食堂にざわめきが起こる。そして、それに続く沈黙。こつこつと大理石の床を叩く足音が響き渡る。
すべての視線はその音の主に注がれた。
ゆっくりとすざくたちの悪口を言っていたグループのテーブルに、その人影は近づいていった。
手には赤い大きな扇子。背は高く、腰まで伸びる長い髪がまるで川に浮かぶ簾のように、歩くたびに揺れていた。
「......嬉河会長代理さま.....!」
どこからともなく漏れる声。その声に周りの少女たちも目を見合わせる。
数人のお付きを従えながら、会長代理と呼ばれた件の少女は口を開いた。
「四年生、椎名門たか子さんと寄木よしさん。それと三年生の木場芽子さん、大前のどみさん」
会長代理は目の前の少女たちの名前を淀みなくそらんじる。真っ青になるテーブルの少女たち。見下ろす訳でもなく、扇子を構え彼女らを見つめる会長代理の目は静かに向けられていた。
「嬉河会長代理、決して私たちは悪口を言っていたわけではなく......」
すっと扇子を一人の肩の上に乗せる。小さく頷く嬉河会長代理と呼ばれた少女。
「そうそう。わが高等女学校に他人を嘲るような方はいるわけもなくてよ。いるわけも」
そう言いながら、嬉河会長代理はすっと踵を返しすざくらのもとに歩み寄る。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、固まる少女たち。一方すざくも同様に。
噂は聞いたことがある。
この高等女学校の四つの寮を自治的に統括する組織のことを。『ヴィヴォンヌ寮集会』といっただろうか。特に、孟嘗寮の最上級生がその会長代理を務めているという話を聞いたことがあった。
「はじめまして。三年生の物巾部すざくさんと、転校してきた
そう言いながら、嬉河会長代理は深くはないが誠意の感じられる一礼をした。
あわてるすざくを後目に、すっとその場を離れまた入り口へと消えていく嬉河会長代理。
またザワザワと食堂内が、どよめき出す。
「嬉河会長代理さま......初めてみましたわ」
青くなって震えている、先程の少女たちを見つめながらすざくがそうつぶやく。
「会長代理とは?」
こともなさそうに口をふきながら
「ええと......この寮では生徒の自主的な管理に運営が任せられていて、その力は絶大なの」
指で四つの寮の名前をかぞえるすざく。
「平原寮、信陵寮そしてわたしたちの春申寮、一番偉いのが最上級生が住んでいる孟嘗寮でそこに自治会である『ヴィヴォンヌ寮集会』が置かれているの。彼女はそのリーダー。会長代理って言っているけど、実質的なナンバーワン......私はあまり知らないんだけど」
ふうん、と
普段は昼食も別の特別室で喫食し、生徒の前に出ることも珍しいらしい。
『さすがは筆頭高家嬉河家の長女、
『久しぶりに、ご尊顔に拝すること感激ですわ』
あたりで
それにつられてすざくも。
好奇の目が注がれる中、二人は食堂を後にする。
それが、