夏休みの間、玲人から誘われ、用事のない日は彼と会っていた。だけど、何回か会ってみて、やっぱりこいつとは無理かもしれないと思っている。
「なぁなぁ、いつからセックス解禁なの?」
映画デートの帰り、アパートの階段を登りながら言われた言葉も原因の一つ。口を開けばセックスセックスと、こいつは――。
「ヤることしか頭にないのかよ」
「亜樹もそうだろ?」
「お前と一緒にするな」
肩に手を回してきた玲人を即座に振り払う。
最悪だ、こいつ。
何でこんなやつとやり直す努力をしようなんて思ったんだろ。僕の魂と身体は玲人の番から逃れられなくても、どうがんばっても心は玲人を好きになれそうにない。
僕は、玲人のΩだ。
玲人に誘われればぐらついてしまうし、抱かれたいと思ってしまう。
だからって、それだけが目当てなのもどうかと思う。
身体の関係も大事なのかもしれないけど、もっと他にも大切なものはたくさんあるはずなのに。
「セックスの相手なら、他を当たって」
「亜樹がいいんだって」
「αなんだから、いくらでも次が見つかるだろ。やっぱりお前とヨリを戻すのは無理だ」
「どこら辺がダメだったん?」
「全部」
「それ、一番えぐい答えじゃん」
しつこく追いすがってくる玲人を振り切ろうと、早足で階段を駆け上がる。
自分の部屋がある三階についたところで追いつかれて、玲人は後ろから話しかけてきた。
「そういやさ、元彼と連絡とってんの?」
「連絡取ってるから、今こうして会ってるんじゃないの?」
「俺じゃなくて波留の方な」
「取ってないけど……。何でお前がそんなこと気にするんだよ」
「誰から聞いたか分からないけど、この前俺のバイト先に会いにきたんだよな」
波留が玲人に会いに?
思わず振り向くと、玲人は少しだけ首をひねっていた。
「まさかケンカしたわけじゃないよな?」
「いやぁ、俺もそのつもりできたんかと思ってたら、違ったみたいなんだよな」
「違ったって?」
「亜樹先輩には玲人さんしかいないんだから、亜樹先輩を大切にしてほしいってボロボロ泣かれたんだよ。自分じゃ幸せにできないからって」
「え……」
「亜樹のことよっぽど好きなんだな。さすがの俺もなんか良心が痛んだっていうか、可哀想になってきちゃってさー」
玲人に良心なんてものがあったのは初耳だけど、そんなことよりも波留だ。何であいつ、玲人に会いに行ってるんだよ。もう僕なんて関係ないんだから、放っておけばいいのに。
「だからさ、波留のためにも、俺と亜樹がヨリ戻して幸せにな、」
「帰って」
玲人が最後まで言い終わる前に、僕はサッと家に入り、目の前でドアを閉めた。
「は? マジ?」
玲人は『開けて』とか色々言っていたけど、もちろん無視だ。
波留……。
ポケットからスマホを取り出し、画面をタップする。
波留からの連絡は、もう一ヶ月も途切れていた。
僕には連絡しなかったのに、僕のために玲人に会いに行ってくれたんだね。
僕の幸せを今も願ってくれていたの?
波留は、元気にしてる?
あんな別れ方をしたから僕から連絡なんてできるわけないけど、波留がどうしてるか知りたい。
波留、……会いたいよ。