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第15話 女勇者、あれから……

 ──時は少し遡り、ユウカの世界


「──やあ、またあったね」

「■■■■■■■■──ッ」

「と言っても、君にとっては初対面かな?」


 ボクはユウカ。勇者をやっている。

 セーブポイントで復活したボクは、カイトの家から元の世界に戻って来た所だ。

 この世界に戻った時、日時の状態が初めてカイトの家に入った時とほぼ変わらない状態になっていた。

 ソラ様の言っていた事が本当だったと言う事がよく分かった。


 つまり、“ボクを倒したオーク達の状態も元に戻っている”と言う事。


 ……恐怖が消えたわけじゃ無い。正直、今にでも逃げ出したい気分は残っている。

 けれど、“ワタシ”は既にカイト達に誓ったんだ。いつまでも、立ち止まってたくはないから。


 依頼の受けた洞窟に再度戻り、オークが立っているのが見えた。

 ボクにとっては2回目。けれど、彼にとっては初対面だろう。

 見知らぬ敵意のある存在が自分のテリトリーに入った事に、大層ご立腹のようだった。


「■■■■■■■■──ッ!!」

「っふ!!」


 その雄叫びとともに、戦闘が開始される。

 身長3mは超える巨体から放たれる棍棒の振り下ろしは、それだけでとてつもない威圧感を放つ。

 ブオンッ、と言う無骨な風切り音と共に振り下ろされたそれは、ボクのいた箇所を大きく破壊する。

 ボクはすでにサイドステップで回避をし、剣を振りかぶっていた。


「やあッ!!」

「■■■■■■■■──ッ?!!」


 ボクはそのまま相手の右足に刃を通した。

 巨体相応の丸太のような太腿を、ボクは一振りで切り落とす。

 オークは悲鳴の言葉を上げながら、ズシンッと傾いていく。


 怒りの表情でボクに向かって再度棍棒を振り下ろすが、それをボクは大きくバックステップで回避する。

 距離を十分とって、オークから離れていた。


 ──そう、ここまでは前回と同じ通り。


 ボクは怪我をおった目の前のオークを、油断しないよう目を離さず見つめていた。

 そうして、目の前のオークが棍棒を投げつけようとする動作に入る。

 ボクはそれに対応しようとして、剣を横に構えて真正面からの攻撃をガードしようとして……


「──ここで、ボクはやられたんだ」


 ボクは前を向いたまま、そのまま大きく“背後に”剣をなぎ払った。


「■■■■■■──ッ??!!!」

「片方が囮になって、もう片方が背後から襲撃。今思えば、元々挟み撃ちする予定だったのだろうね」


 ボクは後ろにいつの間にかやって来ていた“二体目”のオークに対して、カウンターを成功させた。

 そのまま怯んだ隙に、ボクはトドメの一撃を“二体目”に放つ。


「“ライト・スラッシュ”」


 その言葉共に薙ぎ払われた斬撃は、光を纏っており、魔物に対する特攻になっていた。

 その一閃を喰らった“二体目”のオークは、叫び声をあげる暇も無く絶命する。


「■■■■■■──ッ!!!」


 それを見て激怒した“一体目”が、切り落とした足に構わず無理やり走ってくる。

 けれど、やはり片足を失ったその速度は遅く、ボクにとっては既に敵では無かった。


 技を使わず、一太刀で切り裂いた後は、“一体目”のオークは苦悶の表情を上げながら、絶命していった。


「………………」


 ボクは今度はもう油断せず、周囲に警戒を巡らせる。

 種類の少ない魔法を使ってでも、まだ敵が近くにいないか確認をして。

 ……ようやく、本当に残りの敵が一切いない事が判明した。


「────はあっ……はあっ……」


 ボクは、その場にドサっと座り込んだ。

 とても、疲れた……体力的にはそこまででは無いけど、精神的に。

 一度失敗したシチュエーション、今度は気をつけてはいたとしても、だからこそ、その分緊張の度合いが遥かに上がっていた。


