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第二十五話 会いたい

 夏休みの間、玲人から誘われ、用事のない日は彼と会っていた。だけど、何回か会ってみて、やっぱりこいつとは無理かもしれないと思っている。


「なぁなぁ、いつからセックス解禁なの?」


 映画デートの帰り、アパートの階段を登りながら言われた言葉も原因の一つ。口を開けばセックスセックスと、こいつは――。


「ヤることしか頭にないのかよ」

「亜樹もそうだろ?」

「お前と一緒にするな」


 肩に手を回してきた玲人を即座に振り払う。


 最悪だ、こいつ。

 何でこんなやつとやり直す努力をしようなんて思ったんだろ。僕の魂と身体は玲人の番から逃れられなくても、どうがんばっても心は玲人を好きになれそうにない。


 僕は、玲人のΩだ。

 玲人に誘われればぐらついてしまうし、抱かれたいと思ってしまう。


 だからって、それだけが目当てなのもどうかと思う。

 身体の関係も大事なのかもしれないけど、もっと他にも大切なものはたくさんあるはずなのに。


「セックスの相手なら、他を当たって」

「亜樹がいいんだって」

「αなんだから、いくらでも次が見つかるだろ。やっぱりお前とヨリを戻すのは無理だ」

「どこら辺がダメだったん?」

「全部」

「それ、一番えぐい答えじゃん」


 しつこく追いすがってくる玲人を振り切ろうと、早足で階段を駆け上がる。


 自分の部屋がある三階についたところで追いつかれて、玲人は後ろから話しかけてきた。


「そういやさ、元彼と連絡とってんの?」

「連絡取ってるから、今こうして会ってるんじゃないの?」

「俺じゃなくて波留の方な」

「取ってないけど……。何でお前がそんなこと気にするんだよ」

「誰から聞いたか分からないけど、この前俺のバイト先に会いにきたんだよな」


 波留が玲人に会いに?

 思わず振り向くと、玲人は少しだけ首をひねっていた。


「まさかケンカしたわけじゃないよな?」

「いやぁ、俺もそのつもりできたんかと思ってたら、違ったみたいなんだよな」

「違ったって?」

「亜樹先輩には玲人さんしかいないんだから、亜樹先輩を大切にしてほしいってボロボロ泣かれたんだよ。自分じゃ幸せにできないからって」

「え……」

「亜樹のことよっぽど好きなんだな。さすがの俺もなんか良心が痛んだっていうか、可哀想になってきちゃってさー」


 玲人に良心なんてものがあったのは初耳だけど、そんなことよりも波留だ。何であいつ、玲人に会いに行ってるんだよ。もう僕なんて関係ないんだから、放っておけばいいのに。


「だからさ、波留のためにも、俺と亜樹がヨリ戻して幸せにな、」

「帰って」


 玲人が最後まで言い終わる前に、僕はサッと家に入り、目の前でドアを閉めた。


「は? マジ?」


 玲人は『開けて』とか色々言っていたけど、もちろん無視だ。


 波留……。


 ポケットからスマホを取り出し、画面をタップする。

 波留からの連絡は、もう一ヶ月も途切れていた。


 僕には連絡しなかったのに、僕のために玲人に会いに行ってくれたんだね。

 僕の幸せを今も願ってくれていたの?

 波留は、元気にしてる?


 あんな別れ方をしたから僕から連絡なんてできるわけないけど、波留がどうしてるか知りたい。


 波留、……会いたいよ。




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