2023年11月8日 午前3時(ガザ時間)
「くそっ、またか!」
ガザ地区で報道活動を続けているアリは爆音で飛び起きた。カメラを掴み、外へ飛び出すと、地獄絵図が広がっていた。
「なんてこった…」
彼は無意識に呟いた。ジャバリアでは19人、ヌッセイラートで18人。ハンユニスでは少女の遺体が……。パレスチナ保健省は死者43人以上と発表。彼はシャッターを切りながら、心の中で毒づいた。
「これで自衛だと?冗談じゃない!」
怒りを押し殺し、彼は瓦礫に埋もれたマイクを拾い上げた。
「世界に伝えなきゃ…この狂気を」
震える手でカメラを構え、彼は世界に向けて発信した。
「これが、私たちの現実です!」
同日 午前4時(エルサレム時間)
「フン、計画通りだ」
イスラエル国防軍情報将校のダニエルはモニターを見ながらニヤリと笑った。
「ハマスの連中、さぞ驚いているだろうな。地下トンネルもこれで終わりだ」
「将軍、兵士の犠牲も少なくありません」部下の一人が恐る恐る言った。
「仕方がない。これは必要な犠牲だ。祖国を守るためにはな」ダニエルは一蹴した。「それに、発表は33人にしておけ。これ以上、国民を不安にさせるわけにはいかない」
彼はコーヒーを一口飲み、自信たっぷりに続けた。
「奴らは必ず報復してくる。だが、それも計算済みだ。徹底的に叩き潰してやる」
彼は自分が歴史を作るのだと信じていた。
同日 午前9時(ニューヨーク時間)
「ひどい…」
国際連合報道官のミシェルはガザからの報告書を手に、顔を青ざめさせた。「また、こんなことが…」
「報道官、そろそろ会見の準備を」アシスタントが声をかけた。
「ええ、わかっています。でも、何を言えば…」彼女は頭を抱えた。「停戦を呼びかけるしかないけど…効果があるのかしら」
「とにかく、やるしかありません」アシスタントは励ました。
ミシェルは深呼吸をして、会見場に向かった。
「皆様、本日のガザ地区での攻撃について…」彼女は用意された原稿を読み始めた。だが、言葉とは裏腹に、彼女の心は重かった。
(こんな空虚な言葉で、何が変えられるの?)
心の中で呟きながらも、彼女は国際社会の良心であろうとした。
同日 午前10時(秘密基地 場所不明)
「やれやれ、またですか」
paはモニターに映し出されるガザの惨状に、小さくため息をついた。
「コーエン将軍、ずいぶんと派手にやってくれましたね。このままじゃ、本当にマズいことになる」
彼女は感情を顔に出さないが、内心では毒舌だった。
「まったく、この世界はトラブルメーカーばかりだ」
彼女は淡々と情報を分析し、時間軸の分岐点を探った。
「さて、今回はどんな手でいきましょうか」
影の介入
「ふむ、コーエン将軍ですか。典型的な武闘派ですね」
paは彼の過去を調べながら、冷ややかに呟いた。
「おや、こんなところに面白いものが」彼女は、コーエンの不正行為の証拠を見つけた。
「これは使える。派手に暴れてもらいましょうか」
彼女は、情報を匿名で複数のメディアにリークした。
「これで、あなたの傲慢な鼻っ柱をへし折って差し上げます」キーボードを叩きながら、彼女は静かに微笑んだ。さらに、イスラエル国防省にも情報を送り、内部告発を促した。
「さあ、地獄の釜の蓋が開くわよ」
翌日、イスラエルのメディアはコーエンの不正疑惑で持ちきりになった。
「な、なんだと!」ダニエルは新聞を握りつぶした。「誰だ、こんなデタラメを流したのは!」
彼は国防省に呼び出され、取り調べを受けた。「身に覚えがない!これは罠だ!」彼は必死に弁明したが、証拠は揃っていた。彼は停職処分となり、キャリアは地に落ちた。
「くそっ!一体誰が…」
その頃、paは作戦室でコーヒーを飲みながら、事の成り行きを見守っていた。
「さて、これで強硬派の勢いも止まるでしょう。あとは、水面下での交渉に任せるとしますか」彼女は完璧な仕事ぶりに満足していた。「フン、たまにはこういうのも悪くない」
一方、ミシェルは事態の好転に安堵していた。
「皆さんのおかげで、停戦に向けて大きく前進しました!」彼女は笑顔で会見に臨んだ。「関係各国の努力に感謝します」と彼女は言ったが、実際には、背後に見えざる「誰か」がいるとは夢にも思っていなかった。
因果の狭間
ガザの街に、少しずつ活気が戻ってきた。アリは瓦礫の撤去を手伝いながら、人々を撮影していた。
「まったく、ひどい目にあったけど、なんとかなるさ」彼はカメラを肩に、いつものように楽観的に考えていた。
「でも、あのコーエンって将軍、なんで急にあんなことになったんだろうな。誰かが仕掛けたのかな?」彼は首を傾げた。
彼は内部告発の記事を書いた記者に連絡を取ろうとしたが、どうしても見つけることができなかった。「まるで幽霊みたいだな…」彼は諦めて、復興作業に戻った。
「さて、と」
paは、作戦室で全ての記録を消去していた。「これで、この時間軸は安定するでしょう。それにしても、あのジャーナリスト、勘が鋭いですね。もう少しで気づかれるところでした」
彼女は立ち上がり、窓の外を見た。
「平和が続くことを願っています。…まあ、無理でしょうけど」彼女は静かに付け加えた。「私の仕事は、まだまだ終わりませんから」
感情の抑制を解除したpaは、小さなため息と共にコーヒーを啜った。
「ほんと、手間のかかる世界だわ。次はどこで何をすればいいのかしらね。たまにはのんびりバカンスでも行きたいんだけど…」
口には出さないが、過去補填官paの心には、ほんの少しの疲労と、そして未来への責任感が交錯していた。彼女の孤独な戦いは、これからも続く。影絵のように世界に寄り添いながら。