「久しぶりにみんなで散歩に行きましょうか」
波留がそんな風に誘ってきたのは、コハルを病院に連れて行った翌週の日曜午後のことだった。
コハルに視線を向けると、ソファーの下でゆったりしている。
「コハルは体調が悪いから、ゆっくりでさせた方がいいよ」
「もう体調は良くなったじゃないですか。おばあちゃんだからって家に引きこもってたら、余計に体力なくなっちゃいますよ」
そう言って、波留は僕たちを半ば強引に連れ出そうとする。うーん……。まだ心配だけど、波留の言うことも正しいか。家に引きこもってばかりいても、足腰が弱って、余計に病気になるかもしれない。
波留の運転でドッグランのある公園まで行って、コハルをそこで走らせる。最初の方は億劫そうにしていたコハルも、他の犬たちに刺激をもらったのか、いつのまにか彼らと一緒に駆け回っていた。
「あんなに楽しそうなコハル、久しぶりに見た」
少し離れたところで様子を見ながら、つい感慨深い気持ちになってしまう。ドッグランに連れてくるのも、ずいぶん久しぶりな気がする。
「連れてきて良かったでしょ」
波留は胸を張り、自慢げに言う。
「コハルよりも波留の方が楽しそう」
「久しぶりに亜樹が口聞いてくれたから」
そんなことを言ってから、波留は僕の顔をチラリと見てきた。
「話してただろ」
「先週からずっと気まずかったじゃないですか」
「あー……まあ……」
そう言われてしまったら、たしかにコハルを病院に連れて行った日から気まずかったかもしれない。お互い仕事が忙しくてあまり一緒にいる時間がなかったのもあるけど、意図的に避けてたかも。
「この前は言い過ぎてしまって、ごめんなさい」
「そんな、僕の方こそしつこくてごめん」
「亜樹は、オレを心配して言ってくれたんですよね」
波留が先に謝ってくれたから、僕も素直に頷く。
「でも、たとえこの先何が合ってもオレの好きな人は亜樹だけだから、再婚してなんて言わないで。亜樹のいない世界なんて考えたくもないんです」
波留の言葉を聞いて、僕はきゅっと唇を噛み締める。
これだから、心配になるんだよ。
考えたくなくても、いずれその日はやってくるのに。
もし波留が玲人みたいな性格だったら、僕が死んでもきっと楽しく生きてるんだろうなって心配しないで済むのに。
「波留が好きだから、幸せでいてほしい。ただそれだけだよ」
「オレもです。一緒に幸せでいましょう」
波留はドッグランで走っているコハルを見てから、僕に視線を向けた。
なんか、根本的に噛み合ってない気がする。気持ちは同じはずなのに、何でなんだろう。
一緒にいれなくなった時にも、波留に幸せでいてほしい。でもそれを言うと波留は怒るし、受け入れない。
年を取らないのは波留の責任じゃないし、これ以上はもうどうしようもないのかな。