──マホがこの調子で、無事に今日を終えられるのだろうか。
とまあ、そんな事を心配して思っていたのだが……
【ジェットコースター】
「きゃああアアァァァアアっ?!! スピードが凄いですううぅぅぅッ?!! なんとかして、魔法で強制ブレーキを!!」
「逆に危ねえから止めろおおおおああああああッ?!!」
「あは、あハハハハハッ!!!」
【モンスタートロッコ】
「か、怪物が通り過ぎていました!! 私の魔法で……!」
「やらなくて良いから! 安心しろ!!」
「あは、あハハハハハッ!!!」
【シャーク・レイク】
「さ、サメが沢山です!? 魔法弾、発射ーっ!!」
「止めてー!?」
「あは、あハハハハハッ!!!」
【スイーツキングダム】
「うーん♪ このパフェ美味しいですー♪」
「すいませーん!! このデラックスアイスクリームおかわりー!」
「お腹壊すぞお前!?」
【コスモ・ウォーズ】
『よく来たな貴様達。このフラッシュセイバーの餌食となってくれよう……』
「ようやく出ましたね悪の組織!? 先手必勝です! ミラクルチャージ、発射ー!!」
『え』
「ストーップッ?! すんませんお邪魔しちゃってッ!?」
「あは、あハハハハハッ!!!」
【ファンタジーパレード】
「物凄くキラキラした物達が並んでます!? むむ、敵が潜んでいるかもしれませんね! サーチ魔法で確認しましょう! 多少光が目立ちますが致し方ありません!!」
「パレード中の撮影フラッシュは厳禁だっつーの!?」
「あは、あははははははははっ♪♪♪」
──くっっっっっっっっっっそ、疲れた…………
俺はベンチに両肩だらりと下げながら、天を仰ぎみながらそう心の底から思っていた……
畜生、マホの野郎比較的現代に近い世界の出身だから苦労は少ないかなと思っていたら、常在戦場の意識が抜け切れてないせいか、逆にツッコミどころが多すぎる……
事ここに至って、ある意味常識自体は理解しているソラより問題児になってやがるとは予想外すぎるだろぉ……
このソラも、各アトラクションでほぼ笑ってるだけのbotマシーンになってやがったが、役に立たない代わりに迷惑はしていないと言う点ではマシだったのが酷え。
「あー、楽しかった!」
「はい! すっごい楽しめました!」
「そーかい、それは良かったなぁ……」
俺は天を仰ぎ見たまま、そう答えていた。
まあ、なんやかんやでマホが遊園地満喫出来ているようなのは良かったが。
それはそれとして、正直暫くベンチから立ち上がりたくねえ……
「何言ってるのカイト!! まだ回ってるアトラクション半分も行ってないわよ!? ここからが後半戦でしょ!?」
「えー、もう疲れたよぉ……少し休もうぜ」
「あはは……実は私も、体力は問題無いんですが、気が張り詰めていたせいか少し疲れてしまって……」
ああ、良かった。マホもちゃんと疲れを感じていたんだな。
ちょうど良い、2:1で休憩に票が多いな。このまましばらく休もう、うん。
「っち、しょーがないわねえ。じゃあ少し、“コレ”を使いますか……」
あん? と、気になる言葉を言ったソラの方を見ると、手元には……
「それって、午前中に出していた【サブ・クリスタル】ですか?」
「そうよー。これを使うの」
それは、見覚えのある例の小さなクリスタルだった。
比較的人気が少ない場所だから、小学生がクリスタルを持ってる目立つ光景は見られていない。
けどそんなものを取り出して、どうするつもりなんだ?
「これを使って、“クイック・ロード”をするわ」
「あ? ロード? ちょっと待て、それ今使ったら、マホは俺の自宅に一直線じゃねーのか?」
「あわわ!? もう帰っちゃうんですか!?」
確か今までロードを使った奴らは、自宅のセーブクリスタル本体の前に転移状態で現れるはずだ。
距離が離れすぎてはいるけど、ここからでも同じ結果になるんじゃないかと思ったんだけど……
「チッチッチ。違うわ、それは普通のロード。こっちは“クイック・ロード”。簡易的なロードね」
「……? どう違うんだ?」
「普通のロードって、“その人の世界ごと巻きもどるじゃない?” これは違うの、“本人の状態だけ戻すの”。発動権は私にあるから、私が発動するわね」
そう言って、ソラはマホに近づいて空いた片手で彼女に触れると……
「“クイック・ロード”!!」
「っ!!」
そう叫ぶと、シュワンッ! と、マホの体が一瞬光に包まれる。
光が治った後、マホが自分の体を見渡すと……
「これは……!? 体がすっごく元気になりました!? 精神的な疲れもなくなってます!!」
「ふふん、どうよ。“その場で本人の状態だけセーブした時に戻す”のがクイックロードの力よ。私は分神だから、【サブ・クリスタル】のエネルギーが必要なんだけど、回数制限付きの回復魔法と捉えてもらっても過言じゃないわ」
「おいおい、スッゲー便利じゃねーかそれ」
まさか、あの【サブ・クリスタル】にそんな使い方があったなんて……
これなら外出中、大怪我した時にわざわざロードして家に戻らなくても、その場で回復行為が出来る。
小回りが効く、便利な能力じゃねえか。
「私も、“クイック・ロード”! よし! これでみんな元気になったわね!!」
「はい! よかったです!!」
「これで後半のアトラクション、すぐに回れるわよ! まだまだ満喫するわよー!」
「おおー♪」
「……いや、ちょっと待て」
そうして、喜んでいる二人だったが……俺が待ったをかける。
「……俺は? 俺の分の“クイック・ロード”は?」
俺だけ体力回復してないんだけど? そう言うと……
「だってカイト、“セーブ使ってない”じゃない」
データがないから無理よ。そう言われてしまった。
当然の話だった。
「……ちょっと待て、じゃあ俺だけ疲れた状態のまま? だったらもう少し、休憩したいんだけど……」
「…………」
そう訴えると、ソラは黙ったままニィ……といった表情をして。
──直後、マホを連れてダッシュしやがった。
「おいいいいッ?!!」
「さあ、いくわよマホちゃん!! 足手まといは置いておいて、遊園地まだまだ満喫するわよ!!」
「ええ、良いんですか!?」
「良いの良いの! さあいくわよー!!」
良くねええええ!?
ソラはともかく、今のマホを目を離したらどんなトラブル起こすか分らねえだろうが!?
お前ストッパーになってないんだから、お前ら二人だけだと意味ないだろおおお!?
「待てやコラああああッ!!!」
そうして、俺は疲労の体を鞭打って、笑い声を上げながら逃げる二人を急いで追いかけて行ったのだった……