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第三十六話 決意

 本田くんから病院を紹介してもらい、カウンセリングを受けてからは、驚くほどのスピードで物事が進んでいった。


 医者から話を聞いて、フェロモン除去手術を受ける意思を固めた僕は、バイトのシフトを増やしてお金を貯め、手術の予約を入れた。学生の場合は安く受けられるものの、一人暮らしの身としては、けっこうがんばらないと払えない額だった。


 勝手にαと番って、解除されたあげく、今度はフェロモン除去手術を受けたいから少し援助してほしい――なんて、さすがに親には相談できなかったから、一人でがんばるしかなかったんだ。


 だけど、これで波留との関係が前進すると思ったら、バイトのシフトを増やすのなんて、わけもないことだった。


 ワクワクしながら手術までの日々を過ごしていたんだけど、今までよりもずっと忙しくしていたら、波留に怪しまれてしまった。


 最近変ですよね。どうして避けてるんですか、って。


 ほしいものがあるからバイトがんばってるってごまかしておいたものの、疑ってるみたいなんだよな。


 ◇


 無事にフェロモン除去手術を受けて、入院することになった二日目。波留からの電話とメッセージがたくさんきていた。


『昨日から連絡とれないんですけど、何かありましたか?』

『ごめん。体調悪くて、大学休んでるんだ』


 病院で電話はできないから、メッセージアプリを使って返信する。すると、秒で返信が返ってきた。


『看病しにいきます』

『あ、いや、大丈夫。実家に帰ってるから』

『実家に!? それって、かなり重症なんじゃないですか?』

『ほとんど治りかけてる』

『本当ですか?』

『本当だよ。心配してくれてありがとう』

『帰ってくる時、連絡してくださいね。迎えに行きますから』


『分かった』と返信して、スマホの電源を落とす。

 退院は、三日後。波留に会えるのも、三日後だ。

 その時には、もう僕は玲人の影響もだいぶ薄くなっているはず。


 手術は、麻酔をしている間に終わった。

 少し吐き気と倦怠感があるだけで、他に変わったことは何もない。自分の中のΩ性が薄くなった自覚が全くないんだけど、手術は成功だって言われたし、大丈夫だよな。


 次に波留に会う時にはこれまでの僕じゃないと思うと、少し緊張した。

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