「──おはようー」
「おはようー、カイト」
「お、おはよう……」
二階から、ソラとユウカが階段から降りてきていた。
俺は朝食の準備をしているところだ。ったく、いつもは一人分適当にコンビニで済ませていた所を、自炊の必要が出てきやがった……まあ、良いけど。
「今日の朝ごはん何ー?」
「目玉焼き。後は食パンとリンゴ」
「ええ〜。質素ー。ベーコンとか無いの?」
「──チョイチョイ、ちょっと。……お前!? 撲殺されてトラウマの本人がいるのに、肉系出せるわきゃねえだろーが!?」
俺はソラを呼び出して、こっそり小声でそんな事を注意していた。
ソラはそういうものなの? と、微妙に理解してないような顔をしていた。
こいつ、やっぱ人の心ねえわ。ったく、これだから神様ってやつは……
「……カイト」
「ん、ユウカ? どうかしたか?」
そうこっそり話していると、ユウカが呼びかけて来て……
「──ボクは、元の世界に帰ろうと思う」
「────」
……その発言を聞いて、俺は何か言おうとして……ユウカの目を見て、一旦口を閉じた。
そして、よく考えた上で……
「……大丈夫なのか?」
「……ああ。ありがとう、心配はいらない」
そんな事を、ユウカはゆっくりと喋り出した。
「……確かに、まだ平気かと言われたら嘘になる。今だって、殺された時の恐怖はついさっきの事の様に思い出せる」
震えた手の平を広げながら、ユウカはそう話していき……ギュッと握り締める。
「けど……ワタシはやり直せる。また、人生をこうして歩き出せる。失敗しても、何度も」
それに、と……ユウカは一瞬目を瞑って、思い返したように話し出す。
昨日のお出かけで、子供達の笑顔を見た事。
それを見て、あれと同じ笑顔を自分の世界のでも守ることが、勇者としての使命。
そう強く、改めて噛み締めている事を。
だから……
「いつまでも、立ち止まってたくはいないから。ワタシは、前に進みたいから……」
そう、顔を上げて、はっきりとした言葉でそう言ってきたのだ。
「──そっか」
俺は一言。そう呟き……
「……じゃ、とりあえず朝ごはんだな! まずは腹が減っては戦は出来ぬ、って言うだろ!」
「そうねー。ほらほら、ユウカちゃん! そこ座ってー!」
「……ああ、ありがとう」
そうして、俺はユウカも座席に座った事を確認する。
目玉焼きも、ちょうど焼けた所だ。
俺は出来た料理を、皿に盛り付けて配っていく。
「さて、それじゃあ……」
「「「いただきます」」」
そうして、俺たちは全員朝食を食べ始めたのだった……
☆★☆
「──これで、良いのかい?」
「そうそう。それでロード完了よ」
あれからご飯を食べた後、俺たちはリビングに集まっていた。
ユウカはすでに全身黄金鎧に着替えており、ソラにロードのやり方を教わっていた。
ロードの流れは、至って簡単な仕組みだった。
ユウカがロードを念じたら、ユウカがその場から消えてセーブポイント前にリポップ。
これでユウカと、ユウカの世界のロードは完了したらしい。
最後にユウカがセーブした時と、同じ時間帯、状態になっているとの事。
と、言う事は……?
