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第49話 あなたは全力を出していない

「──はああああッ!!」

「ぐアアアアアッ?!!」


 カイトとメタルマンのサポートで、片方の炎の四天王の宝石を再度叩っ斬れた。

 しかし、再度半分に切れた宝石が魔力を垂れ流し──


「「「ぐうっ、貴様らあああ!!」」」


 直ぐに体を再構成し、3人に増え出した。

 全員が全く同じリアクションを取っているのが、より同一人物だという事を実感する。

 ック、やっぱり増えてしまうか……! 一応さっきより聖なる魔力を高めた刀身で叩っ斬ったんだけど、これでも駄目か!?


「くっそう! また増えたな!!」

「寿命200年が一人と、100年が二人か。チイ、あの幼女の言っていた1秒にするためには、あと何百、何千回必要だ……!?」


 3人に増えた炎の四天王。

 ボクとカイト、メタルマンで丁度3人ずつ。

一対一だと、それぞれで一時的に抵抗するのは出来るかもしれない。

でもそれだと倒せないから、チームとして上手く立ち回って3対1の状況を作り続ける必要がある。

 けれど、それでも再度増えてしまうと、どう考えても対処出来なくなる!


 一気に連続で分割する必要が出てくるけど、結局どうすれば……!



「ユウカちゃん! 戻ってきてー!」

「ソラ様?」


 そう覚悟を決めていると、ソラ様に呼び出された。


「行って来いユウカ! 俺たちが抑える!」

「仕方ないな!! まあこの程度、楽勝だがな!」


「防衛突破されても大丈夫でーす! こっちで抑えますからー!」


「「「ぐオオオッッッ?!!」」」

「あ、ありがとう! 直ぐに戻る!」


 そう言って、カイトとメタルマンが3人の四天王を足止めしてくれていた。


 ボクはお礼を言って、急いで彼女の元に戻って行く……


 ☆★☆


「ソラ様、どうしました?」


 そう聞くと、彼女は真剣な表情で──


「──ユウカちゃん。あなたまだ、“本気を出していないでしょ”」


 ──え?


「……どういう、事ですか? ボクはいつだって、本気で……」

「ごめん、言い方悪かったかもしれない。あなたまだ、“全力の一撃を使ってないでしょ”」


 そういったソラ様の表情は、予想では無く確実にあると確信している様子だった。


 ……“全力の一撃?”


 そんなことは、無かった筈だった。心当たりが、無い。

 ──今回のループでの、“シャイニング・レイ”の話だろうか?


 唯一の心当たりといえば、それくらいしか無かった。

 ボクの最強奥義に当たるのが、その技だからだ。


 確かに、今回はまだ使った覚えがない。

 しかしループしている間に、その技は一度放っていた経験がある。

 あの時は、炎の四天王に当たったと思ったのに、無傷で現れた覚えがある。

 今思えば、あれはコアの宝石をあまり削り切れていなかったのだろう。


 高出力の光のエネルギーを叩き込む技だが、生身では無い、固い宝石相手だと対して効果的では無かったのだろう。


 ボクの最大火力の“シャイニング・レイ”は、以前メタルマン達との喧嘩で出したあれが最大出力だった。

 あれと同等の威力を、炎の四天王にぶつけたつもりだった。

 つまり、“シャイニング・レイ”単独ではあまり炎の四天王に効果的では無い。

 それなら、直接宝石を刀身で切った方が早い。


 だから、全力の一撃という意味で、“シャイニング・レイ”を使う意味なんて──


「──あ」


 ふと、気づく。

 ある。確かに、ソラ様の言う“全力の一撃”がある。

 でもそれは、使わなかったというより、“実戦で当てるのは現実的じゃ無かった”から、選択肢から最初から外していただけで……


「ユウカちゃん」


 そう考えていると、ソラ様はそっと私の頬に手を添えて……


「──ここには、あなたの信頼出来る仲間が沢山いるよ」

「──ッ!」

「あなたを支える、あなたを守ってくれる人達が、みんな集まってる。……私も、そうよ」


 そう言ったソラ様の顔は、慈愛に満ちていた。


「ソラ、様……」

「……カイトがいる。メタルマンがいる。マホちゃんがいる。私がいる! ──だから、全力で! あなたの渾身の一撃を、お見舞いしてやりなさい!!」

「──はい!!」


 ボクは頷いて、身体を振り返る。

 視線の先には、カイトとメタルマンが炎の四天王それぞれと戦ってる状況。

 それを見て、ボクは聖剣を両手で持って、目の前に掲げる。


「ユウカさん! 防御は任せてください! 最後まで守り切ってあげます!」

「マホ……ありがとう!」


 ボクはその姿勢のまま彼女にお礼を言う。

 彼女がボクの目の前に立ってくれたのを確認して、ボクは準備を始める。


「──告げる。聖剣よ、ここに宣言する」


 ──“詠唱”。

 聖剣との契約を宣言し、その身に宿る精霊との繋がりを成すことで、威力を上げる。


 今まで、実戦で使って来た事はなかった。

 到底、敵の目の前で長々と言葉を紡ぐ時間なんて無かったから。

 実戦には向かない、せいぜい王城での見せ物用の技術としか捉えていなかった。


 ──けれど、ここなら違う。


 メタルマンがいる。

 マホがいる。

 ソラ様がいる。

 ──カイトが、いる。


 彼らがいる今なら、この技術は逆境を打破する、希望の光となる。


「──光の精霊よ。我が問い掛けに答えよ。我が身、人の敵に相対する。貴殿よ、その輝きを示したまえ」


 ……普通の“シャイニング・レイ”ではダメ。宝石を消し切れない。それは分かってる。

 ならばどうするか。


「──火の精霊よ。我が問い掛けに答えよ。我が身、人の敵に相対する。貴殿よ、その情熱を示したまえ」


 ──もっともっと威力を上げれば良いだけだ。宝石を、消し去るくらいに。


「──水の精霊よ──」


 だから、みんな……カイト。もう少しだけ、お願い。

 “ワタシ”は、そう心の中で彼らに頼んでいた……




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