目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第三十二話 分かってる

 波留と正式に付き合い初めてから、二回目になる発情期。発情期申請して大学を一週間休み、波留とずっと家に引きこもっていた。


 僕たちが吐き出した欲で濡れたシーツに二人でくるまり、僕の上に覆い被さっている波留の背中にしがみつく。


 ベッドどころか壁にまで白い液体がへばりついているのを見つけてしまい、思わず目を逸らす。けれど、目線を逸らした先にも同じような痕跡があった。もういたるところにドロドロしたモノが飛び散っているし、どっちがどれだけ出したのかも分からない。でも、どうでもいいや。今は……っ。


「玲人……っ」


 求めてやまない波留の名前を呼んだ――つもりだったのに。次の瞬間、波留の動きがピタリと止まった。


「波留です。玲人じゃなくて、波留」


 言われて、ハッとする。

 しまった。無意識のうちに玲人の名前を呼んでしまっていた。


「波留、ごめん。僕、そんなつもりじゃ、」


 熱がサーっと引いていくのが、自分でも分かった。

 さすがにこれは笑えないし、波留にどう謝っていいのか分からない。


「いいんです、大丈夫。分かってますから」


 僕を落ち着かせるように背中を撫でてから、波留は早口で言葉を続ける。


「オレこそごめんなさい。わざわざ言わなくて良かったのに、つい……」


 伏し目がちに言って、波留は小さく息を吐き出した。


「波留……」


 明らかに僕を気遣って言ってくれていることが伝わってきて、胸がズキリと痛む。


「仕方ないことですよ。気にしないで」

「波留、ごめん。ごめん……」


 本当はもっと他の言葉を言うべきなのかもしれないけど、『ごめん』しか出てこない。


「謝らなくていいんです。オレは全然気にしてないので、亜樹先輩も気にしないでください」

「いや、……」


 気にしてないって、絶対嘘だろ。


 波留は、いつも『信じてる』『気にしないで』と言う。

 だけど、どう考えたって、この状況で気にしてないわけないんだ。


「続き、しましょう」


 謝り続ける僕の唇に軽くキスを落とし、波留は僕の身体を起こす。


 波留の膝の上に座らせられる形になって、ぎゅっと彼に抱きつく。


「本当に気にしないでください」


 もう一度念を押してから、波留は僕を揺さぶる。


 申し訳なさしかなかったし、また我を忘れて、意図しないことを口走るのが怖かった。けれど、何度か波留に揺すられたら、すぐに行為に夢中になってしまう。


 お願いだから、僕の中のΩが玲人を忘れてくれますように――。そう願いながら、僕は波留の腕にしがみついた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?