──割れた宝石それぞれが、禍々しい魔力を垂れ流す。
「っ!! このっ!!」
「ちいッ!!」
嫌な予感がしたのか、カイトとメタルマンがそれぞれの宝石に対して消化器とアイスレーザーを放ちだす。
しかし、彼らの対策も虚しく、だんだん割れた宝石からそれぞれ炎が湧き出てきて──
「──ああ、全く……」
「──やってくれたな、貴様ら……」
「──嘘、だろう?」
絶望的な、光景。
──そこには、炎の四天王が“二人”現れていた。
倒した筈の相手が、二人に分裂して現れる。……悪夢以外の何物でも無かった。
「コアを壊せば、“俺様”を倒せるとでも思ったか?」
「……違うな。コアがある限り、“オレ様”は消えない」
「「貴様は、コアを消していない」」
その言葉に、いち早く反応したのはソラ様だった。
驚愕した表情で、口元を手で押さえながら驚きの声を上げる。
「嘘でしょ……!? 本体から送られてきた情報の、“宝石がある限り、アイツは復活し続ける”って……“宝石そのものが存在する限り倒されない”って、そういう事!? つまり叩っ斬っただけじゃだめ、宝石の存在自体何とかしない限りダメって、そういう意味だったの!?」
「嘘ですよね!? 丸わかりの弱点のコア壊したんだから、大人しく倒されてくださいよ!? なんですかそのチート性能!?」
彼女の隣に居たマホも、炎の四天王の規格外さに驚きを隠せないでいた。
動揺の走るボク達の中で、カイトが反論するように声を上げる。
「けど、コアを真っ二つに叩っ斬ったのは事実なんだ!! 絶対、何らかの弱体化はしてる筈! そういうセオリーだろコレ!」
その言葉に、ボクもハッと気を取り直す。
そうだ、ルビーを真っ二つにしたのは事実なんだ。
炎の火力が半減とか、そういう弱体化は期待出来るかも。
そう持ち始めた希望は……
「……ああ、そうだ。弱体化はしたな」
「ああ、貴様らの予想通りだ」
炎の四天王が、荒々しい声色で肯定する。
努めて冷静さを保とうとしているが、苛立ちを隠せないようだった。
そんなアイツから出てきた言葉が……
「「──おかげで、“俺様の寿命は半分に減った”」」
『──ッ?!』
……寿命が、半分?
炎の四天王に対して、それは確かに快挙と言える成果ではあるだろう。
けれど……
「……斬られなかったら、“400年”は余裕で過ごしていただろう」
「貴様らのせいで、“200年”ずつしか生きられなくなった」
話していくたびに、怒りが勝っていったのだろう。
プルプルと震えた両腕を大きく広げ、大声を上げる。
最早怒鳴り声となったそれで、ボク達に宣言してきた。
「「──この落とし前、貴様らの命だけでは物足らん!! 苦しんで、絶望の中に落ちて貰おうかぁ!!!」」
その言葉と共に、高熱の衝撃波が二人から発生する。
それは、先ほど一人だった時の威圧が単純に二倍になったようで。
「──おいおいおい!? まさか火力は据え置きか!? 寿命が半分になったとは言ってるが、コレじゃ単純に四天王が二人になっただけじゃねーか?!」
カイトの悲痛の叫び声が聞こえてくる。
せっかく倒したと思ったのに、単純に敵の戦力が二倍だ!
しかも、本当に絶望的なのはそれではなく……
「つまり、コアを破壊すればするほど“コイツ”が増えるという事だろう!? こんなのどうやって倒せば良いんだ!?」
そう、メタルマンの言う通りだった。
アイツの言い分が正しければ、コアをただ切るだけではほとんど意味が無い。
斬れば斬るほど、あの炎の四天王が増え続けてしまう!
そんなの……そんなの、どうすれば……
再び、ボクの心に絶望が覆いかぶさって行く中────
「──なるほど、絶望的ね。だけど、“対処法が無いわけじゃ無い”」
『──っ!?』
そんな声が、響き渡る。
ソラ様が、出した声だった。
彼女の目は、一切諦めていなかった。
「「……なんだと?」」
「あなた、言ったわよね? “寿命は確かに半分”になったって? つまり、宝石を砕けば砕くほど、お前の寿命は減って行くわけ……」
なら話は簡単。ソラ様はそう言って……
「──“寿命が残り1秒位になるまで、粉々に砕け続ければ良い話でしょ!!”」
────。
シンプル過ぎる、結論。
「──ソラ、お前……」
「何よ!! 間違った事言った!?」
「……いや、そうだな。それしか、方法はねえよなぁ!!」
カイトは、ソラ様に対して呆れたような目をしたと思えば……直ぐに気合を入れた表情に変わっていた。
ソラ様の方法はある意味、脳筋の極地と言えるだろう。
けれど……間違えた考え、というわけでは無かった。
「……なるほど。それならまだ手持ちの装備で、何とかなるか?」
「だったら! それまで私のシールドで攻撃を防ぎ続けます!!」
メタルマンと、マホも、気合を入れ直している。
──ボクも、覚悟を決めた。
「「──ふざけた事を……!! 良いだろう、その希望とも言えない愚策ごと、貴様を叩き潰してくれるわ!!」」
それを見た炎の四天王は、より苛立ちを感じていた。
ボク達に対して、さらに敵意を強めたようだ。
そうして、二体の炎の四天王は再度威圧を放つ。
ここからが、本戦。
本当の、総力戦の始まりだ──