 しかし、今度は勝った。生き残れた。


「……やった」


 本来なら、勇者として勝って当たり前の戦いだったのだろう。

 しかし、今度こそ乗り越えたという結果が、“ワタシ”にとって確かな手応えとして感じていた……


 ☆★☆


「──本当に、ありがとうございます! 勇者様!」

「いえ、なんとか倒せて良かったです」


 ボクは村に戻って、村長に依頼の報告をしていた。

 村長は泣きながらボクに対して、お礼を言って来ている。


「にしても、オークは二体いましたね。危うく危ない目に遭う所でした」


 危うく、というか1度目は失敗して死んでしまったのだけど。

 今思うと、ボク自身何度か魔物の討伐の依頼を受けていて、慣れによる油断があったんだろう。

 その代償が、あの痛みと恐怖なのはあまりにも大きかったけど。


「申し訳ありません……!! 私どもにとっても初耳でして、おそらく見た目に差が無いことから目撃者が一体だと勘違いしたものかと……」

「そうでしたか。いえ、それなら仕方がないですね」


 ボクは当たり障りのない言葉で、そう大人の対応をした。

 前の世界では、そのせいでボクの命が落としてしまったから、何も思っていないと言えば嘘になるけれど……

 でも本来なら取り返しのつかない事を、それを女神ソラリスに助けて貰えたのだ。

 村人へ当たり散らすのではなく、彼女に感謝するべきだろう。

 後は……ボクに寄り添ってくれたカイトに対しても。


「あそこは村の鉱山だったんです。あの魔物が住処にしてしまってからは、仕事が一切出来なくなってしまっており……勇者様のおかげで、再度鉱石が取り出せます!」

「へえ、そうだったんですね」


 なるほど、鉱山だったのか。

 通りで洞窟にしては、人の手の入った整った形をしていると思った。


「それでは、依頼の報酬の銀貨と……ついでに、この村で取れる鉱石の現物をお譲り致しましょう。武器にでも、加工してください」

「いいんですか? ありがとうございます」


 そうしてボクは、ズシリとした袋を受け取った。

 中を見ると、精錬された鉱石がいくつか入っている。

 依頼の報酬とは別に、お得になった状態だ。

 ボクはそれを、懐に丁寧に仕舞い込んだ。


「ところで、勇者様。次はどちらに向かわれるつもりで?」

「次ですか? 次は、カンセダリー王国にでも向かおうと思っていましたが」


 そう、この村に寄ったのは途中にあったから、休憩の為に訪れただけだったのが当初の予定だった。

 勇者のボクが来たと知って、急遽オーク討伐の依頼をお願いされたから、洞窟に向かっただけだったのだ。


 それを聞いて、村長は不安そうに顔をしかめていた。


「そうですか……実は道中に、放棄された要塞。“ロビーホ要塞”が残っており、そこに目撃証言があるそうです」

「目撃証言って……他の魔物ですか?」


 そう聞くと、いえ、と顔を横に振り……


「──“魔王四天王”です」


「──ッ!」


 その衝撃的な情報を、出してきた。


「あくまで噂なのですが……四天王の一人らしきものが、要塞跡地に出入りしているとの噂があり、それが最近流行っているそうなのです。今思えば、鉱山に魔物が住み着いたのもその噂がで始めた頃だったかと……」

「……もしや、魔王四天王が魔物をけしかけたとお考えで?」

「そこまではなんとも。ただ、私達としては比較的近場にそのような噂の所在があると聞き、それに関しても恐怖を感じてる所存です。オークと違って、こちらは所詮噂ではありますが……」


 勇者様、と村長は続けた。


「もしよろしければ、道中ついでに“ロビーホ要塞”に行って様子を見てきてくれないでしょうか? 旅のついでで良いです。報酬は、生憎払える通貨がもう無いのですが……先払いの現物支給として、追加の鉱石をお譲りします」

