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第14話 ヒーロー、今度こそ帰還

「位置について、よ〜い……ドンッ!!」


「「うおおおおおおおおッ!!???」」


 カチャカチャカチャカチャカカチャッ!! 


 その合図とともに、俺とメタルマンは、メタルマンがロード直後、彼の着ているスーツのメンテを急ピッチでやっていた。

 俺もメタルマンにやり方を教えてもらって、ドライバーとはんだ付けくらいは出来るようになったのだ。

 さながら、F1のピットストップのメカニックになった気分だ。


「よし、終わった!!」

「おう! 行ってこい!」


 そうして俺はメタルマンの背中を押し出して、彼は窓から元の世界で。

 10数分後……再度戻ってきたメタルマン。


「くそおぉァァあ!! 負けたぁぁぁッ!!」

「ちくしょう、そっかああああッ!!」


 俺とメタルマンは、ともに両手を床に付いて項垂れていた。

 くそう、最低限の改造だけやって送り出す作戦だったけど、最低限過ぎたか!? 


「もう一回だ!! 今度は改造する装備を増やす!」

「おっしゃあッ!」


「はい、よーい……ドンッ!!」


「「うおおおおおおおおッ!!???」」


 そうして、再度カチャカチャやり。

 再びメタルマンを送り出し。

 ……そして再び、戻ってくるメタルマン。


「くそあああ!!! 今度はそもそも間に合わなかったあああ!!! 手遅れだったぞぉ!!!」

「マジかあああ!??」


 今度は両手を頭に当てて項垂れる俺たち。

 くそう! 最低限の改造だと武装が足りない! 

 かと言って改造数を増やすと、時間が間に合わない!! 

 八方塞がりじゃねえか!? 


「ほらほら、もっと頑張んなさい。見た感じタイム落ちてるわよ、人の命がかかってるんでしょー」


 そう言ってさっきからタイムキーパーをやっているソラは、ポテトチップの袋を開けてポリポリ食べながらストップウォッチを覗いていた。

 こいつ……!! 


「……おい」

「何よ、メタルマン? 私今おやつ食べるのに忙しい……」

「──貴様もやれ、ソラ」


 メタルマンは振り返らず、そうソラに言った。

 うん、俺でも言うな。


「……は? いや、いやいやいや、私女神だし、そんな細かい作業やるような立場じゃないし……第一、私たちに装備の情報渡したくないって言ってなかったっけ?」

「そんなもの、カイトに手順教えた時点で今更だ。いいからやれ、許可する」

「いや、いやいや、いやよ! めんどくさいもの! そもそも私関係無いし!」

「メタルマン呼び出したのはお前だろうが。お前確か、メタルマンを女神として助けたって言ったよな? 助けたなら最後まで責任は持てよ」


 さっきから拒絶するソラに対して、俺は助けた責任者としてやれと言い放つ。

 それに対して、ええー!? と叫びだすソラ。


「いや、ちょっと待って! 何か、何か方法があるはずよ!!」

「じゃあ、なんか代案出せよ。それで間に合うならそれにするから」

「んーっと、えーっと……」


 そう言って、ソラは唸り……


「じゃあ、“そもそも別の装備を作る”のは? セーブクリスタルに触れた状態で、“持っている道具や衣服がセーブ対象”になるから、そもそも新規の武装を作ればセーブ関係無いわ。これはいいアイデアじゃないかしら!?」

「ああ、真っ先に思いついたよ。カイトにも提案した」

「俺にそんな材料の金があればの話だけどな」


 メタルマンの既にある装備の改造用ならともかく、全く新規で使える武装となるといくらかかるか分かったもんじゃねえ!! 

 最後の最後の手段として、借金してまで作るって手はあるが、初手でそれやる勇気はねえ!! 


