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第10話

 ──あれから数時間。


 セーブクリスタルが再度ビカアアアッ!! っと輝きだし、部屋中が真っ白になり、そして……


「──くそう!! またここか!!」


 片膝を付いたメタルマンが、悔しそうに現れて床をガンッと殴っていた。

 おい、そこウチのフローリングなんだけど。


「まだまだあ!!」


 そんなことを考えている俺を無視して再度窓から出て行ったメタルマン。

 そして、大体20分後。


 再度ビカアアアッ!! っと輝きだし……


「──くそおおおああああッ!!!」


 再々度現れ、両手で床をぶっ叩くメタルマン。

 だからそこ、ウチのフローリングだって。

 あーもう、穴が空きそう……


 そして、再々度窓に戻っていくメタルマン。


 彼はこの20分ごとのループを、ずーっと繰り返していた。


「セーブしてて、本当に良かったわねー……あ、カイトー。お茶取ってー」

「自分で取ってこいよ、冷蔵庫そこあるだろー」

「今テレビで忙しいから無理ー」

「俺は昼飯の用意で忙しいんだけどー」


 そして俺達は、最初の1時間ほどは見守っていたのだが、だんだん面倒になってきて各々好き勝手に行動していた。

 結局もうお昼の時間まで経っちゃったし、昼食の準備をしなければいけないし。

 ソラに関しては、せんべい持ってソファーに寝転がりながらテレビ見てるし。

 おい、昼飯の用意っつってんだろ。何今せんべいなんて食べてんだ、入らなくなるだろご飯。


「──がああアアアアアッ!!?」

「……おい、あれ結局お前関係なんだろ、なんとかしろよ」

「えー。神様信じてない人を助けるとか無ー理ー」


 俺がメタルマンの方を向いてソラにそう言っても、ソラ自体は最早メタルマンに見向きもせずにテレビに夢中になっている。

 お笑いを見ているのか、アハハ、と笑い声までする始末。

 ちっくしょう、役に立たねえー。


 ……そうしているうちに、昼ご飯の準備が終わりかけると……


「────────…………」

「あ。無言で突っ伏してる」

「とうとう力尽きたのね」


 いつの間にか再度現れていたメタルマンが、無言で突っ伏していた。

 俺はそれを見て、シンプルに邪魔だなー……といった感想しか浮かんでこなかった。


「…………おい」

「あ、喋った」


 どうしようかなーこれ、とか思っていると、寝転がっている本人からそんな声が出されてきた。

 今まで無視してたのに、改めて向き直る事にしたらしい。


「……この状況は一体なんだ? 窓枠から戻る度に、時間が巻き戻っているぞ」

「それがセーブクリスタルの効果よ」


 カクカク、シカジカ。と、ソラは改めてセーブクリスタルの効果について、メタルマンに説明していた。

 それを突っ伏した状態のまま、黙って聞いているメタルマン。


「さて、これでようやく実感してくれたかしら? 何十回も死んで、何十回も繰り返しているんだもの。お固い頭も、大分理解させられたんじゃない?」

「……………………」


 ソラのその言葉に、長い沈黙を返すメタルマン。

 そのまま突っ伏した状態で、首を真っ直ぐ下に向けてしばらく黙った後……


「……………………非常に不本意だが、君たちの発言を考慮する必要がありそう、と言うことだけは分かった」

「本当に不本意そうね」


 ものすっごく重たい言葉で、そんなことを呟き出した。

 メタルマンはゆっくり起き上がって、フローリングの上で脚を崩して座り込む。

 立てた片膝に腕を乗せて、ゆっくり落ち着こうとするかのように長い息を吐いていた。


「────。しかし、そうか。そうか……私は、何度も、何度も。死んでいたのだな……」


 それはヘルメット越しで表情は分からなかったが、まるで万感の思いが込められた声色で呟かれた。

 ユウカの時みたいに、発狂し掛けているわけではなさそう。けれど、それでも何度も死んでいた、と言う事実に、思うところがあるらしい。


「全く、ようやく納得してくれたわけね。……それにしては冷静ね? 死んでたことを理解したにしては? 何度も死んで、頭の血も下がっちゃったかしら?」

「別にそんなことではない。“生きているなら、何度だってやり直せる”。それが自論だからだ。……例えそれが、死んで生き返ったとしても。ある意味その信念は継続している」

「なるほどね。とりあえず生きてるなら問題無いと、そう捉えているわけね」


 ふーん、とソラが呟き、感心したように手を顎に当てていた。

 そんなことより。と、メタルマンが立ち上がりながら喋り出す。


「仮に、仮にだが。君たちの発言が真実だとするならば、“私は20分ごとに一度死んで、この場所に戻されている”と言うことだな?」

「まあ、その通りよ」

「そうか……くそ、幻覚や夢では無かったのか……!」


 改めて自分の現状を知って、悔しそうに自分の掌にパンチを繰り出すメタルマン。

 それを見かねて、俺はある質問をした。


「……なあ。そもそもなんでそんなに短期間で死んでんだよ? その20分間で何があった?」

「別に。“インベーダーの侵入が母艦にあったから、その対処をしていた”に過ぎない。……その侵入者が思った以上の実力者で、私が何度も殺されてしまっていると言う訳だがな」

