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第二十三話 再チャンス

 玲人から電話がかかってきたのは、お盆期間も終わり、実家からアパートに帰宅した日の深夜だった。


「もっしー? 亜樹が電話出てくれるなんてめずらしいな」


 電話越しに浮かれた声が聞こえてきて、通話が始まって五秒もしないうちに切りたくなってしまった。


「用がないなら、もう切るから」

「おわっ、ちょ、待てって。まだ何も言ってないじゃん」

「用件は?」

「カラオケ行かない?」

「行ってもいいよ」

「なに? 今、なんて言った?」

「デートぐらいなら、してもいいって言ったの。聞こえなかったならいい」

「いやいやいや! バッチリ聞こえたから!」


 『何でお前はそんなせっかちなんだよ』とかゴチャゴチャ言っている玲人の声がうるさくて、通話の音量を二段階下げる。


 僕がせっかちなんじゃなくて、玲人と会話している時間を少しでも減らしたいだけだ。


「つーかさ、いきなりどうしたんだよ? 『何でお前と二人でカラオケなんか行かなきゃなんないんだ』とか、今までの亜樹だったら、そんな感じだったじゃん? あ、もしかして、あの一年と別れた?」

「そう」

「は?」

「別れた」


 別れたというか、そもそも波留とは最初から付き合ってないけど。説明するのが面倒だったので、別れたいうことにしておく。


「あー、マジ? なるほどね。それで元彼の俺が恋しくなったわけだ?」

「なんか勘違いしてるみたいだけど、電話してきたのお前だからな」

「ほんっと、亜樹は素直じゃないよな。俺が好きなら好きって、ちゃんと言えばいいのに」


 やっぱりダメだ。玲人と話してるだけでイライラする。

 一回ぐらいなら、玲人にチャンスを与えてもいいと思った僕が間違いだったかも。


「ムカついてきたから、もう切るわ」

「だから、待てって。まだデートの日とか決めてないじゃん!」

「あとでメッセージで送っといて」

「おい、あ」


 玲人が僕の名前を言い終わらないうちに、容赦なく通話終了ボタンを押す。すぐにまた玲人から電話がかかってきたけど、もちろん無視だ。


 あまりにしつこかったので、スマホの電源を切っておく。


 僕に電話をかけてくるのなんて、玲人と親ぐらいだから、しばらく切っておいたところで問題ないはず。


 波留とは、あれから一切連絡をしてない。僕からもしてないし、もちろん波留からも。


 本当は、波留の声が聞きたかった。でも、あんな振り方をしておいて、僕の方から連絡できるわけないよな。


 波留とは、もう会わないって決めたんだ。

 結局僕は、あの日波留が言っていたように、玲人とヨリを戻すのが唯一幸せになれる道なのかもしれない。


 玲人といるよりは一人でいた方がずっとマシな気がするし、正直好きになれる気は全くしない。だけど、何回断ってもしつこく誘ってくるから、一度ぐらいは僕もあいつとやり直す努力をしてみた方がいいのかも。


 それでダメだったら、それまでの話だ。


「今さら失うものもないしな」


 そうつぶやいて、目を閉じた。

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