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第24話 魔法少女と遊園地①


「──やって来たぞ、ネズミーランド!!」

「わはー、壮観ね!」

「す、凄いです!! 人がこんなに!?」


 俺達は、早速テレビで放送していた遊園地に到着していた。

 既にお昼は過ぎているが、まあ今からでも十分遊べるだろう。

 交通機関自体はマホの世界でも同じような物があった為、スムーズに来れてとても良かった。


 ちなみにマホの姿は、変身した魔法少女の姿ではなく私服になって貰っている。

 ユウカの全身鎧ほどではないにしろ、魔法少女も十二分に目立つからな。

 幸い、マホの元の姿はこっちの世界でも全然おかしくない程度の私服だったので、服を買う必要が無くて助かっている。


 それはともかく。

 マホがびっくりしたような表情で俺の方を見て聞いて来た。


「こ、こんなに人が沢山集まって大丈夫なんですか!? こんなの、悪の組織に襲ってくださいと言ってるようなものじゃ……!?」

「悪いが、こっちの世界にはそんな懸念するような悪の組織はいなくてな……まあ、悪人がゼロという訳ではないけど、比較的平和だな」

「ほへー……」


 そう言って、マホはあたりの人だかりを口を開きながら見渡していた。

 おいおい、人混みを見るのもいいけど、もっと見るべき物があるだろう?


「寧ろ、今日のメインは人じゃなくて、遊園地だ。そら、正面見ろ」

「呼んだー?」

「悪い、今のは俺が悪かった。ソラは呼んでない。無意識に洒落になってた」


 そんなちょっとしたミスは置いておいて、俺達はゲートを潜って、マホに前を見るように言う。


 ──そこには、夢の国の世界が広がっていた。


 一際目立つ大きなお城。

 でっかい湖と真っ白い船。

 山に連なるトロッコのアトラクション。

 園外まで続くジェットコースター。

 お客さん達に触れ合っているマスコットキャラの着ぐるみ達。


 どれも人を楽しませる存在として、この場所に集った物達だった。


「っはわー…………すっごい……っ」


 マホは、一度に沢山のそれらを見て、声が出ないほどの衝撃を受けたようだった。

 先ほどとは比べ物にならないほどの目の見開きと、口のポカーンと開いた顔が印象的だった。


「どうだ、凄いだろう? 驚くのはまだまだ早いぞ、アトラクションまだ一つも巡ってないんだからな」

「アトラクション?」

「遊園地に付き物の、遊べる乗り物やショーの事よ。パンフレットあるから、これを見なさい」

「あ、ありがとうございます……うーん、これ、何が書いてあるか良く分かりませんね……」


 そう言って、ソラから手渡された物を受け取ったマホだったが、どうやら見てもチンプンカンプンらしい。

 文字は通じるのだが、遊園地自体に縁が無かったからか、どう見ていけばいいのか分からないようだった。


「そう? しょーがないわねえ、私が案内してあげなきゃいけないって事ね! 任せなさい! 私は遊びのプロよ!! 今日は一日中、遊び倒してやるんだから!!」

「スッゲー自信だなあ、おい。一応聞くけどソラお前、遊園地来たことあるのか?」

「無いわ!!」

「だろうな」


 分かり切った答えを、そうだろうと受け止める。

 だってこいつ、仮にも女神だもんな。普通人の作った遊園地に来る機会なんて無さそうだもんな。

 寧ろマホ以上にワクワクしてんもんな、お前。大丈夫なのか?

