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第8話

「──おはようー」

「おはようー、カイト」

「お、おはよう……」


 二階から、ソラとユウカが階段から降りてきていた。

 俺は朝食の準備をしているところだ。ったく、いつもは一人分適当にコンビニで済ませていた所を、自炊の必要が出てきやがった……まあ、良いけど。


「今日の朝ごはん何ー?」

「目玉焼き。後は食パンとリンゴ」

「ええ〜。質素ー。ベーコンとか無いの?」

「──チョイチョイ、ちょっと。……お前!? 撲殺されてトラウマの本人がいるのに、肉系出せるわきゃねえだろーが!?」


 俺はソラを呼び出して、こっそり小声でそんな事を注意していた。

 ソラはそういうものなの? と、微妙に理解してないような顔をしていた。

 こいつ、やっぱ人の心ねえわ。ったく、これだから神様ってやつは……


「……カイト」

「ん、ユウカ? どうかしたか?」


 そうこっそり話していると、ユウカが呼びかけて来て……


「──ボクは、元の世界に帰ろうと思う」

「────」


 ……その発言を聞いて、俺は何か言おうとして……ユウカの目を見て、一旦口を閉じた。

 そして、よく考えた上で……


「……大丈夫なのか?」

「……ああ。ありがとう、心配はいらない」


 そんな事を、ユウカはゆっくりと喋り出した。


「……確かに、まだ平気かと言われたら嘘になる。今だって、殺された時の恐怖はついさっきの事の様に思い出せる」


 震えた手の平を広げながら、ユウカはそう話していき……ギュッと握り締める。


「けど……ワタシはやり直せる。また、人生をこうして歩き出せる。失敗しても、何度も」


 それに、と……ユウカは一瞬目を瞑って、思い返したように話し出す。


 昨日のお出かけで、子供達の笑顔を見た事。

 それを見て、あれと同じ笑顔を自分の世界のでも守ることが、勇者としての使命。

 そう強く、改めて噛み締めている事を。


 だから……


「いつまでも、立ち止まってたくはいないから。ワタシは、前に進みたいから……」


 そう、顔を上げて、はっきりとした言葉でそう言ってきたのだ。


「──そっか」


 俺は一言。そう呟き……


「……じゃ、とりあえず朝ごはんだな! まずは腹が減っては戦は出来ぬ、って言うだろ!」

「そうねー。ほらほら、ユウカちゃん! そこ座ってー!」

「……ああ、ありがとう」


 そうして、俺はユウカも座席に座った事を確認する。

 目玉焼きも、ちょうど焼けた所だ。

 俺は出来た料理を、皿に盛り付けて配っていく。


「さて、それじゃあ……」


「「「いただきます」」」


 そうして、俺たちは全員朝食を食べ始めたのだった……



 ☆★☆


「──これで、良いのかい?」

「そうそう。それでロード完了よ」


 あれからご飯を食べた後、俺たちはリビングに集まっていた。

 ユウカはすでに全身黄金鎧に着替えており、ソラにロードのやり方を教わっていた。


 ロードの流れは、至って簡単な仕組みだった。

 ユウカがロードを念じたら、ユウカがその場から消えてセーブポイント前にリポップ。

 これでユウカと、ユウカの世界のロードは完了したらしい。

 最後にユウカがセーブした時と、同じ時間帯、状態になっているとの事。


 と、言う事は……? 


