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第四十話 不透明な行き先

 波留から空けておくように言われた土曜日。

 ちょうど僕の方は仕事も落ち着いている時期で休日出勤になることもなく、予定通り出かけることになった。とはいえ、僕は行き先を知らないんだけども。


 助手席に乗るように言われ、ただ波留の運転をじっと見守っているだけ。


「どこに行く気なの?」

「行ってからのお楽しみです」


 何度か行き先を聞いてみても、返ってくる答えは同じ。

 昨日遅くまで残業していたにも関わらず、波留は疲れなんて感じさせない顔で運転している。


「運転代わらなくて大丈夫?」

「帰りはお願いします」


 今日は僕が運転しようかって言っても、ずっとこんな感じだし。ほんと、若いよな。僕もまだ二十代のはずなのに、波留ほどの元気はない。


「あのさ、一つだけ聞かせて」


 何を聞いても教える気もないみたいだし、もうこうなったら目的地まで黙って乗っていようかとも思った。けれど、どうしても引っかかることがあって、そう切り出す。


「どうぞ」

「この前の子どもの話と今日の行き先、関係ある?」


 子どもの話をしてた流れで予定空けておいてって言われたら、たぶんそうなんだろうけど。波留はずっと教えてくれないし、結局確証が持てずに今日まで来てしまった。


「オレも一つ確認しておきたいんですが」


 本気で答える気ないみたいだな。気になりすぎたから聞いたのに、質問に質問で返されてしまった。


「亜樹はそもそも子どもが好きなんですか?」


 聞かれて、言葉に詰まる。


 子どもが好き?

 波留の赤ちゃんは、産んでみたい。でも、子どもという生きもの自体が好きかと聞かれると、そうでもない気がする。兄弟もいないし、関わりがなかったからな。


「嫌いじゃないけど、そこまで特別に好きってほどもない」


 嘘をついても仕方ないし、思うままに答える。そうしたら、波留は片手でハンドルを握りつつ、頷いて、前を向いたまま言葉を続けた。


「でも、子どもはほしいんですよね」

「まあ、できたら」


 でも、オメガのフェロモン除去手術もしちゃったし、そもそも一度番った玲人以外の子は産めない。どうがんばっても無理だから、諦めてる。


「子どもがほしいなら、養子をもらうっていう手もあります」

「あー……なるほど……」


 養子か。それはそれでありだけど……。

 でも、僕は本当にそうしたいのか?

 波留の子はほしいし、もし今自分が妊娠したら産みたい。


 けど、そうじゃないのに今すぐ子どもがほしいかって言われると、何か違う気がする。


「そっちは、あんまり考えてなかったな。波留がそうしたいって言うなら、考えるけど」


 と言った後で、そういえば波留は子どもがほしいと思ったことがないと言っていたなと思い出す。発言を取り消す前に、運転中の波留とミラー越しに目が合った。


「オレも同じなんです」

「そうなの?」

「子どもがほしいなんて、今まで一度も考えたことありませんでした。でも、もし亜樹が妊娠したら、絶対産んでほしいし、嬉しいです。亜樹が養子をほしいなら考えますが、でも……」


 途中まで言いかけて、波留は言葉を濁した。


「自分からほしいというほどでもない?」


 波留は一瞬だけこちらに視線を向けてから、コクリと頷く。


「どっちも同じ考えなら、養子はナシだな」


 無理して育てるものでもないと思うし、生半可な気持ちで家族を増やしても、全員不幸になるだけだ。


「もし今後縁があればそういうこともあるかもしれないですけど、とりあえず今のところは考えない方向で」

「うん。で、この話は今日の行き先に関係あるの?」


 まとまったところで、もう一度気になっていたところに話を戻してみる。


「関係あるような、ないような」

「どっちなんだよ」


 結局行き先をはぐらしたまま、家から一時間ぐらいで波留は車を止めた。


 駐車場の先にあるのは、こじんまりとした洋風の一軒家のような店。入り口のところには、オシャレな立て看板があった。ここは、――。

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