 そう思ってると、心配いらないわ! とソラは言い張った。


「こう言うのはパッションよパッション!! その場のノリに合わせていけば、大体大丈夫なものよ! そう言うもんでしょ遊びって!」

「んー、まあ、せっかく遊園地に来たんだし、深いことは考えるのはよしとくのが良いか……うし、じゃあどこから向かう?」

「まずはジェットコースター行きましょう、ジェットコースター!! 開幕といえばこれよ!」

「ジェットコースター? って、なんですか?」


 マホのその質問に、アレ、と指差すソラ。

 そこには、例の園外まで続いてる目玉の巨大ジェットコースターが見えた。

 今ちょうど、乗り物が高速移動で動いている様子が見えて、それを見たマホは……


「……拷問ですか?」


 と、一言呟いていた。

 うーん、ある意味否定し辛い。


「え? なんですかあれ? あんなすごい勢いで動いている物に、人が乗ってる? 振り飛ばされるじゃ無いですか!? 生身の人間がそんな事になったら、死んじゃいますよ!!」

「ちゃんと安全バーがあって固定されているから、大丈夫よー」

「え? そうなんですか? ……でも、それはそれで動けないって事ですよね? 大丈夫です? 敵に狙われたら逃げ道ないですよ」

「だから敵はいないんだって、この世界には」


 ジェットコースターを初めてみて恐怖を覚える奴は珍しくないが、敵に襲われる事を心配する奴は初めて見た。

 まあ、戦い漬けだったらしいし、異世界だからって心配するなって言われても、すぐには実感し辛いか……


「と言う訳で、あれ乗りましょう!! 最初はインパクトのある奴に、ドーンと乗らなきゃ!!」

「……分かりました。その前にちょっと待って下さい。この辺りで、人気の無い所ってありますか?」

「ん? 園内トイレなら、さっきそこで見たけど」


 それを聞くと、じゃあちょっと行って来ます、と女性トイレに向かって行ったマホ。

 お手洗い? いやじゃあ、さっきの人気のない場所って……

 そう思って、少し経ってマホが出てくると。


「お待たせしました! さあ行きましょう!!」

「“お前変身して来やがったな!?”」


 なんと言う事でしょう。そこには変身した魔法少女マホが。ってちょっと待てえ!?


「お前目立つから私服にしろって言ったよな!? なんで今変身してるんだよ!!」

「良いじゃないですか!! こっちの方が耐久性高いんですよ! 万が一があったら危険じゃないですか!!」


 俺の言葉に、そう反論してくるマホ。

 っく! 確かに異世界人からしてみれば、遊園地未経験でジェットコースターは身の危険を感じても無理は無いのか……!?

 俺は安易に、そんな事は無いから安心しろ、と言っても説得力が無いと自覚していた。

 するとソラが周りを見渡しながら、問題無いでしょ、と呟いてくる。


「まあ、遊園地外ならともかく、既に園内に入った以上、単なるコスプレとして見間違われるから大丈夫でしょ。ほら、あそこにもすごいファッションした人がいるし」

「ん? うわ、本当だ凄いゴスロリだ。あれと比べると、確かに魔法少女衣装もそこまでおかしくないか……?」

「そうです! もともと私の世界でも魔法少女は一般的な物だったので、正体隠す必要は無かったんです! この格好が普通なので、やっと私にとって当たり前に戻ったのです!」


 ふんす! っと鼻息を立てて自信満々に言ってくるマホ。

 まあ、確かにコソコソする必要無かったのに、急に隠せと言われても意識の切り替えは難しいよな。

 この遊園地内なら、他にもコスプレしている人たちがいるから、いくらでも誤魔化せるだろう。


「まあ、それならいっか……それじゃあ、改めてジェットコースター向かうか」

「はーい。“マジックバリア”、“ガードオーラ”、“デフェンスアッパー”、“フラワーシールド”、“スフィアバリア”……」

「いやおいおいおい!? 何やってんの!? なんか変なバリア的な物が貼られてるんだけど!?」

「私、“防御魔法が得意”なんです! これでどんな状況に陥ってもへっちゃらですよ!」

「誤魔化せなくなるからそれ止めろぉッ!!」


 やっぱりまだ怖がってんなテメエ!?

 そうして、最低限視覚に反映されない魔法だけ許して、やっと俺達はジェットコースターに向かうのだった。

 やべえ、これ思った以上に大変なおもりになるかも……

 俺はそんな心配をしだしていた…… 


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