「──よし、着いた! ここがショッピングセンターだ!!」
そうして、ショッピングセンターに3人で到着した俺達。
俺はユウカに向かって、どうだ! と声を掛けた。
「っは? っえ? これ全部お店かい? 王都の露店販売を思い出す密度だけど……これが全部、しっかりとしたお店? 建物も大きいし、まるで城内でお店を開いてるような気分になってくる、不思議……!!」
よしよし、しっかり驚いてくれているようで何より。
前回のコンビニより、めっちゃ規模がデケエからな。驚きもそれ以上だろ。
「さて、どの店から回るか……」
「カイトカイトー」
悩んでいると、ソラが俺の服の裾を引っ張って来た。
なんだ? 行きたいところでもあるのか?
「どうせなら服屋さんに行きたいわ! ほらユウカちゃん、カイトから借りた服のままじゃない。女の子の服を買ってあげたいと思うの!」
「ほう」
「え? 服? いや、ボクは今借りてるやつでも十分だけど……これだけでも生地が凄いし、着心地がいいし」
ソラの言葉を聞いて、俺は改めてユウカの格好を見てみる。
ふむ、シンプルな長袖とGパンだな。
ユウカの顔と長い金髪のお陰でそれでもとても様にはなっているが、確かにそれだけというのも女性が着る服として少ないだろう。
「よっし分かった。行くか服屋さん。ソラ、今日はいつもと違って大盤振る舞いだ。ユウカに似合う服4~5着ほど選んでこい、お金はおろして来たから余裕はある。ついでにお前のも、追加で1,2着買って良いぞ」
「やったー!! あそこの30万越えの服買って良い!?」
「バカヤロう」
俺がペシッと頭を叩くと、冗談よ冗談、とソラはテヘペロしていた。
ちゃんと常識的な範囲にしろよ、と改めて注意をした上で、俺たちは移動して行った……
☆★☆
【服屋】
「──というわけで、まずはこれ! ユウカちゃん、どうぞ!!」
その言葉とともに、ソラによって試着室のカーテンがシャーっと開かれる。
そこから現れたユウカは……
「こ、これは……っ、あ、足元がスースーするね……っ!」
「まあ、ミニスカートだしねえ。どうかしら?」
上はシンプルなTシャツに対し、下は膝上まで出したスカートになっていた。
ユウカの女性らしい細身の足が晒されており、中々の感じだ。
ユウカは膝前に手を伸ばして、モジモジしている。
「ああ、よく似合ってるんじゃねえか? いいと思うよ」
「いや、でもこれ、全体的に……特に、足元の防御力が……」
「防御力って」
その言葉に一瞬面食らったが、なるほど……そう言えばユウカは元々全身鎧だった。
魔物と戦ってる普段の生活を考えると、ここまで素肌を晒した状態は落ち着かないんだろう。
「ここまでヒラヒラした服、初めて着たよ。それに、下着が簡単に見えてしまいそうで……」
「それくらい、女の子のお洒落としては覚悟する部分よ。こっちの世界の女の子はみんなそうよ」
「そうなのかい!? こっちの世界の女性って凄いね!?」
「おい適当言うな、幼女女神」
俺は適当なホラを吹いた幼女女神の頭を握り拳でグリグリと弄る。
いったーい! と言いながら、ソラは涙目でこっちを見上げていた。
「何よ、間違ったこと言ってないわよ私! こっちの世界の女子って、“冬場でもミニスカ”貫き通す人いるじゃない! 言っとくけどあれ、女神からして見れば異常だからね!?」
「マジか? いや、言われて見ればそうなのか? 世界の文化の違いって、こえーな」
俺はソラの言葉を聞いて、確かに冬場の女子の足って寒そうだよなって何度か思った事がある。
そっか、あの文化異世界人からみると異常なのか……
こんな事で実感するのもアレだが、自分の世界の常識が、他の世界から見ると異常という事態もあるよな、と改めて感心していた。
「あの、もっと別の服はないのかい?」
「うーんと……あ、カイト。何かある?」
「えー、俺女の服の種類って知らねえんだけど……じゃあ……」
──そうして数分後。
「と言うわけでユウカちゃん、オープン!!」
再度シャーっと開かれた試着室のカーテンに、そこから現れたユウカは……
「これは……モコモコして暖かいね!」
「まあ、セーターだからな」
俺はあったかそうな服装をしたユウカに対して、ウンウンと頷いていた。
うん、ふわふわそうな感じがユウカに似合ってて丁度良いじゃないか。
俺がそう思っていると……
「ねえねえ、ユウカちゃんユウカちゃん。その系列なら、こっちも良いわよ」
「それかい? 同じ材質のようだけど……ちょっとそっちも試してみるね」
そうしてユウカがソラから別の服を受け取り、カーテンを閉める。
……すると何故か、え? これ? え? ……という、戸惑いの声が聞こえてくる。
「そ、ソラ様。この服って、大丈夫です?」
「大丈夫って、何が? 着方が分からないのかしら、ちょっと良い?」
顔だけ出してユウカがそう聞いてきて、それを受けてソラもユウカのいる試着室に入って行く。
そうしてソラがこうしてこう、と色々指示したような声が聞こえてきて……
「お待たせー! どう!」
「へー、袖の無いセーターか。それはそれで良いじゃ……いや待て、どっかで見たような」
「か、カイト……」
そうしてカーテンを開けて見せられた服は、確かにセーターなのだが何処か違和感。
ユウカが何故か照れた様子で……
「──この服、“背中が空いている”んだけど、これで合っているのかい? というか、これもしかしてエプロンなんじゃ……」
「ブーッ?!!」
そうしてユウカに背中を見せられると、パックリと開いた背中が。
というか、首元とお尻の部分以外開いている。
いわゆる、一時期流行った“童貞を殺す服”に分類される奴だった。
なるほど、エプロンか。確かに何も知らないとエプロン程度の布地しか無いもんな!?
