「──これで、トドメだぁ!! “ハイパー・ブラスタァァァ!!”」
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆────ッ?!!」
私はメタルマン。
元の世界に戻った私は、パワードスーツの手から強化したエネルギー光線を発射。
それをもって、私の母艦【ユニオン・バース 第13番艦】に侵入した機械生命体、“インベーダー”を排除した。
何度も、何度も、何度も、何度も! ……苦汁を飲まされた相手だったが、装備さえ強化出来れば、既に私の敵では無かった。
目の前でバチバチと放電しながら壊れていく相手を見て、結局最終的には私の相手では無かったな、とそう思っていた。
「ヒューッ!! やったぜメタルマン! 今度ばかしは終わったと思ってたぜ!! さっすが俺のマブダチ!!」
「ジョン、引っ付くな。指紋が移る」
「ひっでえ!? こんな時くらい素直に喜ばせてくれないかねえ?」
私に馴れ馴れしく肩を組んでくるこいつはマックス。一応私の親友とも言える男だ。
主に母艦の内部整備を担当するが、時折私のスーツのメンテナンスを手伝ってくれる男でもある。
……そして、今回の繰り返すループの中で、“何度も死んでいた友人”でもあった。
「……まあ、確かに今回くらいはいいか」
「……お? どうしたメタルマン? あんたらしくないじゃないか、いっつも皮肉を重ねて言ってくるのに? さては、お前もちょっとばかしビビってたのかー? 今回の敵に対して。いやー、あの自信過剰なメタルマン様ともあろうお方が、可愛いところあるじゃねえかー」
「ぶつぞ」
「……本気でどうしたメタルマン? そんなシンプルな罵倒、思った以上にあんたらしくねえじゃねえか? なんだ、本気で調子でも悪いのか?」
こいつ、思ったより鋭いな……
私の言葉に対して、馴れ馴れしく絡んでくると思ったら、今は大真面目な表情で私に問いかけてくる。
……私自身、夢だと思っていた光景が実際にあった事だと理解して、多少憂鬱になっている。
“無かったこと”になったとはいえ、何度も経験して気分が言い訳では無い。
無論、私にとって耐え切れないことでは無かったが……無かったが、多少疲れたのは事実だ。
「……あー、あー、疲れただけだ。今回は殊更な。大した事じゃない。それより、今回の被害状況は?」
「……そうかよ、あんたがそう言うならそう言うことにしておくさ。被害状況だったな、ちょっと待て」
そう言って、ピピッピッと手元の端末を操作するマックス。
母艦のこのセクターの位置は私の担当区域だったが、他のメンバーからの報告を確認しているらしい。
「……こりゃあ酷えな。今回の敵さん、よっぽど暴れてくれたらしい。重要施設こそメタルマンが防いでくれたが、その他が酷い。電気ケーブルや、生活用水路が大幅に破損している。こりゃ急いで修理しないと、付近の居住区が地獄だな」
「……そうか」
マックスがそう言いながら実際に端末を見せてくれたが、そこに書かれている内容が確かに酷かった。
被害規模が通常の“インベーダー”襲撃時の平均を大幅に超えている。
「……正直言ってメタルマン。あんたがいなかったら話にならなかった。あんた以外の担当区域のメンバー、装備が全然通用しなかった。あれじゃあまるでライオンと子犬だな。それぐらいの差があった」
マックスは、悲痛そうな表情でそう呟いていた。
よっぽどあの“インベーダー”に好き勝手されたのが、堪えたらしい。
そういえば、と何かに気づいたような表情になり……
「あんた、いつの間に装備を強化してたんだ? この間メンテナンス手伝った時は、もう少し出力下だったろ? ……まあ、見たところ突貫工事らしかったから、大分熱こもってそうだけどな。その様子を見るに」
「……別に。こんなこともあろうかと、調整していただけだ」
マックスは私の腕の装備を見ながら、そう話していた。
そう、流石にカイトの世界で自力で調整をしたはいいが、やはり道具の差が響き、安全性までは求められなかった。
オーバーヒート一歩手前の状態になってしまい、ギリギリの戦いになってしまったのは免れなかったのだ。
「ふーん……ま、今回はそれに助けられたから礼を言うよ。それより、あんた以外の装備だ。最近、“インベーダー”の強さも段々上がっていってる。ここいらで装備強化をしたい所なんだが……“如何せん素材が無い”」
マックスがぼやくように愚痴った内容に、私は大いに同意する。
そう、この母艦は空中を常に飛び回っていて、素材のある大地に降り立つ事は滅多にない。
……と言うより、出来ない。“インベーダー”の襲撃で、“主要な大陸は大半が支配されてしまっている”。
素材を安全に取れる大陸は、貴重なのだ。
見つけ次第ワープゲートを設置してはいるが……それでもまだまだ足りない。
「よりにもよって、貴重な鉱石がごっそり足りない。その他の組み上げは殆ど出来ているから、それさえあれば一気に装備は潤沢になりそうなんだが……このままじゃ、またしばらくあんた頼みになっちまう」
そう申し訳なさそうに、マックスはそう言う。
ふっ、何を言っている……
「そんな顔をするな。私がいれば安全だ。暫くの間、私一人でも特に問題は無い」
そう、私が居れば問題ない。
今回だって、結局私の力で“インベーダー”を撃破出来たのだ。次もこうやって戦って勝てばいい。
……脳裏に、あの“セーブクリスタル”の存在がよぎるが、今は敢えて押し込んだ。
「……そうかよ。そう言ってくれるとありがたい。ま、だからと言ってあんただけに押し付けるわけには行かねーよ! 俺達だって、十分やってやるさ」
