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第21話 しみったれた顔を見せるな

「──結論から言う。君たちの言う“ミスリル”とやらは、“フラゴニウム”の代用品になり得るものだった」


 数時間経って、ガレージから戻って来たメタルマンがそう結果を言った。


「最適解とまではいかないが、8割型の性能は引き出せるだろう。この袋に入っている量があれば、十二分に足りる」

「マジか! 良かったー、いやガチで……」


 俺はほっと、胸を撫で下ろした。

 これで余分な素材を買う必要が無いことが分かって、安心したからだ。


「なーんだ、もうカードとか、インゴット専門通販サイトとか調べ始めてたのに」

「カード返せ。そして消せ、そのサイト!」


 ソラからカードを取り返して、この間買い与えたスマホも取り上げた。

 あーっ、と叫ぶソラを無視して、気を取り直してメタルマンに向き合う。


「ま、とりあえずこれで問題無くなっただろ? それ全部上げるから持ってけ。これで万事解決だ」


 うんうん、と俺が頷いていると、メタルマンは……



「──で、対価は?」


「──は?」



 ……そんな事を言い出した。

 対価?


「っは!? まさかメタルマン、素材引き取るからってその代償に、なんらかの金銭的欲求をするつもりじゃ……!?」

「何い!? おいメタルマン!! 流石にそれはどうかと思うぞ!? ワガママもいい加減に……」

「違うッ!! 馬鹿か君達は!? 私が支払う側だろうが!!」


 そう叫ぶような反論に、お? っと、俺たちは首を傾げた。


「……あー、あー……そっか。なんか最近上げるのが当たり前で、特にメタルマンから何か貰うって発想が無かったな」

「君の中で、私はどうなっている」

「わがままで自己中心的な男」


 ……そう言うと、メタルマンは天井に顔を向けていた。

 まさか反省してる? なら大いにしろ。

 そうしていると、気を取り直したのかメタルマンが改めて向き合って来た。

 そうして、ポツリポツリと。だんだん叫び出すように……


「都合がいい……都合が良すぎる。こんな虫のいい話、普通あるわけないだろう。君は私に、対価を要求すべきだ。そうじゃ無いとおかしいだろう? 一体何が欲しい、何を求めている、この私に! 私の仲間を救う代償に、何を求めているか言ってみろカイトッ!!!」


「えっ、じゃあ“壊した窓代払って”。と言うか直して」

「そんな些細な事じゃなくて、だ!!」


 おい、俺の切実な本音の要求をそんな事扱いされたんだけど。

 俺の話した要求に対して、余計にキレた声を出してくるメタルマンだった。


「生憎、無性な親切心など私は信じられない!! ここまで価値のある希少金属、そんなホイと渡せるか!? 何が目的だ!! ああ、もう私には選択肢が無い! 君の要求を受け入れる覚悟は出来ている!! 言ってみろ!!」


 めんどくさ……それが俺の限りない本音だった。

 こいつ、この間道具大量に買わせた割に、何を今更……と言うのが正直の感想だったが、メタルマンにとってはよっぽどこの金属が価値があるらしい。

 正直ただの貰い物だし、使い道なかったから丁度いいと言う話なだけなのだが、それだとメタルマン納得しなさそうだし……


 しょうがない、と俺は肩をすくめ……


「──じゃあ、“そのしみったれた状態の顔を見せるな”」


「────はっ?」


 俺の、心の底からの要求をメタルマンに叩きつけた。

 その言葉に、メタルマンは一瞬言葉を失っていた。意味が分からない、と言いたいように。

 俺は頭をガシガシとしながら、メタルマンに言い放つ。


「正直、この際金掛かるのはもう気にして無いんだけどさー。わざわざ人の家やって来て、落ち込んだ様子見せられるのスッゲーイラつくんだよ。なんでわざわざそんな状況見せられなきゃいけないの? ねえ、って感じで」


 これが偽らざる俺の本音。

 人の落ち込んだ様子ほど、見たく無いものは無いのが俺の心情だった。


「この際、俺の家にやって来るのは100歩譲って許すよ? でも、そんな落ち込んだ様子をずっと引きずってるんじゃねえ。そんなものを見せられるくらいだったら、俺は金払ってでも原因取り除かせてもらう」


 つまり、だ……


「俺のこれは、親切心なんかじゃねえ。ただ俺に取って邪魔なものを、どかしただけだ」


「────っ」


 ……俺のその言葉に、言葉を失うメタルマン。

 それでも何かを言いたそうに、顔を所なさげに動かしているのが見える。


「……それでも、あんたの気が治らないって言うなら、“貸し一つ”って事にしといてくれ。もう色々面倒臭いから、それで今回は手を打とうぜ」


 だから、さっさとそれ持って帰れ、メタルマン。俺はそう最後に言い放った。


「……………………」

「…………ねえねえ、カイト」

「なんだ?」


 メタルマンは、それを聞いて黙り込んでいる。

 すると、ソラが俺の袖を引っ張って来て……


「しみったれた顔見せるな、って言うけど、“メタルマン顔見せてないわよ?”」

「言葉の綾だよ、いちいちほじくり返さないでくれる?」


 確かにメタルマンフルフェイスだけどさー、雰囲気とかから察するだろ、ねえ?

 俺はソラの空気の読めない発言に、そう額に手を当てていた。


「あ、ついでに私も要求。“ちゃんとセーブポイント定期的に使いなさい”。じゃ無いと、困るのはあなたよ?」

「ソラ、お前……」

「何よ。あのミスリル、私のものでもあるから、私にも要求の権利はあるでしょ?」

「まあ、そりゃあそうだけどさあ……」


 確かにその通りだけど、俺が話を纏めた手前、そうほじくり返すのちょっとどうかと思う。

 まあ、勝手に話進めた俺も悪いか……ちょっと反省。


「……分かった。承知した」

「お?」


 すると、メタルマンがやっと声を出して来た。


「今回は、ありがたく受け取ろう。そして、カイトに対して“借り一つ”。そう受け取らさせて貰う」

「ねえねえ、セーブポイントは?」

「……そっちも、可能な限りするようにはしよう」


 そう言って、メタルマンはミスリルの入った袋を持ち上げた。

 そうして、壊れた窓枠に向かっていき……


「カイト」

「うん?」

「……いつか、この借りは必ず返す。私の返しは、特大にしてやる。覚悟しておけ」

「……ああ、楽しみに待ってるよ」


 そうして、互いに話は終了する。

 メタルマンは、元の世界に帰って行き────



「あ、そういえばロードすると、装備元に戻っちゃうじゃなかったっけ?」

「「……………………」」



 ……の、前に。また装備の強化作業が入る事が確定し。

 何とも締まらない形のまま、メタルマンの2度目の来訪は終わったのだった……


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