「お前、なんちゅー服着させてんじゃソラ!?」
「似合うでしょ?」
「似合うけど!? けどこっちの世界の服慣れてない奴に着せる服じゃないだろ!?」
全く、なんてもんを選んで来るんだソラは!!
この服がこっちの世界のデフォルトだと勘違いされたらどうすんだっつーの!!
全く。……まったく。うん、まったく……
「あ、やっぱりこれ、服って訳じゃないんだね……?」
「いやまあ、一応それも分類上服ではあるんだけど……」
「でも、ちょっとボクには背中がパックリすぎて落ち着かないかな……」
「だよなあ……」
とりあえず、再度カーテンを閉じて試着した服を脱いだユウカ。
それをソラからはい、と手渡される。
「じゃあカイト、それ戻しておいてー」
「えー? どっから持ってきたんだよこの服。棚分かんねーぞ」
「大体右あたりだったかしらー?」
「何処から見て右だよ、おい」
いや、全然分かんねえよ。
この店結構広いんだから、戻すの面倒くせえ……
……しゃーねえなあ、カゴに入れるしかねえか、しゃーねえなあ!
そう思いながら、俺はその服を、さっきまで試着してた服と同じ購入予定のカゴに入れた。
別にさっきの試着見て、めっちゃ個人的に好きになったとかそんなわけじゃねえから、まったく……
俺は誰に言い訳してるわけでもなく、そう心の奥で呟いていた。うん。
機会があったらまたユウカに着て貰えるかな、とか思ってないから、うん。
「ところで、ちょっとここに来るまでに、ボクが気になった服があったんだけど良いかな?」
「あれ、ユウカちゃん既に自分で気になった服があったんだ? 良いよー」
そう言って、ユウカが自分で選んだ服は──
「ジャーン、どうかな!」
「「却下」」
「なんでッ?!」
俺とソラのハモった言葉に、ユウカはショックを受けていた。
いや、だってそれ……
「それ、ただの“ジャージ”じゃねえか。上下揃った」
「女性の外歩きの服としては、ちょっと……」
「動きやすくて丁度良いのに!?」
ユウカは腕をグリグリ回して、動きやすいアピールをしてきていた。
どうでも良いけど、腕そんなに振り回していると、その、胸が揺れていて目のやり場が……
「まあ、運動には丁度良いからそれも買っとくか……」
「まあそうね。こっちの世界で運動するならピッタシ……そう言えば服って、持ち帰るの? 一応持ち込み出来るけど」
「ああ、そっか。深く考えてなかったけど、元の世界で着る分と、こっちの世界で着る分とで考えた方がいいのか?」
俺はソラのその言葉に、改めて失念していた事に気付いた。
せっかく服を買って上げると言っても、元の世界に一切持って帰らないんじゃあんまり嬉しくは無いだろう。
せっかくならこっちの世界限定だけでなく、ユウカの世界でも可能なら着て貰えるような服を買って上げるべき……
「と言ってもなあ……大体の服、向こうじゃ目立つんじゃねえか? こっちの世界、素材自体が珍しいだろうし」
詳細は知らないが、仮にユウカの世界が中世のヨーロッパに近い世界観だったら、ジーパンTシャツだけでもかなり目立ってしまうだろう。
それを考えると、実は服はあんまり適したお礼とは言えなかったか……?
「いや、でも嬉しいよ。ボクは」
そう考えていると、ユウカはそれを否定した。
「確かに元の世界だと、大体鎧での行動が多くなるだろうから、あんまり持ち帰れないと思う。けど……」
「けど?」
「その、こんなにいろんな服があって、色々試着出来るのって初めてだから、なんか新鮮な気分で嬉しくて……」
向こうでは鎧一択だったし。と、付け足されるユウカの言葉。
……そっか、ちゃんと喜んではくれてたんだな。
勇者として、服を買う自由も楽しみも無かったとすると、娯楽が少なかっただろう事が窺える……
よし。
「よっしゃソラ! もっとちゃんとした服どんどん持ってこい! 全部買ってやるから!」
「まっかせなさい! 今度はシャレ抜きでちゃんとした奴選んでくるから! あんなの聞かされたらそりゃあ本気になるわよ!」
「やっぱりちょっとふざけてたんだなテメエ!?」
「ちょ、ちょっと二人とも!?」
そうして俺たちは、ユウカが戸惑いの声を出す中、どんどん似合う服を選んでいくのだった……