「……分かりました、道中確認しておきます。確認結果は後日、手紙などで連絡致します」


 そうして、ボクは追加の精錬された鉱石を受け取った。

 魔王四天王……ボクが旅に出る理由となった、魔王討伐。その魔王の配下の一人。

 いずれ相対するべき事になるだろうとは思っていたけれど……こんなに早く機会が訪れるかもしれないとは。


 ……震えるな、恐怖をもつな。まだ、確定した訳じゃない。


 ボクはそう自分に言い聞かせて、まだ問題無いと思いこみながら、村長の家を出て行った……


 ☆★☆


「──あー! ユウシャ様だー!!」

「ユウシャさまー!!」

「おっと、君達は……この村の子供達だね?」


 ボクは村長の家を出た後暫く歩いていると、そのように声を掛けられた。

 村の子供達3,4人が、ボクに対して近づいてきてくれた。

 ボクはしゃがみ込んで、話を聞く体勢をとる。


「ゆーしゃさま、ありがとう!! まものをたおしてくれたんだって!!」

「ユーシャのおかげで、俺たちも外で遊んでいいって!!」

「今までは村の近くに来るかもしれないから、村の外に出ちゃダメだって言われてたんだ!!」

「なるほど……そうだったんだね」


 子供たちの言葉に、ボクはうんうんと頷いていた。

 確かにあのオークが高山から出てこないとは限らない。

 子供達の安全を考えるなら、村の外に出ない方がいいだろう。


「勇者さまのおかげで、僕たちまたあそべるようになりました!」

「ありがとう、ユウシャさま!!」

「これ、お礼のおかし! 美味しいよ!」

「たくさんあるから、ぜんぶもっていって良いよー!」

「……ありがとう。ありがたく、受け取るよ」


 そうして、ボクはお菓子の入った袋を子供達から受け取った。

 それを見た後、子供達は走り去っていき、バイバーイ、と遠くで手を振っていた。


「……ああ、頑張った甲斐が、あったな」


 ボクはそう、改めて実感した。

 これだ、この子供達の笑顔が、“ワタシ”が本当に見たかったものだったんだ。

 “ワタシ”はその事を改めて実感して、ジーンと目を閉じて感じていた。


 これだけで、頑張りが報われたような気がした。

 こうして“ワタシ”が達成出来たのも……


「……カイト。ソラ」


 あの二人のおかげだ。

 セーブポイントと、心の支えになってくれたあの二人がいたからこそだ。


「──そういえば、彼らに会いに行っていいと許可を貰ってたんだった」


 “ワタシ”は思い出す。カイトの家を出る際、また、ここに来ても良いかと聞いた事を。

 彼は、いつでも来て良いと言ってくれた。


「ちょうど良い。こっちのお菓子と、思ったより多くなった鉱石でも渡しに行こう」


 “ワタシ”はそう、ルンルン気分になって近くの扉に向かっていった。

 鈴の付いたベル、“マーカー”と呼ばれたそれを取り付けて、カイトの家に繋がるようにする。


 ノックをして、反応を待つ。けれど、いつまで経っても返事が無い。

 ……考えてみれば彼の家の構造上、扉からテーブルのある部屋まで、長い廊下が存在していた筈だ。

 それだと、ノックをしたとしても彼らがいた部屋まで聞こえないかもしれない。


 しょうがない、少し申し訳ないけど、中に入ってしまおう。

 そうして扉を開けて、彼の家に入っていった。


 ……玄関と呼ばれるそこで、“ワタシ”は鎧を脱いでいく。

 頭のパーツから、一つ一つ丁寧に外していき、廊下の隅に積み上げていく。

 ある程度脱いだ後は、靴を脱いで上がり込む。


 素足で部屋を歩くというのはいまだに慣れないけれど、彼の世界ではこれがルールらしい。

 “ワタシ”は廊下を歩いていき、彼らがよくいた部屋まで向かっていく。


「…………。…………、…………。……、…………」

「……、…………? ……………………」


「……あ。カイト達の声だ」


 やっぱり、家の中にいた。

 “ワタシ”は嬉しくなって、彼らのいるへやにタッタッタと早歩きで近づいた。

 ノックをするのも忘れ、扉をガチャリと開けて、彼らに無事乗り越えた事を報告しようと──


「……あの」



「またかよもおおおおッ!?? 何度やり直せば気が済むんだよ! 今日はもう休ませろよなもおおおッ!!!」



 ────────え。


「あ……」


 ……カイトが思いっきり振り返って、そうボクに対して叫び声を出していた。


 ………………あ……そ、っか………………そうだよ、ね………………



「あの……ボク、今度はオーク達を無事討伐出来て、それを報告にって来てたんだ」

「えっと、その……」

「いつでも来ていいよって、言われてたから……でも、そっか、うん……やっぱり、迷惑だったよね、ボク。そうだよね、ゴメンよ……」


 あれ、どうしよう……

 涙が、溢れそうで止まらないや……

 何故だろう、オークに殺された時より、心が苦しいや……


「わ、わっりい!!? ユウカの事じゃねえんだ!! 今まで別件で忙しくて、つい余裕がなくて……お前のことが迷惑ってわけじゃ無いから! なあ、ゴメンって!!」

「あーあ、女の子泣かしちゃったー、カイト」

「うっせえ!!」


 そんな二人の声を聞きながら、私はその場で座り込んでしまっていた……


 この後、お詫びを兼ねて、美味しいお昼ご飯を出してもらった。美味しかった。



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