結婚してから一年、僕たちは平和に暮らしていた。
仕事もあって、好きな人と一緒に暮らせて、両親との関係も良好。波風も特になかったし、幸せとしか言いようがない毎日を過ごしている。
大きな病気や怪我もなく、ご近所にも恵まれている。これ以上望んだらバチがあたりそうな生活をしているのに、時々これでいいのか心配になることがあった。
夜中にふらっとラーメンを食べに行ったり、気が向いたら遠出したり、逆に一日中ゴロゴロしてたり。波留との生活は気ままで、自由だ。僕は波留と二人の気楽な生活を気に入ってたけど、もしココに子どもがいたらどうなるんだろうと時々考える。
街を歩けば、女性やΩたちが子を連れているところをよく見かけるし、子どもで溢れかえっていた。
家でテレビをつけても、やっぱり画面の中には子どもがいっぱい映っている。
「波留は、お父さんになりたい?」
「お父さんですか?」
「なりたいと思ったことは一度ないですね。お父さんって、よく分からないので」
不自然にならないように聞いてみたら、想定外の答えが返ってきて、驚いてしまう。
波留は、絶対
波留がなりたくないなら、僕が産めなくてちょうどよかったのかな。それか、気を遣ってそう言ってくれてるのか。
「亜樹はほしいんですか?」
聞かれて、言葉につまる。
自分が産めない身体だってことだけを気に留めてたけど、ほしいかどうかまで考えたことがなかった。
「できたら、ほしかったかな」
考え込んで迷っていたら、そんな言葉が口をついて出た。そうか。僕は、子どもがほしかったのか。
波留によく似た赤ちゃんを産んでみたかったんだ。
「それなら、来週の土曜あけておいてください」
しばらく間があったのち、波留はそう言った。
あけておいて、どうするの? とはさすがに聞きづらいよな。