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第13話

「──よし、これで準備は完了だ」


 次の日の朝、メタルマンはリビングの真ん中に立っていた。

 見た目は変わっているようには見えないが、徹夜で調整したスーツを身に付けて、最終チェックをしているようだ。


「ああ、良かったよ。俺も家の壁一部吹っ飛ばされた甲斐があったようで」

「まだ根に持っているのか……?」

「当然すぎるだろうが。テメエ終わった後でいいから直すの手伝うか弁償しろよ」


 俺は腕を組みながらメタルマンにそう言った。

 流石に壁の修理、それも大穴となると結構な額になってしまう。

 この後日曜大工で応急処置はするつもりだが、本格的に直すなら業者を呼び出す必要があるだろう。

 もしくはメタルマン世界の謎技術に頼るかのどっちかだ。


「……あとでこちらの世界で金目のものになりそうなものを持って来よう。それで手打ちとさせてくれ」

「たく、しゃーねえなあ。いいよ、それで」


 さて、とメタルマンが顔を横に向けて、そこにいたソラに声を掛ける。


「ソラ。ロードのやり方は、この場で念じるだけでいいんだな? セーブクリスタルとやらに触れる必要は無く」

「そうよー。簡単でしょ?」

「ああ、私の意思一つで世界が巻き戻るなど、いまだに信じられないくらいだ」


 そうため息を吐きそうな雰囲気でメタルマンは言うが、実際巻き戻しは必須な状況なのだろう。

 昨夜の会話で懸念点はある程度解消されたとはいえ、それでも無駄に苦しむ回数は増やしたく無く、ロード回数は最小限にしたいとメタルマンは言っていた。

 だから、これからやるロードは最低限必要だからやる事だ。


「カイト。ソラ。今まで世話になったな」

「ん? なんだよ改まって」

「なんか、意外な言葉を聞いた気分」


 急にメタルマンが、俺たちに向き合ってそう言い出した。

 割と傍若無人な態度で振り回しがちな印象だった彼にしては、珍しい態度だった。


「いや、何。初めて会った時、我ながら最大限警戒していたな、と……警戒する事自体は間違っていなかったと思うが、それでも君たちがそれほど悪人な訳ではないと分かったからな。お礼の一つでもしようか、と言う気分になっただけだ」

「ったく、最後まで素直じゃねーやつ。……まあ、素直に受け取っておくよ」

「まあ、これでよく分かったでしょ。私は女神だと言うことを。深く感謝しなさい!」


 さて。そうしてメタルマンは元の世界につながる窓の前まで移動した。

 あとはロードすれば、いつでも飛び出せる。


「ではな。さらばだ! “ロード!! ”」


 そうメタルマンは叫びだし、メタルマンは一瞬消えて、その場にパアッとすぐ現れる。

 ロードがされて、セーブポイント直前の状態になった証だ。


 その直後、メタルマンは勢いよく窓を開けて飛び出していく。

 自分の母艦を救う為に──


「……ふう。行っちゃったな」

「そうね。まあ弁償のためにまた戻ってくるんでしょう? そう深くしんみりしないで置きましょう」

「別にしんみりはしてねーよ」


 あー疲れたー。俺はそう言って、背伸びをする。

 さーて、壊れた壁どうすっかなー……


「とりあえず、木の板で一旦塞いでおくか……おいソラ、ちょっと手伝え。俺がハンマーで釘刺すから、お前は抑える役割な」

「えー。私重たいもの持つのムーリー。木の板って意外と重いのよ」

「うっせえ。元はと言えば、お前がメタルマンに質問したのが原因の一部でもあるだろうが。責任とって片付け手伝え」

「目の前で試し打ちされるまでは想定してなかったわよ。しょーがないわねえ……」


 そうして、俺たちは壁の修理のために道具を取りに行こうと背を向けて……


 “パアッと光って、メタルマンが現れた”。


「………………」


 はえーよ。


「おい、過去最速だぞ。どうした?」

「忘れ物でもしちゃったの?」


 あの別れ方からのこの流れに、流石に質問せざるを得なかった。

 そう俺たちが聞くと……


「──なかった」

「は?」


「──“装備の状態が、変わっていなかったんだ!! ”」


 メタルマンは、吐き出すようにそう叫んだ。

 って、はあ?! 


