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第48話 砕けた宝石は、宝石だ

 ──割れた宝石それぞれが、禍々しい魔力を垂れ流す。


「っ!! このっ!!」

「ちいッ!!」


 嫌な予感がしたのか、カイトとメタルマンがそれぞれの宝石に対して消化器とアイスレーザーを放ちだす。

 しかし、彼らの対策も虚しく、だんだん割れた宝石からそれぞれ炎が湧き出てきて──


「──ああ、全く……」

「──やってくれたな、貴様ら……」


「──嘘、だろう?」


 絶望的な、光景。

 ──そこには、炎の四天王が“二人”現れていた。

 倒した筈の相手が、二人に分裂して現れる。……悪夢以外の何物でも無かった。


「コアを壊せば、“俺様”を倒せるとでも思ったか?」

「……違うな。コアがある限り、“オレ様”は消えない」

「「貴様は、コアを消していない」」


 その言葉に、いち早く反応したのはソラ様だった。

 驚愕した表情で、口元を手で押さえながら驚きの声を上げる。


「嘘でしょ……!? 本体から送られてきた情報の、“宝石がある限り、アイツは復活し続ける”って……“宝石そのものが存在する限り倒されない”って、そういう事!? つまり叩っ斬っただけじゃだめ、宝石の存在自体何とかしない限りダメって、そういう意味だったの!?」

「嘘ですよね!? 丸わかりの弱点のコア壊したんだから、大人しく倒されてくださいよ!? なんですかそのチート性能!?」


 彼女の隣に居たマホも、炎の四天王の規格外さに驚きを隠せないでいた。

 動揺の走るボク達の中で、カイトが反論するように声を上げる。


「けど、コアを真っ二つに叩っ斬ったのは事実なんだ!! 絶対、何らかの弱体化はしてる筈! そういうセオリーだろコレ!」


 その言葉に、ボクもハッと気を取り直す。

 そうだ、ルビーを真っ二つにしたのは事実なんだ。

 炎の火力が半減とか、そういう弱体化は期待出来るかも。

 そう持ち始めた希望は……


「……ああ、そうだ。弱体化はしたな」

「ああ、貴様らの予想通りだ」


 炎の四天王が、荒々しい声色で肯定する。

 努めて冷静さを保とうとしているが、苛立ちを隠せないようだった。

 そんなアイツから出てきた言葉が……


「「──おかげで、“俺様の寿命は半分に減った”」」


『──ッ?!』


 ……寿命が、半分?

 炎の四天王に対して、それは確かに快挙と言える成果ではあるだろう。

 けれど……


「……斬られなかったら、“400年”は余裕で過ごしていただろう」

「貴様らのせいで、“200年”ずつしか生きられなくなった」


 話していくたびに、怒りが勝っていったのだろう。

 プルプルと震えた両腕を大きく広げ、大声を上げる。

 最早怒鳴り声となったそれで、ボク達に宣言してきた。


「「──この落とし前、貴様らの命だけでは物足らん!! 苦しんで、絶望の中に落ちて貰おうかぁ!!!」」


 その言葉と共に、高熱の衝撃波が二人から発生する。

 それは、先ほど一人だった時の威圧が単純に二倍になったようで。


「──おいおいおい!? まさか火力は据え置きか!? 寿命が半分になったとは言ってるが、コレじゃ単純に四天王が二人になっただけじゃねーか?!」


 カイトの悲痛の叫び声が聞こえてくる。

 せっかく倒したと思ったのに、単純に敵の戦力が二倍だ!

 しかも、本当に絶望的なのはそれではなく……


「つまり、コアを破壊すればするほど“コイツ”が増えるという事だろう!? こんなのどうやって倒せば良いんだ!?」


 そう、メタルマンの言う通りだった。

 アイツの言い分が正しければ、コアをただ切るだけではほとんど意味が無い。

 斬れば斬るほど、あの炎の四天王が増え続けてしまう!

 そんなの……そんなの、どうすれば……


 再び、ボクの心に絶望が覆いかぶさって行く中────


「──なるほど、絶望的ね。だけど、“対処法が無いわけじゃ無い”」


『──っ!?』


 そんな声が、響き渡る。

 ソラ様が、出した声だった。

 彼女の目は、一切諦めていなかった。


「「……なんだと?」」

「あなた、言ったわよね? “寿命は確かに半分”になったって? つまり、宝石を砕けば砕くほど、お前の寿命は減って行くわけ……」


 なら話は簡単。ソラ様はそう言って……



「──“寿命が残り1秒位になるまで、粉々に砕け続ければ良い話でしょ!!”」



 ────。

 シンプル過ぎる、結論。


「──ソラ、お前……」

「何よ!! 間違った事言った!?」

「……いや、そうだな。それしか、方法はねえよなぁ!!」


 カイトは、ソラ様に対して呆れたような目をしたと思えば……直ぐに気合を入れた表情に変わっていた。

 ソラ様の方法はある意味、脳筋の極地と言えるだろう。

 けれど……間違えた考え、というわけでは無かった。


「……なるほど。それならまだ手持ちの装備で、何とかなるか?」

「だったら! それまで私のシールドで攻撃を防ぎ続けます!!」


 メタルマンと、マホも、気合を入れ直している。

 ──ボクも、覚悟を決めた。


「「──ふざけた事を……!! 良いだろう、その希望とも言えない愚策ごと、貴様を叩き潰してくれるわ!!」」


 それを見た炎の四天王は、より苛立ちを感じていた。

 ボク達に対して、さらに敵意を強めたようだ。


 そうして、二体の炎の四天王は再度威圧を放つ。

 ここからが、本戦。

 本当の、総力戦の始まりだ──




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