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第4話 昼食時の嫉妬

 学校生活がはじまる。

 基本、同室者は同じ学年同じクラスであるのが聖アリギエーリ高等女学校のきまりであった。

 燁子がいなくなってからすぐに唯依ゆよりが来てくれたことは、友達のあまりいないすざくにとって何より嬉しいものだった。

 喋り方はなんだか男の子のような感じだが、それ以外概ね満足できる同室者だった。

 必要以上に自分に介入してこない。暇な時間はずっと外国語の本を読んでいる。

 正直、同年代の女の子同士の何とも言えない同調圧力があるようなコミュニケーションをすざくは苦手としていた。その点、唯依ゆよりはそのようなところはない。大人、なのだろうかもしくは外国の個人主義的な習慣になれているのか。いずれにしても、理想的な同室者のめぐり合わせに感謝するすざくであった。

 十二時の鐘がなる。

 天井が高い大理石づくりの食堂。寮の生徒たちは当然、弁当を持ってこない。朝食と夕食は寮でとるのだが、昼食は学校の中のとることとなる。

 ガヤガヤと賑やかな食堂。全学年が一堂に会する訳である。合わせて普段の授業で静かにしなければいけない分、その若いエネルギーを発散しているようにも見えた。

 すざくのむかいに座る唯依ゆより。テーブルクロスの上には黒い色のパンとシチューが並べられていた。それを機械的に食べる唯依ゆよりの姿をじっとすざくは見つめる。

『自分にないものを、葦原さんはいっぱい持っているなぁ......』

 そんなことを最近すざくは感じていた。

 優れた容姿、そして頭脳。

 授業を難なくこなす唯依ゆより。部屋ではあまり勉強しているようには見えないのに、小テストは毎回満点である。レポートなどもほとんど休み時間に作成し、教員からの覚えもめでたいようだった。いつも期限ギリギリまでレポートの作成ができないすざくからみると、雲の上の存在に見えてしまうのだった。

 それに加えて、この容姿。なぜ髪を長く伸ばさないのかは疑問であるが、それでも羨むほどの容姿である。

 はっとするすざく。いつの間にか昼食を終えた唯依ゆよりがじっと少し離れたテーブルを見つめていた。

 そこにいたのは、数人の生徒たち。すざくと目が合うと、なにかにやにやとして口を隠す。

《またか......》

 いじめ、というほどでもないがすざくは彼女らのグループによく笑いものにされていた。

 この学校では『身分』を何より大事にする。

 ここにいるのは華族の家柄の子女のみとは言え、家格も違えば経済的な状況にも大きな差があった。

 物巾部ものきべすざくは子爵の家の出である。物巾部ものきべ家は由来こそ古いが、明治時代以前もそれほど位の高い公家ではなかった。経済的にも、正直ちょっとした企業の部長よりも苦しいくらいである。すざくの父は短歌にしか興味のない風流人で、古びた家と僅かな蓄えがあるのみである。

 そのような『低い』存在を見下して喜ぶのが人の常である。

 くすくすと笑っている少女たちは、皆元大名家の子女たちである。経済的にも財閥といっても良いような実力者ばかりであった。

 一方、唯依ゆよりの葦原家もそれほど家格の高い家ではない。男爵の称号を父親は持ってはういるが、官僚でありそれも奏任官である。官僚となる華族も多いが、殆どは勅任官であった。奏任官は国から報酬をもらって生活する『公僕』とみなされていたのだ。到底、華族のする仕事ではないと。

 そんな唯依ゆよりが目立つことが不愉快なのだろう。普段の授業でも成績が頭一つ抜きん出ている存在が、自分よりも下の存在ということが。

 すざくは大きくためいきをつく。

 間違いなく、自分たちの悪口を言っていることが予想されたからだ。

 唯依ゆよりが遠い目でそれを眺めている。

 すざくはどうして良いか、もじもじするばかりであった――

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