「変わっていなかったって……徹夜で改造してただろ!? それはどうした!? あ、改造自体を失敗したって事か!?」

「違う! だから、変わっていなかったんだ! いや、“元に戻っていたんだ!!” 調整した筈の出力が、全て改造前の状態に戻っていたんだ!!」

「はあ?!」


 何だよそれ!? つまり徹夜の修正が無かったことになったって事か!? そんな事……

 ……あ。

 俺はある事に気づく。


「……ソラ、聞くべきことができたんだけど」

「ん? 何かしら?」


 ソラは首を傾げながら、俺の言葉を聞き出して……


「……ロードって、もしかして“装備している道具も元の状態に戻るのか?” 本人の怪我とか食事だけで無く」

「“そうだけど”」


 当たり前のことを、とでも言うような返事が。


「……なんで言わなかった?」

「言わなくてももう知ってるかと。あと、無駄な事してるように見えるけど、何か私の知らない意味があるのかなーって」

「……そっかぁ」


 俺は天井を仰ぎ見ながら、そう呟いた。

 これソラ殴った方がいいかな? って一瞬思っちゃったけど、これどちらかと言うと思い込みのせいでわざとじゃないっぽいし、俺たちの確認不足もちょっと責任あるかなーって。

 だから、このこみ上げた叫び声は留める事にしておいた。


「おい、と言うことは何か!? 私の徹夜の作業は一切無かった事になったって事か!?」

「そうなるわね」

「うおおおおいッ?!!」


 メタルマンは頭を抱えて膝を付いてしまった。

 自分の必死な作業が無かった事にされたのだ、当然だろう。


「……ん? おいソラ、使ったパーツの素材はどうなってる? 俺がわざわざ買った金属板とか」

「やーねえ、カイト。──逆に聞くけど、“昨日ユウカちゃんが食べた朝ごはんは元に戻ってたかしら? ”」


 戻ってない。戻ってないな。

 つまり消えたと。え、つまりそう言う事? 元に戻るって事は、付いてた余分のものは無くなるって事か?! 

 うわあ、勿体ねえ!? 


「こんな落とし穴があるのかよ、セーブポイント!?」

「おい、と言う事は何か!! また改造やり直しか!? その上で再出発しろと!?」

「そうなるわねー」

「ぐうっ!! ……いや、待て。……待て」


 ソラの言葉にショックを受けていたメタルマンが、ふと固まって、手の平を見せた状態でそう呟き続ける。

 何かに気づいたのか、ソラに改めて声を掛けており……


「確か、ロードをしなかった場合、“こっちの世界で過ごした時間分、元の世界に戻ったときも時間経過している”、と言っていたよな?」

「そうね、確かにそう説明したわね」

「……と、言う事は、だ……」


 メタルマンはそう前置きして……


「私のスーツの改造を適応する場合、ロードをせずに戻る必要があるよな?」

「当然、そうね?」

「──つまり、改造の時間分、向こうの世界の時間が経過していると言う事、だよな?」

「当たり前ね」


 ソラはメタルマンの質問に肯定し続ける。

 つまり、これ……


「──“向こうが危機的状況なのに”、悠長に改造する時間がいる必要があると?」


「……大丈夫よ、メタルマン!」


 ソラはそう言って、メタルマンの肩を叩いて……


「──改造の時間を短くすれば、問題解決よ!!」


 簡単に言ってくれる。その言葉は、俺とメタルマンはギリギリ飲み込む事が出来た……




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