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第20話 ヒーロー、意気消沈

「──おい、どうしたんだよメタルマン」

「…………」

「メタルマン? メタルマンさーん?」

「ダメね、無反応ね」


 ユウカを見送った後、再度やって来たメタルマン。

 けれど何処か、彼の様子がおかしかった。

 以前来た時は皮肉混じりと警戒心たっぷりで、自己中の権化のような態度で話していた記憶だったが……

 今の彼は部屋の隅に片膝立てて座ったまま、ボーッと虚空を見つめているだけだった。


 俺はその様子をおかしく思いながらも、箒と塵取りで再度窓ガラスの破片を片付けていた。

 ソラがメタルマンの頭部にコンコン、と拳をぶつけても、メタルマンは無反応。


「ふうむ……よし」


 そう言って、トテテとソラは離れていく。

 部屋の隅の小道具入れの引き出しを開けて、中から油性ペンを取り出すと、再度トテテと戻って来た。

 それをキュポンッと蓋を取って、メタルマンの額に近づけ──


「──おいやめろ小娘」

「あ、反応した」


 バシッとメタルマンに油性ペンを叩き落とされていた。

 あ、やっぱ描かれるの嫌だったんだな……


「って、おい!? お前が油性ペン叩き落としたから、床にちょっとインク着いちゃったじゃねーか!? どうすんだよ!」

「何故それをいちいち私が気にしなくてはならないんだ……」

「あ、良かった。調子出て来たな」


 でもそれはそれとして謝って欲しい。というかソラも。8割型ソラが原因だし。

 俺達は気を取り直して、メタルマンに向き合った。


「……で、何があったんだよメタルマン。あんたらしくねえ態度だぞ」

「……付き合いの短い君にすら言われるとは、私も末期だな」


 そう言いながら、メタルマンは頭を横に向けていた。

 あちゃー、重症っぽいなこれ。


 そうしていると、ソラがあっ!! っと気づいたように声を出す。


「ちょっとメタルマン!! あなた、あれからセーブポイント使ってなかったでしょ!? 四日も経ってるんだから、危機は乗り越えた筈よね!? 今のうちにセーブしないと、また最初からやり直しになるわよ!!」

「……この間連続でセーブされるのは面倒くさいから止めろと言われた覚えがあるのだがな……」

「それはそれ! これはこれよ!! ほら、さっさとセーブする! そんなところで座ってないで、早く手をくっつけなさい! なんなら、私が手を引っ張って無理矢理」


「ヤメロぉッ!!!!」


 ビクッと、その声にソラは肩を上げた。

 ヘルメット越しでも、はっきりと分かる叫び声に俺たちは一瞬びっくりする。

 すると、メタルマンは小さい声で……


「ヤメロ……今は、本気でやめてくれ。今度こそ、取り返しがつかない……」


 そう言って、頭を俯かせていた。

 俺とソラは、互いに顔を見合わせた……


 ☆★☆


「──なるほど、危機は乗り越えたけど、また新たな危機に遭遇したと」

「それで、仲間が死んじゃってたのね」

「……ああ」


 俺たちは、あれからやっとメタルマンに事情を聞かせてもらい、状況を把握した。

 そりゃあ、今上書きセーブしたら駄目だわ。仲間が死んだ事象が変えられなくなっちまう。


「けど、結局4日前の事象は直後にセーブしてないから、ロードしたらどの道あそこからやり直しよ。まったく、こまめにセーブしないから」

「……そんな事はどうでもいい。一度乗り越えた事だ、あれくらいもうどうって事はない」

「つまり、必要なのはメタルマンの強化だけでなく、味方の強化と……その為に、素材が必要ねえ」


 うーん、と俺たちは悩み出す。

 工具は、前回必要なのは買ったけど、結局素材とかは鉄とかはんだ付け用の金属位しか買えなかったんだよな。

 となると……


「じゃあ、カイトが“希少金属買いまくれば万事解決”じゃない。さあ、お財布持ってゴー!!」

「そんなに買えるか!? いや、マジで一体いくらかかるか想像つかねえぞ!?」


 ソラの指差しゴー発言に、俺は無理だろとツッコミを入れる。

 仮に、仮にだ。例えば金属製品でよく使う“金”とかがいるとか言われたら、メタルマンの言う仲間に必要な分の“金”がどんだけ値段するか分からねえよ!?


「それに、なんの金属がいるんだよメタルマン。それが分からねえとどうしようもねえぞ」

「“フラゴニウム”という金属だ。量はあるだけあるといい」

「何て? ……ソラ、こっちの世界そんな金属あったか?」

「無いわね、多分」

「じゃあ詰みじゃん」


 俺たちは頭を抱え出した。根本的に素材が存在しない以上、どうすればいいのか分からねえ。

 そうすると、メタルマンが言葉を付け足した。


「一応、“フラゴニウム”があれば最適解というだけだ。もしかしたら、他の素材で代用可能なものもあるかもしれないがな」

「ふーん。じゃあ片っ端から金属素材買いまくって、試してみればいいわね!! というわけで、やっぱりカイト財布持ってゴー!!」

「いやだから無理だって!!」


 それだと結局金がいくらあっても足りねえよ!?

 そうそう簡単に手に入る金属素材なんて、この世界にあって……この世界?


「あっ、そう言えば……」

「カイト?」

「確か、この引き出しに仕舞って置いて……」


 そう思って、俺はとある棚の引き出しをガラリと開ける。

 そこにあったものを取り出すと、メタルマンの所に持っていく……


「メタルマン、これはどうだ?」

「っ? なんだ、それは?」

「あら、“ミスリル”じゃない。この間ユウカちゃんに貰った」


 そう、俺が取り出したのはユウカからお礼の品として譲り受けたものだった。

 “ミスリル”のインゴットで、結構な量がある。


「良いの、それ? 貰い物でしょ?」

「一応、ちゃんと俺達の物としてくれたから大丈夫だろ。どの道俺たちには、使い道なかったから丁度良いだろ? それで、どうだメタルマン? 使えそうか?」

「……少し、待っていろ」


 そう言って、ようやくのそりと立ち上がったメタルマンが、ミスリルを一つ受け取ると、ガレージに向かっていった。

 結局ガレージ内は片付けていないから、メタルマンが使った道具が転がったままだから丁度いいだろう。


「さて、あれが使えると良いけど……」

「使えなかったらどうする? カイト、お財布作戦使う?」

「それは本気で、最終手段にして欲しいんだけど……」


 俺はどうか、使えますようにと、心の底から本気で願っていた……


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