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第23話 ロードのプチ悪用

「──カイト!! チャーハン2人前追加!!」

「あいよぉッ!!」


 その言葉を受けて、俺は溶き卵をフライパンに浸して、直後に冷や飯を投入。

 冷や飯は軽く水洗いをして、完成時にパラパラになるよう工夫も入れている。

 しばらくほぐした後、塩、胡椒を振って各種具材を追加。

 調味料を注ぎ込み、パラパラになるまで炒めたら完成だ。


「へいっ!! チャーハン2人前お待ち!!」

「はい! ご注文のチャーハン2人前よ!!」

「わーい♪ ありがとうございます!」


 ソラに持ち運ばれていったチャーハンを、ありがたく受け取るマホ。

 一人前を目の前に置いて、レンゲで掬って口に運び込んでいく。


「ん〜! 美味しい〜♪ ありがとうございます! 次はラーメン2人前で!!」

「カイト! ラーメン2人前追加!!」

「あいよぉッ!!」


 チャーハンを食べながら、さらに追加の注文をしてくるマホ。

 美味しそうに食べ上げていき、2人前をペロリと平らげている。

 そこに丁度、ラーメンが仕上がった所だ。


「へいっ!! ラーメン 2人前お待ち!!」

「はい! ご注文のラーメン 2人前よ!!」

「はーい♪ ありがとうございます!」


 そうして、マホの目の前に並べられるラーメン2つ。

 しかしそれを見て、ケプッと軽いゲップをする少女。


「うーん、しかしチャーハン2人前でお腹がいっぱいですね。せっかく美味しそうなのに……でも大丈夫!! こんな時こそ、“ロード!!”」


 そうして、誰に言ってるのか分からないセリフと共に、ロードを宣言する。

 直後マホの姿が消えて、セーブクリスタル前に現れる。そして、再度テーブルの前の椅子にやって来て座り込んだ。


「お腹ペッコペコになりましたー! いっただっきまーす!! うーん、これも美味しい〜!!」


 そうして、ラーメン二杯をズルズルと啜っていくマホ。

 その途中で思い出したかのように、追加注文をしてくる。


「すみませーん!! 唐揚げ定食4人前お願いしまーす!!」

「カイト! 唐揚げ定食4人前追加!!」


 そうして、唐揚げ定食を作り上げて提供した後、またロードを宣言して席に座り直したマホ。

 先にサバの味噌煮を追加注文してから、唐揚げ定食をペロリと全て平らげる。


「サバの味噌煮追加ぁッ!!」

「すみませーん、コロッケとエビフライお願いしまーす!」

「カイトー!! 親子丼も追加だってー!!」

「後、餃子と焼売と、焼鮭とサラダと豚汁もお願いしまーす!」


「うーん! どれも美味しい〜♪♪」


「いや、食い過ぎだわテメエええええええッ?!!」

「あ、ようやくキレたわね」


 バンッッ!! っと、思わずキッチンの台を叩いで叫んでしまった俺。

 いや、俺もツッコミが遅かったけども!! ここまでノリに乗ってしまったけども!!


「どんだけ食ってんだおめえはよお!? 一体何がしたかったんだ!? セーブポイントで確かめたい事があるって言うから付き合ってやったのに、何の意味があるんだこれ!?」

「はい! ロードをすると、お腹ペコペコ状態になるからまた再度沢山食べられるって事が分かりました!!」


 俺の質問に対し、学校の生徒の如く元気よく手を挙げて返事をするマホ。

 なるほど、そういえばユウカが来た時に朝ごはんを奢った後ロードしたら、朝ごはん分が意味無くなることを以前経験していた。

 それと同じことを、マホはしていたのだろう。


「これを利用すれば、胃が小さい人でも沢山のご飯を食べられます!! しかもカロリーも無かった事になるので、ダイエット中でもいくらでも食べられます!! 夢のようなシステムです!! どうですか! 凄いですか!! 凄いですよね!?」