「おい。じゃあせっかく食べた朝飯、意味ねえってことか……?」

「あー……。そう言うことになるわねー。昨日のおやつの分も、リセットね」

「マジか……ちょっとショック」

「あはは……けど、とても美味しかったよ。その記憶だけは、ちゃんと残ってる」


 俺がショックを受けていると、ユウカが頭を指差しながら、気を利かせた言葉をかけてくれた。

 そう思ってくれると助かるよ……


「さて、と。それじゃあ、準備は完了ね」

「ああ」


 そう言って、ユウカは玄関に向かっていく。

 それに俺達も付いていく。


「……一昨日と同じ状況だな」

「そうだね。あの時とは、意識が違うけれど……」


 ユウカはふと、俺の方を向いていた。

 すると……


「……カイト。頼みがあるんだ」

「頼み?」

「ああ。依頼が成功、不成功にも関わらず。……また、ここに来ても良いかな?」


 そう言ったユウカの表情は、受け入れられるかどうかの不安の表情が出ていて。

 俺はそれに、当たり前の様に返事をする。


「──いいぜ、いつでも来なよ。今回だけでなく、お前が辛いとか、大変だと思った時は、いつでもな」

「────っ」


 その言葉に、感極まった様にユウカは涙目になっており。

 ソラは、ヒューっと下手な口笛を吹いていた。


「──あ、ありがとうっ」

「別にいいぜ。それじゃあ、元気に行ってこい!」

「行ってらっしゃーい!」

「ああ! それじゃあ、また!」


 そう言って、ユウカはヘルムを改めて取り付けて。

 玄関から繋がった元の世界に、勢いよく飛び出していった──


 ☆★☆


「──行っちゃったね」

「ああ……」


 玄関の扉が閉まった後、ソラとそんな会話をする。


「ソラ。ユウカは、もう自分の意思でいつでもロード出来るんだよな?」

「うん。そうだよー」

「と言う事は、危なくなったらいつでも直ぐロードで逃げることも出来るってことだよな?」

「まあ、出来るね」


 だとしたら、再度ユウカが殺されると言う可能性は低いだろう。

 本当にやられそうになったのなら、直ぐロードすればいいのだから。


「そんじゃ、今のうちに掃除でもしておくかなー。後は、ユウカがまた来た時、いつでもご飯を出せる様に買い溜めとか、な」

「何よー。カイトってば、私の時より積極的じゃなーい?」

「お前のことだって、結局受け入れてんだろーが」


 そんな会話をしながら、俺たちはリビングに戻って行った。

 テクテクと、廊下を歩く。


「ねえ、次ユウカちゃんいつ来ると思うー?」

「そうだなあ。あの洞窟の依頼で1日かかってったっぽいから、報告に早くても明日とかじゃねえか?」

「もう今日中に、リビングに戻ってきてたりして。案外、今直ぐとか?」

「なんだよそれ。忘れ物でもしていたのか?」


 まあ、確かに忘れ物してロードで戻ってきた。と言うのもありえない話じゃ無いか。

 もしそうなったら、生暖かい目で迎えてやろう。そう思いながら、リビングの扉を開けると……


 ガシャアアアアンッ!!! と、窓ガラスが盛大に割れる音。


「何何何!?」

「何かしら!? 野球ボールでも入ってきたのかしら?!」


 そう思って、急いでリビングの中をよく見ると……


 盛大に割れた、庭に出るための巨大な窓ガラス。

 そして、破片の中央に座り込んでいる、“謎のロボット”。え、ロボット? 


「──ここは、何処だ?」


「しゃ、喋ったああああ!?」


 そこには、人型のロボットの様なものがいた。

 ヒーロー着地の状態から、ゆっくりと立ち上がりこっちを見つめて来ていた。


 ──そうして、その掌をこっちに向けていた。心なしか光ってやがる!? 


「──君は誰だ。見たことない存在だ」


 そうして、警戒心丸出しの声を出して来やがった。


「それはこっちのセリフだ!? なんだよ、人の家に勝手に上がり込んで!?」

「人の家? ここは確か、“私の自室の外”だったはずなのだが……」

「はあ!?」


 よく分からない事を言い出した、目の前のロボット。

 一体なんだってんだよ!? 


「あー、これもしかして……」

「あ? ソラなんか知ってるのか!?」

「えっとねー……」


 そう言って、ソラは言いづらそうに……


「多分。ユウカちゃんと同じ案件」


 そんな事を、のたまいやがった。


「はあ!? じゃあこのロボットも、セーブポイント関係か!?」

「多分そう。でもロボットなんていたかしら……?」

「……何かよく分からないが、私はロボットなどではない」


 は? 

 そう言って、ロボットだと思っていたやつは、頭部のパーツを開いていった。


「──男?」


 そこには、一人の成人男性の顔があった。

 つまり、ロボットではなく……パワードスーツ? 


「──私は、“メタルマン”。君たちの事、この場所の事を、教えて貰おうか」


 そう名乗った男は、こちら側に掌を向けたまま、そう名乗ったのだった。


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