のどみ』の名前。列なす生徒たちがしきりに、繰り返していた。

 礼拝所の入り口にはまた、多くの人並みが取り巻いていた。先生や舎監の姿も見える。

 なにかをすざくは感じる。

 そっとその、人並みをよけ、礼拝所の中に立ち入る。

 正面には大きな十字架が鎮座している。そして、広い大理石の床――しかしその上には赤い水たまりが――

 すざくは上を見上げる。

 シャンデリアがいくつもぶら下がっていた。

 そして

 そのシャンデリアの一つが大きく傾いていた。

 そこには

 少女の体がまるでマリオネットのように絡みついて――



 聖アリギエーリ高等女学校は大騒ぎとなる。この華族の子女だけが集まる学校の寮で、あろうことかその子女が『殺される』とは。

 殺された生徒の名前は『大前のどみ』という四年生。

 すざくは部屋のベッドで毛布にくるまり、その名前を思い出す。

 間違いない。

 先日自分たちのことを馬鹿にしていた生徒の一人であった。

 視線を唯依ゆよりの方にうつす。先程と同じように本を読む唯依ゆより。このような状況のために、生徒は全て寮の自室にこもるように連絡があったのだ。

 全く、この事件のことに触れようとしない唯依ゆより。なぜそんなに無感情でいられるのかと思った矢先に――

「怖かったかい」

 唯依ゆよりが本をパンと閉じながら、そうつぶやく。まるで心を見透かされてしまったかのように、声をかけられたすざくは慌てる。

「い、いや......人の死体とか......おじいさまのときはあんな......血とか出てなかったし......」

 唯依ゆよりは頷く。

「戦争でもなければ、そうそう外傷のある死体を見る機会はないしね。この国も西南の役より国内の戦乱は絶えて久しいから。驚くのも無理はない」

 唯依ゆよりはそういうと、お茶を入れるために立ち上がる。

 その時――部屋の扉の音がなる。

 ノック音。

 二人の視線はそちらの方に注がれた。

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