「な、なんて事……天才!? 天才かしら、マホちゃん!! そんな事に気づくだなんて……!!」

「ああ、確かに天才的な発想だな……」


 ただ……


「──“俺の家の食材だけどんどん減っていく事を除けば”だけどなぁッ!??」


「「あり?」」


 そう、俺の家の冷蔵庫の中の食材がマホに食べられた分、どんどん消えていってる。

 ロードはあくまでマホの状態をセーブ時に戻すだけであって、食べた食材が戻ってくるわけでは無いらしい。


「お前ふっざけんな!? ただただ無駄に俺の家の食材食い尽くしただけじゃねーか!? と言うか食べた分本気でどこ行った!? ロードしたらそっちも普通戻ってくるんじゃねーの?」

「だってそれ、“マホちゃんとマホちゃんの世界をロード”しているだけよ? そりゃあマホちゃんの世界で食べた物はマホちゃんのロードで戻ってると思うけど、カイトの世界までロードされてる訳じゃないから、食べた物は消滅扱いよ」

「つーことは、本気でただただ栄養にもならず、俺の家の食材無駄にされただけじゃねーか!?」

「そうとも言う」


 つーか、この仕様改めて考えて見ると怖えええ?!

 極論俺の世界で何かしら貴重品ワザと食べた後、ロードしたら永久消滅するってことじゃねーの!?

 あれ、新しく身に付けた服とかはどうなるんだ!? まさかそれも消える!?

 メタルマンは装備品とか元に戻ってたから、セーブ範囲に入ってるよな!?

 と言うことは、装備の修正に使ったこっちの世界の素材もその分消滅!? やべえええ!?


 俺はその事実に気づいた時、ヤバさでブルブルと震える。

 念のため、次にユウカとメタルマンが来た時はこの事を注意しておこうと固く誓っていた。


「いやー、その辺セーブポイントの設定で弄れるんだけどさ。本当に厳密の意味で、食べた物の状態すら除外して本人をロードする設定にすると、本人はセーブポイントに戻るんだけど、“胃の中の物がその場に取り残されてベシャッ”と……それが嫌で、余分データを一括消滅にしてるのよねー」

「お、前、それ……っ!? ……ッ! くそ、何も言えねえ……」


 何か言おうと思ったが……確かに吐瀉物ぶちまけられるのは俺も嫌なので、その設定は仕方ないとも言える。

 場合によっては、栄養として溶け出した血液などもぶちまけられる可能性があるので、それを考えるとソラの事は否定し辛い。

 けれど、それでも一括消滅扱いで消えるのは少し怖いのではないだろうか?


「お前、それで大事な貴重品消滅したらどうするんだよ……どうしようも出来ないのか? やっぱ……」

「え? うーん……まあ、“取り出そうと思えば取り出せるわね”」


 へ? と俺は呆けた声を上げてしまう。

 すると、ソラは手の平を掲げて、そこにピカッと光が集まっていく。

 光が治ると、“小さめのセーブクリスタル”のような物がその手に握られていた。


「はえ〜、綺麗ですねー……」

「【サブ・クリスタル】。私のセーブ関連の能力の発動に必要な物よ。詳細は今は置いておくけど、エネルギーが無限じゃないから、セーブポイント関連で消滅した物体を、エネルギーとしてここに補充しているの」


 ほら、と俺とマホによく見えるようにその小さなクリスタルを掲げていた。


「だから、万が一貴重品が消滅に巻き込まれてしまった場合、私の本体に頼ればエネルギーから元の状態に取り出せるわ。一応ね」

「……まあ、それなら安心か?」


 俺はソラの話を聞いて、ひとまずの納得をする事にした。

 消滅と聞いて怖い事を連想してしまっていたが、再度取り出せるのならば、そこまで怖がることはないだろう。


 と言うわけで、話は逸れてしまっていたが……


「とりあえず、無駄にロードして食材食い尽くすのは禁止な」

「「ええ〜?」」

「ええー、じゃねえ。ソラも何一緒になって文句言ってんだ?」

「だって、今度私もやってみようかと。デザート食い放題よ?」

「却下だ馬鹿野郎」


 俺の言葉に文句の声を上げる二人に対し、断固拒否する。

 これ以上無駄に金かけていられるかってーの。


「お兄さん、どうしてもダメですかー?」

「ダメでーす。うちの金が無くなります」

「私ー、いっつも悪の組織退治やってるので、ここまで沢山美味しいものを食べる余裕なんてなかったんです。食事時に出撃指令が出るなんて事もよくあったので、食べきれずに残す事も多くて……だから、じっくり沢山の料理を楽しめるなんてありがたかったんです!」


