「──結論から言う。君たちの言う“ミスリル”とやらは、“フラゴニウム”の代用品になり得るものだった」
数時間経って、ガレージから戻って来たメタルマンがそう結果を言った。
「最適解とまではいかないが、8割型の性能は引き出せるだろう。この袋に入っている量があれば、十二分に足りる」
「マジか! 良かったー、いやガチで……」
俺はほっと、胸を撫で下ろした。
これで余分な素材を買う必要が無いことが分かって、安心したからだ。
「なーんだ、もうカードとか、インゴット専門通販サイトとか調べ始めてたのに」
「カード返せ。そして消せ、そのサイト!」
ソラからカードを取り返して、この間買い与えたスマホも取り上げた。
あーっ、と叫ぶソラを無視して、気を取り直してメタルマンに向き合う。
「ま、とりあえずこれで問題無くなっただろ? それ全部上げるから持ってけ。これで万事解決だ」
うんうん、と俺が頷いていると、メタルマンは……
「──で、対価は?」
「──は?」
……そんな事を言い出した。
対価?
「っは!? まさかメタルマン、素材引き取るからってその代償に、なんらかの金銭的欲求をするつもりじゃ……!?」
「何い!? おいメタルマン!! 流石にそれはどうかと思うぞ!? ワガママもいい加減に……」
「違うッ!! 馬鹿か君達は!? 私が支払う側だろうが!!」
そう叫ぶような反論に、お? っと、俺たちは首を傾げた。
「……あー、あー……そっか。なんか最近上げるのが当たり前で、特にメタルマンから何か貰うって発想が無かったな」
「君の中で、私はどうなっている」
「わがままで自己中心的な男」
……そう言うと、メタルマンは天井に顔を向けていた。
まさか反省してる? なら大いにしろ。
そうしていると、気を取り直したのかメタルマンが改めて向き合って来た。
そうして、ポツリポツリと。だんだん叫び出すように……
「都合がいい……都合が良すぎる。こんな虫のいい話、普通あるわけないだろう。君は私に、対価を要求すべきだ。そうじゃ無いとおかしいだろう? 一体何が欲しい、何を求めている、この私に! 私の仲間を救う代償に、何を求めているか言ってみろカイトッ!!!」
「えっ、じゃあ“壊した窓代払って”。と言うか直して」
「そんな些細な事じゃなくて、だ!!」
おい、俺の切実な本音の要求をそんな事扱いされたんだけど。
俺の話した要求に対して、余計にキレた声を出してくるメタルマンだった。
「生憎、無性な親切心など私は信じられない!! ここまで価値のある希少金属、そんなホイと渡せるか!? 何が目的だ!! ああ、もう私には選択肢が無い! 君の要求を受け入れる覚悟は出来ている!! 言ってみろ!!」
めんどくさ……それが俺の限りない本音だった。
こいつ、この間道具大量に買わせた割に、何を今更……と言うのが正直の感想だったが、メタルマンにとってはよっぽどこの金属が価値があるらしい。
正直ただの貰い物だし、使い道なかったから丁度いいと言う話なだけなのだが、それだとメタルマン納得しなさそうだし……
しょうがない、と俺は肩をすくめ……
「──じゃあ、“そのしみったれた状態の顔を見せるな”」
「────はっ?」
俺の、心の底からの要求をメタルマンに叩きつけた。
その言葉に、メタルマンは一瞬言葉を失っていた。意味が分からない、と言いたいように。
俺は頭をガシガシとしながら、メタルマンに言い放つ。
「正直、この際金掛かるのはもう気にして無いんだけどさー。わざわざ人の家やって来て、落ち込んだ様子見せられるのスッゲーイラつくんだよ。なんでわざわざそんな状況見せられなきゃいけないの? ねえ、って感じで」
これが偽らざる俺の本音。
人の落ち込んだ様子ほど、見たく無いものは無いのが俺の心情だった。
「この際、俺の家にやって来るのは100歩譲って許すよ? でも、そんな落ち込んだ様子をずっと引きずってるんじゃねえ。そんなものを見せられるくらいだったら、俺は金払ってでも原因取り除かせてもらう」
つまり、だ……
「俺のこれは、親切心なんかじゃねえ。ただ俺に取って邪魔なものを、どかしただけだ」
「────っ」
……俺のその言葉に、言葉を失うメタルマン。
それでも何かを言いたそうに、顔を所なさげに動かしているのが見える。
「……それでも、あんたの気が治らないって言うなら、“貸し一つ”って事にしといてくれ。もう色々面倒臭いから、それで今回は手を打とうぜ」
だから、さっさとそれ持って帰れ、メタルマン。俺はそう最後に言い放った。
「……………………」
「…………ねえねえ、カイト」
「なんだ?」
メタルマンは、それを聞いて黙り込んでいる。
すると、ソラが俺の袖を引っ張って来て……
「しみったれた顔見せるな、って言うけど、“メタルマン顔見せてないわよ?”」
「言葉の綾だよ、いちいちほじくり返さないでくれる?」
確かにメタルマンフルフェイスだけどさー、雰囲気とかから察するだろ、ねえ?
俺はソラの空気の読めない発言に、そう額に手を当てていた。
「あ、ついでに私も要求。“ちゃんとセーブポイント定期的に使いなさい”。じゃ無いと、困るのはあなたよ?」
「ソラ、お前……」
「何よ。あのミスリル、私のものでもあるから、私にも要求の権利はあるでしょ?」
「まあ、そりゃあそうだけどさあ……」
確かにその通りだけど、俺が話を纏めた手前、そうほじくり返すのちょっとどうかと思う。
まあ、勝手に話進めた俺も悪いか……ちょっと反省。
「……分かった。承知した」
「お?」
すると、メタルマンがやっと声を出して来た。
「今回は、ありがたく受け取ろう。そして、カイトに対して“借り一つ”。そう受け取らさせて貰う」
「ねえねえ、セーブポイントは?」
「……そっちも、可能な限りするようにはしよう」
そう言って、メタルマンはミスリルの入った袋を持ち上げた。
そうして、壊れた窓枠に向かっていき……
「カイト」
「うん?」
「……いつか、この借りは必ず返す。私の返しは、特大にしてやる。覚悟しておけ」
「……ああ、楽しみに待ってるよ」
そうして、互いに話は終了する。
メタルマンは、元の世界に帰って行き────
「あ、そういえばロードすると、装備元に戻っちゃうじゃなかったっけ?」
「「……………………」」
……の、前に。また装備の強化作業が入る事が確定し。
何とも締まらない形のまま、メタルマンの2度目の来訪は終わったのだった……