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第三十九話 平和

 結婚してから一年、僕たちは平和に暮らしていた。

 仕事もあって、好きな人と一緒に暮らせて、両親との関係も良好。波風も特になかったし、幸せとしか言いようがない毎日を過ごしている。


 大きな病気や怪我もなく、ご近所にも恵まれている。これ以上望んだらバチがあたりそうな生活をしているのに、時々これでいいのか心配になることがあった。


 夜中にふらっとラーメンを食べに行ったり、気が向いたら遠出したり、逆に一日中ゴロゴロしてたり。波留との生活は気ままで、自由だ。僕は波留と二人の気楽な生活を気に入ってたけど、もしココに子どもがいたらどうなるんだろうと時々考える。


 街を歩けば、女性やΩたちが子を連れているところをよく見かけるし、子どもで溢れかえっていた。


 家でテレビをつけても、やっぱり画面の中には子どもがいっぱい映っている。


「波留は、お父さんになりたい?」

「お父さんですか?」

「なりたいと思ったことは一度ないですね。お父さんって、よく分からないので」


 不自然にならないように聞いてみたら、想定外の答えが返ってきて、驚いてしまう。


 波留は、絶対になりそうなんだけどなぁ。


 波留がなりたくないなら、僕が産めなくてちょうどよかったのかな。それか、気を遣ってそう言ってくれてるのか。


「亜樹はほしいんですか?」


 聞かれて、言葉につまる。


 自分が産めない身体だってことだけを気に留めてたけど、ほしいかどうかまで考えたことがなかった。


「できたら、ほしかったかな」


 考え込んで迷っていたら、そんな言葉が口をついて出た。そうか。僕は、子どもがほしかったのか。

 波留によく似た赤ちゃんを産んでみたかったんだ。


「それなら、来週の土曜あけておいてください」


 しばらく間があったのち、波留はそう言った。

 あけておいて、どうするの? とはさすがに聞きづらいよな。


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