 そう言って、ウルウルとした目で訴えてくるマホ。

 その視線に、一瞬負けそうになる。


「ぐっ……で、でもダメだ! せめて俺の家の料理は二人分までにしろ!!」

「私、普通に2人前は平らげるタイプなんですけど」

「じゃあ、4人前までな!!」

「わーい♪ ありがとうございます!」


 そうして、さっきまでのうるうる目を引っ込めて、満開の笑顔でお礼を言って来た。

 ちっくしょう、そんな笑顔されたら否定しきれねえ……


「けど毎回こんな事されると辛いから、せめてスイーツバイキングでも行って来てくれない? その分のお金は出すから」

「カイト、くっそ甘いわね相変わらず……」


 ソラの言葉を聞き流し、そうして代案をマホに提案してみるが……


「それなら私、どうせなら他の事にお金使いたいです。普通に遊びたいですね」

「さてはお前、結構いい性格しているな?」


 俺が金を出すと言った途端、食事以外の事に金を使いたいと宣い出したマホ。

 その事を指摘すると、テヘ♪ と舌をペロリと出していた。それで誤魔化せると思うなよ……


「まーまー、いいじゃないですか。遊ぶ余裕自体無かったんですから、こっちの世界にいる間くらいは楽しみたいです!」

「お前なあ……たく、まあいい。一応聞くけど、何に使いたいんだ?」

「んー、せっかくなのでこっちの世界ならではの事に使いたいんですけど……」


 そうやって、マホがうーんと悩んでいると……


『今年もやって来ました! ネズミーランド大特集!!』

「ん?」


 そんな声が聞こえて来て振り返る。

 そういえば、テレビをあれから付けっぱなしだった。

 今は、とある遊園地の特集をやってるらしい。


『今年の目玉は、なんと言っても新規オープンのアトラクション! スパイラルジェットコースター!! 遠くから来た観光客にも大人気なアトラクションです!!』

「へー、あの遊園地そんなアトラクションが追加されてたんだな、昔行った切りだからなー俺」


 俺は放送されてる内容を聞いて、懐かしくてそんな感想をこぼしていた。

 ふむ、少し興味あるな……


「遊園地……?」


 そう思ってると、マホがそんな疑問のような声を上げていた。


「ん? そうだけど、お前まさか遊園地行った事ないのか?」


 ……よく考えると、マホの世界がどのような世界なのかまだ聞いていなかった。

 悪の組織がいるとか言ってたが、勝手に今朝見たニチアサのような、現代に近い世界観だと思い込んでいた。

 つまり、もしかして遊園地が無い世界から来た、なんて事もあり得る……


「遊園地って……三幻魔と呼ばれる世界的三大凶悪ボスの一体、スマイリーが拠点にしている別名“魔の蟻地獄”!? そこに行ったものは無事で帰って来たものはいないと言われる、人類が近づいてはならない場所の事ですか!?」

「どんな遊園地?!」


 かと思ったら、俺の知ってる遊園地と違う遊園地が出て来やがった。


「え、その。普通の遊園地ってそっちの世界には……?」

「普通のって言われても分かりませんけど、こっちの世界で遊園地と呼ばれるものは悪の組織の拠点でしかないです」

「そっかー……そっか……」


 俺は天井に顔を向けて、そう仰いでいた。

 そっかー……まあ、そんな世界もあってもおかしくは無い、か……一応異世界だもんなあ……

 ……しばらくして俺は気を取り直して、マホに向き合って……


「……よし、マホ。お前、確か遊びたいって言ってたよな?」

「そうですけど……」

「しゃーねえ、出かける準備しろ。ソラ、お前もだ」

「何何ー? どこいくのー?」


 そりゃあ、決まってるだろ……?


「──こっちの世界の遊園地を、教えてやるんだよ!!」


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