自分の部屋の扉の前に立つ少女。来ている服は聖アリギエーリ高等女学校の制服である。
そっと指の間から少女をすざくは見つめる。
やや短めの黒髪。長い髪がもてはやされていたこの時代にしては、珍しい髪型である。身長のほどはすざくより少し大きくらいだろうか。
すざくは実感する。この見慣れない少女が今日から
すざくはいでたちを整える。一つ息を吸って、
目の前の
「誰かな?」
はっとするすざく。扉の前の少女がいつの間にか、こちらの方を向いていた。
「あ......えと」
すざくは言葉に詰まる。少女は顔色を変えずに、すざくの方を見つめていた。
「僕は
間違いない。同室者であった。
「あ、あの。私もその部屋で......一緒になる......その......物巾部すざくって言います!」
そうすざくは礼をしながら、声を上げた。すっとその前に伸びる右手。
「今日からよろしく」
握手を
《見間違えだったのかな......?》
握手をしながら、そうすざくは自分に言い聞かせる。
なにか引っかかるものを残しながら――
「あ、葦原さんは、外国にいらしたの?」
黒くはあるが、短い髪型。そしてまるで男性のような言葉遣い。
外国帰りであればそういうこともあるのだろうと、すざくは納得する。
「ロシアに。父が外交官でね」
「えっ......今革命中のロシア......?」
驚きを隠せないすざく。女学生とは言え、国際情勢は授業でも重要視されている知識である。将来、国際化に対応できる華族の淑女を育てている以上、当たり前の話ではあったが。
「彼の国では、プロレタリアートの反乱によって帝政も臨時政府も崩壊してしまった。シベリアにお父様はその動乱に対処すべく派遣されていた。僕の家族、もね」
はあー、とすざくは感嘆の息を漏らす。
荷物に洋書が多いのはそのせいなのだろう。
「それは立派なお仕事ですわ。お国のために、そんな危険なところへ」
すざくの素直な感想。普通の人間がいえば、社交辞令に聞こえるところだが、すざくの人柄はそれを感じさせない。それを
「こちらが落ち着いたら、学校の中を案内してほしい。よろしいかな?」
それまでの同室者への不安は、まるでどこかに消えてしまったように――