「ええー!? 貧乏人ー!!」

「うっせえ!! ただでさえ予定外の幼女一人養ってる上、これ以上高い素材買えるか!?」

「むう、じゃあ……」


 そう、ムムム、とソラは悩んで……


「じゃあ、“カイト連れていくのは? ” 囮くらいにはなるんじゃないかしら?」

「俺に死ねと?」

「そもそも生身じゃ、囮にもなりゃしない。ただの役立たずだ」

「言われてるわよ、カイト」

「お前の提案だろうが」


 そんな感じで、ロクな代案が出ず。

 こうなりゃやっぱり、ソラにも改造手伝ってもらうしか……

 でもそれ、ダメ元だからそれも失敗しそうなのが本音なんだよな……


 このまま、八方塞がりか……そう思っていると……


「えー……んじゃあもう、ロード直後に装備外した状態で“上書きセーブ”する位しか……それなら再ロードしても外した武装はリセットされない……」

「メタルマン、ソラのそっちの足を持て。俺は腕。ぶん回そうぜ、大縄跳びみたいに」

「了解した。飛び手がいないのが残念だが、大縄を回す練習にはなるだろう」

「何で!! 何で!? いい案なのに! いい案だしたでしょ!? うきゃアアアアア?!!」


 ああそうだな! いい案だな本当に!! 全部丸ごと解決の、真っ先に言って欲しかった案だったな!? 

 おかげで俺たち無駄に疲労したじゃねーか!? 

 今までの意味の無かった苦労の分の恨みを兼ねて、ブンブンソラを振り回す俺たちだった。


「だって殆ど差分無いのに追加セーブしたら無駄にセーブデータ増えるだけだし!! 積み重なると後で私の管理が大変になるのよぉ!!」

「知るかあああッそんな裏事情!!! お前が助けたのがきっかけなんだから、お前もちゃんと苦労しろやあああ!!!」

「あああぁっァァッ?!!」


 ☆★☆


「──疲れた」

「うっぷ……酔ったわ」


 あれから俺たちは、大人しくソラ提案の上書きセーブを実行してメタルマンの装備の改造をやり直し。

 そうして再ロード後、リセットされない武装を取り付けてメタルマンは改めて元の世界に帰っていったのだった。


 残った俺たちは、ソファーの上でグデーッとしている。


「マジで疲れた、本当に疲れた……もう今日は知らん。仮にメタルマンがまた失敗して帰ってきても、もう今日は付き合わねえ。今日は閉店、へいてんでーす」

「ねえ、お昼ご飯はー? もうすぐ時間なんだけど」


 俺の言葉聞いてた? ねえ? 


「疲れたっつてんだろうがよー。出前だ出前」

「やったー! 寿司頼みましょう寿司!!」

「よりによって高そうなの頼むなテメエー」


「……あの」


 そんなことを話していると、ソファーの裏から声が。

 ソラでも俺でも無い。と言う事は……


「またかよもおおおおッ!?? 何度やり直せば気が済むんだよ! 今日はもう休ませろよなもおおおッ!!!」


 そんなことを言いながら、俺は半ばキレ気味に背後に振り返ると……


「……え? えっと……」


 そこにいたのはメタルマンじゃなく、“ユウカ”だった。

 あ……


「あの……ボク、今度はオーク達を無事討伐出来て、それを報告にって来てたんだ」

「えっと、その……」

「いつでも来ていいよって、言われてたから……でも、そっか、うん……やっぱり、迷惑だったよね、ボク。そうだよね、ゴメンよ……」


 だんだん涙目になりながら、小声になっていくユウカだった。


「わ、わっりい!!? ユウカの事じゃねえんだ!! 今まで別件で忙しくて、つい余裕がなくて……お前のことが迷惑ってわけじゃ無いから! なあ、ゴメンって!!」

「あーあ、女の子泣かしちゃったー、カイト」

「うっせえ!!」


 ……そうして俺は疲れた体にムチを撃ちながら、ユウカにお詫びを兼ねて、豪華な昼食を用意したのだった。

 その甲斐あって、ユウカはすっかり気分を取り戻してくれた。マジで良かった……


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