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第32話_戻す力の逆襲

登場人物


fu :未来調整官。人類の未来を守るために活動する。

pa :過去補填官。fuのパートナー。過去の修正を担当。



戦略室 - 2XXX年



fu

(大型モニターのニュース速報を凝視。憂いを帯びた表情で呟く)

ガザ、エルサレム、テルアビブ......報じられるのは紛争と憎悪の連鎖ばかり。リバティ島でのデモ、トルコ、南アフリカ......事態は国際的な広がりを見せ、一触即発の状況だ。このままでは、制御不能な世界大戦に発展しかねない。


pa

(冷静な口調で)

現状分析終了。イスラエルとパレスチナの対立激化を発端として、連鎖的に世界情勢が不安定化。経済、政治、軍事、あらゆる分野で破滅的シナリオへの収束が確認される。修正介入、早急に必要。


fu

分かっている。だが、今回の分岐点は複雑に絡み合い、単一の介入では効果が見込めない。まるで、無数の毒糸が絡み合う蜘蛛の巣のようだ。一つを断ち切れば、別の糸が事態を悪化させる。


pa

事象連鎖を逆算、因果律を遡り根本原因へ介入。戦略立案を急ぐべきね。


fu

分かっている。だが、時間が足りない……「戻す力」が強すぎる……


pa

(モニターに新たなデータが表示される)

南アフリカ政府がイスラエルとの外交関係再検討を表明。各国で同様の動きが連鎖的に発生する確率、上昇中。


fu

包囲網が狭まっている。だが、まだ諦めない。我々には未来を変える力がある。



過去介入 - 2023年11月7日



fu

(薄暗い路地裏、目立たない黒いスーツ姿でスマートフォンを操作)

シファ病院への空爆を阻止する。情報操作と偽情報で、攻撃目標をずらす。


(数秒後、遠くで爆発音が響く。fuは冷静に次の指示を出す)

次、赤十字国際委員会(ICRC)の車列護衛。誤射されないようイスラエル軍の通信システムに介入。位置情報を偽装。


(遠隔操作で、イスラエル軍のレーダーシステムに干渉。医療車両を避けるように軌道修正するプログラムを挿入)


pa

(無線通信)

エルサレムでの襲撃事件阻止。未然に阻止するべく警備体制の強化を誘導。襲撃者の心理状態へ微弱な干渉を試みる。


fu

頼む。だが、無理はするな。「戻す力」が強く、時間跳躍の副作用も強まっている。


pa

了解。



情報操作 - 同時刻



fu

(架空のSNSアカウントを複数操り、偽情報を拡散)

「ガザの病院への攻撃は誤射」 「イスラエル軍戦車は偽装工作によるもの」 「パレスチナ抵抗組織による攻撃声明は捏造」......世論を誘導し、事態の矮小化と混乱を狙う。


pa

(データストリームを解析しながら)

情報攪乱、効果を発揮。ただし、持続性は低い。事象の歪みが「戻す力」を誘発。修正作業、継続が不可欠ね。


fu

世界各地で起きているデモや政治的声明、影響力を最小限に抑える。反イスラエル感情の急激な高まりを抑制し、事態沈静化への時間を稼ぐ。


(トルコ議会の発表、南アフリカ政府の動きに対し、それぞれ影響力の高いインフルエンサーを利用し、反対意見や代替案を提示させ、世論の分裂を図る。)


pa

リバティ島のデモ、鎮静化。主催団体内部に対立軸発生、デモの正当性を疑問視する動き出現。これも「戻す力」による反動かしら。



時間跳躍の後遺症 - 別空間



fu

(激しい頭痛に襲われ、苦悶の表情で床に膝をつく)

時間跳躍の負荷が大きすぎる......。「戻す力」に抗うたび、この苦痛が増す……だが、やらなければ……未来が……


pa

(fuに駆け寄り、診断スキャナーを起動)

脳波の乱れ、深刻。時間軸への干渉の蓄積による時空歪みの影響、危険水域到達。これ以上は無茶よ、命の保証はない。


fu

未来を守るためには、避けられない犠牲だ……それに……この苦痛の原因は、「戻す力」だけではない……何かが……


pa

何かが?


fu

最近の事象修正の難易度が異常に上昇している。原因を調べた結果、一つの仮説に辿り着いた……「宇宙際タイヒミュラー理論」だ。


pa

(驚愕の表情)

多元宇宙間の相互作用が時間軸に影響を? 単なる仮説に過ぎないわ。


fu

現状を説明できる他の理論が見当たらない。「戻す力」は、我々が修正した事象を元の状態に戻そうとする力ではなく、多元宇宙間の均衡を保とうとする力ではないか?


pa

結論を急ぐべきではないわ。証明されていない理論に固執し、判断を誤れば……全てが無駄になる。


fu

分かっている……だが、可能性は捨てきれない。もし、仮説が正しければ……事態はより深刻だ。多元宇宙間の均衡が崩れれば、単なる未来修正では対処できない。



最終局面 - 同時刻



fu

(モニターに映し出される世界各地の混乱を眺めながら)

最悪の事態は回避した。全面戦争の勃発は食い止められた。緊張状態は継続する。一息つく暇もない。


pa

世界各地の状況、安定化に向かいつつある。ただし、「戻す力」による揺り戻し警戒。影響力の高い人物への監視継続を提言するわ。


fu

ああ。そして……「宇宙際タイヒミュラー理論」の検証を急ぐ。この事象干渉が、多元宇宙間にどのような影響を与えているのか……真相を解明しなければ、いずれ限界が来る。


pa

データ解析を優先。「戻す力」と「宇宙際タイヒミュラー理論」の関連性について確証は得られていないわ。


fu

焦るな。確証はないが、兆候はある。多元宇宙間の均衡、時間の流れ、その全てに注意を払う。事象の修正は、局所的な問題ではない。我々が認識している以上に、広範囲に影響を及ぼすのだ。


(モニターに映る混沌とした世界地図を背景に、疲弊しきった表情で未来を見つめるfuとpa。時間調整と過去補填という任務の重圧が二人にのしかかる)


fu

時間はまだある。たとえ無限の可能性を相手にすることになっても、我々は戦い続ける。


(遠くで微かに響くアラーム音。それは、新たな「戻す力」の胎動なのか、それとも……。)

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