「ふっ、期待しないで待っておこう」
「ひっでえ!?」
そうして、私たちは互いに笑い合いながら、現場の後始末を行っていった……
☆★☆
「……やっと普通に帰ってこれたな。私の部屋に……」
私はマックスと解散したあと、自分の家に戻っていた。
母艦の居住スペース、甲板に該当する箇所が広く、そこに建っているマンションのようになってる建物の一室だ。
この部屋は、私の装備のメンテナンスルームも兼ねている。
私は自分のパワードスーツを一つ一つ解除して、作業台に置いていく。
「さて……マックスの言うとおり、随分不具合が起きている」
私は腕のパーツだけ持ち上げて見て、軽く内部を確認してみるとあちこちボロボロだった。
やはり精密機械の調整に、カイトの世界で集めた道具だけでは整備し切れなかったのだろう。
無理矢理な出力上昇の代償として、あちこち負担が掛かってしまい、オーバーホールが必要だ。
「暫く修復作業に掛かりきりだな。これは……まったく、本当にあの世界は比べると原始的な世界だった」
私は修理を開始しながら、カイトの世界の事を思い返す。
本当に原始的で、時代遅れで……“平和な世界”だった。
……ああ、そうとも。羨ましいさ。彼らの世界が。あそこまでノー天気に生きていられる世界が、母艦に頼らない大地が、何より憧れる。
そして……
「セーブポイント、だったか……」
私は、あの特殊なクリスタルの石を思い返す。
私自身、何度も何度も死んでも、復活した理由となった石。
……はっきり言って、今回は確かに助かった、と感じる代物だが……
「……“もう、私には必要ない”」
明らかに原理が不明な、特殊過ぎる存在。
この世界でも確立出来ていない、時間の流れに逆らう事を実現しているような代物に、恐怖を覚えていないかと言われたら、嘘になる。
あんなものに依存しすぎてはいけない、それが私の本音だった。
だから、セーブポイントはもう使わない。私はそう誓っていた。
……だが。
「カイト、と……なんだったか、あの幼女。トラ……違うな、ソラ。そう、カイトとソラだったか」
私は、あの世界で出会った二人の事を思い返す。特に、カイトに関してだ。
……冷静な頭で振り返ってみると、異世界から来た私に対して、思った以上に手伝ってくれていた青年だったと感じていた。
私は母艦の防衛のエースとして、様々なサポートを受けていた立場だったから当たり前と感じていたが、普通は見知らぬ相手にあそこまで手助けしてくれる事はないだろう。
そう言った意味では、あの青年には僅かばかり感謝の気持ちも湧いてきていた。
ちなみに、ソラの方は別だった。
あの自称幼女女神、私に対する態度が最悪だった。
セーブポイントの用意自体は、あの幼女がメインだから今回に、今回に限っては、感謝はするが……無理矢理な押し売りのような態度といい、信頼するにも感謝するにもないな、と言う相手だった。
「あの家へのワープゲートは……そこの窓だったな」
私は部屋の一室の窓をチラリと見る。
特殊なフレームで付けられたそれは、いつの間にか“マーカー”と呼ばれるそれに置き換わっていたらしい。
カイトの家に初めていった時は、“外からこのマーカーの枠内”に突っ込んでしまっていたのだった。
“インベーダー”の襲撃で一刻を争う事態だった為、窓をブチ破る勢いでメンテナンスルームに入ったつもりだったのだが……という事の次第だった。
「もう使わないだろうが……ふん、外すのも面倒臭いか」
もう2度とあの家には行かないつもりだったが、マーカーを外す作業も今は手間だった。
スーツのメンテナンスを最優先にし、マーカーについてはまた余裕のある時に外そうと考える。
そうして、私はメンテナンス作業を数日かけて進めていったのだった……
☆★☆
「──よし、修復出来たな」
私の目の前には、ピカピカになったパワードスーツが作業台の上に載せられていた。
まったく、数日も掛かってしまった……それだけスーツに負担が掛かっていたのだろう。
「でも、これでまた戦える」
私はそう、グッと拳を握った。
今度は強化状態を維持したまま、安定性があるように修復出来た。
これでもう、憂いは無くなった。
また“インベーダー”が攻めてきても、私が守ってやる──
──その誓いに反応したのか、ビーッ!! ビーッ!! っと警告音!
“インベーダー”の侵入警報ッ!?
「またか!? こんなに早く!! 場所は……ッ?! マックス達のいる所か!?」
私は端末で場所を確認すると、すかさずスーツを着込む。
猛スピードで部屋を出て、襲撃地点に向かっていく。
「くそッ!? 急げ!!」
そうして、私はスピードを上げて飛行していく。
一刻も早く、たどり着くように。
今度こそ、守り切れるように。
辿り着いた、その場所は────“私の誓いを、打ち砕く結果となった”。
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆────ッ!!!」
血と、硝煙と……肉の焼ける匂い。
施設の一角がボロボロになり、炎と放電と……血塗れで倒れている人達。
その中に──マックスもいた。
整備士なのに、精度の低い汎用性の武器を構えたまま、血塗れの体を横たわらせて。
既に、息はない。
「────────」
──その後、私は問題なくソイツを倒した。
強化した私なら問題ない。問題ない、強さだった。
しかし、しかし。
私は、ある事実を胸に刻む事になる。
──“どうやら、私一人が強くても意味がないらしい”
その事実に気づいた後。
気がついたら私は、カイトの家にやって来ていた。