「おい。じゃあせっかく食べた朝飯、意味ねえってことか……?」
「あー……。そう言うことになるわねー。昨日のおやつの分も、リセットね」
「マジか……ちょっとショック」
「あはは……けど、とても美味しかったよ。その記憶だけは、ちゃんと残ってる」
俺がショックを受けていると、ユウカが頭を指差しながら、気を利かせた言葉をかけてくれた。
そう思ってくれると助かるよ……
「さて、と。それじゃあ、準備は完了ね」
「ああ」
そう言って、ユウカは玄関に向かっていく。
それに俺達も付いていく。
「……一昨日と同じ状況だな」
「そうだね。あの時とは、意識が違うけれど……」
ユウカはふと、俺の方を向いていた。
すると……
「……カイト。頼みがあるんだ」
「頼み?」
「ああ。依頼が成功、不成功にも関わらず。……また、ここに来ても良いかな?」
そう言ったユウカの表情は、受け入れられるかどうかの不安の表情が出ていて。
俺はそれに、当たり前の様に返事をする。
「──いいぜ、いつでも来なよ。今回だけでなく、お前が辛いとか、大変だと思った時は、いつでもな」
「────っ」
その言葉に、感極まった様にユウカは涙目になっており。
ソラは、ヒューっと下手な口笛を吹いていた。
「──あ、ありがとうっ」
「別にいいぜ。それじゃあ、元気に行ってこい!」
「行ってらっしゃーい!」
「ああ! それじゃあ、また!」
そう言って、ユウカはヘルムを改めて取り付けて。
玄関から繋がった元の世界に、勢いよく飛び出していった──
☆★☆
「──行っちゃったね」
「ああ……」
玄関の扉が閉まった後、ソラとそんな会話をする。
「ソラ。ユウカは、もう自分の意思でいつでもロード出来るんだよな?」
「うん。そうだよー」
「と言う事は、危なくなったらいつでも直ぐロードで逃げることも出来るってことだよな?」
「まあ、出来るね」
だとしたら、再度ユウカが殺されると言う可能性は低いだろう。
本当にやられそうになったのなら、直ぐロードすればいいのだから。
「そんじゃ、今のうちに掃除でもしておくかなー。後は、ユウカがまた来た時、いつでもご飯を出せる様に買い溜めとか、な」
「何よー。カイトってば、私の時より積極的じゃなーい?」
「お前のことだって、結局受け入れてんだろーが」
そんな会話をしながら、俺たちはリビングに戻って行った。
テクテクと、廊下を歩く。
「ねえ、次ユウカちゃんいつ来ると思うー?」
「そうだなあ。あの洞窟の依頼で1日かかってったっぽいから、報告に早くても明日とかじゃねえか?」
「もう今日中に、リビングに戻ってきてたりして。案外、今直ぐとか?」
「なんだよそれ。忘れ物でもしていたのか?」
まあ、確かに忘れ物してロードで戻ってきた。と言うのもありえない話じゃ無いか。
もしそうなったら、生暖かい目で迎えてやろう。そう思いながら、リビングの扉を開けると……
ガシャアアアアンッ!!! と、窓ガラスが盛大に割れる音。
「何何何!?」
「何かしら!? 野球ボールでも入ってきたのかしら?!」
そう思って、急いでリビングの中をよく見ると……
盛大に割れた、庭に出るための巨大な窓ガラス。
そして、破片の中央に座り込んでいる、“謎のロボット”。え、ロボット?
「──ここは、何処だ?」
「しゃ、喋ったああああ!?」
そこには、人型のロボットの様なものがいた。
ヒーロー着地の状態から、ゆっくりと立ち上がりこっちを見つめて来ていた。
──そうして、その掌をこっちに向けていた。心なしか光ってやがる!?
「──君は誰だ。見たことない存在だ」
そうして、警戒心丸出しの声を出して来やがった。
「それはこっちのセリフだ!? なんだよ、人の家に勝手に上がり込んで!?」
「人の家? ここは確か、“私の自室の外”だったはずなのだが……」
「はあ!?」
よく分からない事を言い出した、目の前のロボット。
一体なんだってんだよ!?
「あー、これもしかして……」
「あ? ソラなんか知ってるのか!?」
「えっとねー……」
そう言って、ソラは言いづらそうに……
「多分。ユウカちゃんと同じ案件」
そんな事を、のたまいやがった。
「はあ!? じゃあこのロボットも、セーブポイント関係か!?」
「多分そう。でもロボットなんていたかしら……?」
「……何かよく分からないが、私はロボットなどではない」
は?
そう言って、ロボットだと思っていたやつは、頭部のパーツを開いていった。
「──男?」
そこには、一人の成人男性の顔があった。
つまり、ロボットではなく……パワードスーツ?
「──私は、“メタルマン”。君たちの事、この場所の事を、教えて貰おうか」
そう名乗った男は、こちら側に掌を向けたまま、そう名乗ったのだった。