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第十四話 告白

 スマホも見つかったので、僕たちはホテルのロビーまで戻ってきた。さっき時間を確認したら、朝の六時過ぎ。今から部屋に戻れば、シャワーを軽く浴びたとしても、朝食の時間には間に合いそうだ。


「残り半日がんばろう」


 見つかったばかりのスマホを左手に持ち、もう片方の手をヒラヒラと振った。


 波留も軽く頭を下げ、エレベーターの方に行こうとする。けれど、少し歩いたところで、波留が急いで引き返してきた。


「やっぱり昨夜のこと、ちゃんと謝らせてください」


 そう言った波留の表情は、真剣そのもの。

 まだ気にしてたのか。……気にするなっていう方が無理なのかもしれない。だけど、掘り起こせば起こすほど気まずくなるし、正直昨夜の一件はなかったことにしたい。


「いいって言ってるのに」

「いや、だって、どう考えてもだめですよ。あんなの」

「覚えてるの?」

「正直うっすらとしか覚えてないですけど、でも、」

「僕もほとんど覚えてない。お互い覚えてないんだから、もう忘れよう」


 覚えてないなんて、嘘だ。

 本当は全部しっかり覚えてる。

 久しぶりのαの熱も、波留に抱かれながらも番を思い出してしまったことも。友達の波留に発情してしまった自分に対しても、自己嫌悪しかない。


「忘れられません。――いえ、忘れたくないです」


 波留はわざわざ言い直し、また真剣な目を僕に向ける。


「好きな人を抱いたのに、忘れられるはずないです」


 はぐらかしようもないぐらいにはっきりと、波留はそう言った。


「あんな形で亜樹先輩と一つになるつもりはありませんでしたし、こんな風に伝えたくもなかったんですが、こうなったら仕方ないですよね」


 続きの言葉を言わせたら、もう友達でいられなくなる。

 分かっていたのに、止められなかった。


「好きです。オレ、亜樹先輩が好きなんです」


 波留に見つめられ、胸に熱いものが込み上げてくる。

 波留は友達で、後輩なのに。ドキドキするなんておかしいのに。


「順番が逆になりましたが、オレの番になってくれませんか?」


 波留は僕の手をぎゅっと握り、まっすぐに気持ちを伝えてくれた。


 番、か。やっぱり、そうだよな。

 自分がαで、好きな人がΩだったら、誰だってそうなりたいと考えるはず。


 抱かれている最中、何度も何度も波留が僕のうなじを噛んできたことが頭を過ぎる。


 やっぱり波留は僕を番にするつもりだったんだ。波留は、僕が番を作れない身体だと知ったら、どんな反応をするのかな。


 そう思ったら、打ち明けるのが怖くなった。

 黙ってたって、いずれ誰かから聞くだろうけど……。


「ちょっと来て」


 ここじゃ、誰に見られるか分からない。

 波留の手を引き、ロビーから少し離れたところに連れて行く。

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