「インベーダーって、さっき言ってた“機械生命体”って奴らか?」

「そうだ」


 コクリ、とメタルマンは頷いて返事をする。

 基本的に大量に現れて襲いかかってくるらしいが、その中でもボスクラスのやつが、今メタルマンが対処しているものらしい。


「なあ、ちなみになんだけど。それって、逃げることは……」

「母艦に侵入されているんだぞ。撤退など最初から選択肢に無い。イコール死だ。ここで私が対処しなければ、母艦の残った人類全てが終わる」

「人類全てって……そっちも大分背負った状態なんだなあ……」


 メタルマンの話を聞いて、ユウカのことを思い出す。

 ユウカも、勇者として魔王討伐の旅に出ている筈だ。

 あの女一人の背中に、あの世界の人類の未来が掛かっていると思うと、大分重たいものを背負っているだろう。

 そう考えると、このメタルマンもある意味人類の運命を背負っているとも言える。


 おいおい、そう考えると重要人物ばっかじゃねえか。この家に来るやつら。

 ひょっとして、そんな奴らをあの女神は選んでいるのか? 

 そう考えていると、とうの女神(ソラ)が話しかけてくる。


「実際、あなたがあそこで負けた場合、あの母艦の人類皆殺しよ? いきなり正念場に行き着いたわねー」

「ッチ!! 最近奴らの動きが活発だなと思っていたが、ここに来て一気に攻め落としに来ていたのか……!」

「お前、なんでそんな事分かるんだよ」

「ふふん。私は女神よ? これでもなんだってお見通し♪」


 人差し指を立てて、片目を瞑って自慢してくる幼女女神。

 ふーん……とりあえず、言ってることは真実なんだろう。


「それにしても……ここまで何度もやり直しているのに負け続けているなんて、あなた思った以上に弱っちいのねー」

「違う!! 私は弱くなど無い!!」


 ソラの小馬鹿にしたような言葉に対し、メタルマンはバッと片手を広げて反論する。

 クソッ!! とメタルマンは悪態をつきながら……


「装備さえ……“装備さえ、整っていれば!! ” 後もう少しの差で勝てる筈なんだ!!」

「装備って?」

「この私の武装の事だ。このパワードスーツに内蔵してある武装、実はいくつかメンテ中で使えない状態だった。だから私が弱いのでは無い! 間が悪かっただけなのだ!!」


 そう言い訳がましく叫びながら、腕を見せてくるメタルマン。

 こうして見せられても、パッと見素人の俺たちにはよく分からないが……まあ、そう言うもんなんだろう。


「つっても、メンテ中っつったってどうするんだ? そのメンテしている武装を取りに行きゃいい話じゃねえのか?」

「いや、そんな時間は無い。向こうの世界に戻ったら、1分でも早く侵入者の所に向かわなければ、被害は甚大だろう」

「じゃあどうするのよ?」


 そんな俺たちの質問に対して、メタルマンは一瞬頭を俯かせて……


「──“この場で作るしかない”」


 そう、深い決意をしたかのように言い出した。


「確か時間は経たないんだったな? この場所で過ごせば」

「え? うん、一応ロードすれば、実質」

「ならば問題ない。こっちの世界で武装を整える」


 メタルマンは両腕を組んで、コクリと頷くようにそう言った。


「作るって、作れるもんなのか? この場所で装備を?」

「問題ない。メンテ中の武装と言っても、いくつかは内蔵したままの機能がある。それを無理矢理解放させ、使えるようにすれば確実に勝てる」

「なるほどねー。とりあえず発動さえ出来れば、その後の不具合は考えなくてもいいって感じね」


 ふーん、と俺達は納得した。

 とりあえず、なんとかする方法はあるらしい。


「そこで、だ……」


 そうメタルマンは改めて、俺たちの方を見た。


「機能を解放するため、メンテナンス用の道具を借りたい。この家にはあるか?」

「メンテナンス用の道具? それって、ドライバーとかでいいのか?」

「ひとまず、全部出してくれ。使えるものがあったらそれを使いたい」


 えー、しょうがねえなあ……

 そうお願いされてしまったから、俺は家のあちこちを探して道具を探し始めることにした。

 つっても、ドライバー位しか使わねえから全部と言っても殆どねえぞ……そのドライバーすら、何処に仕舞ったっけな……? 


 そう考えながら、あちこち探し……


「ほらよ。これで全部だ」


 そう言って、俺はメタルマンの前にドライバー一式と、ハンマー。それにレンチを手渡した。

 一応ドライバーは、大中小揃っていて、マイナスドライバーも付いているお得セットのやつだ。


「……なんだこれは」


 しかし、俺の持ってきた道具達を見て、メタルマンは不満そうに呟いた。


「なんだ? 足りないってのか? 悪いが仕方ねえだろ……一般家庭にある道具なんて、普通そんなにねえんだよ。どうしても必要な物があるってんなら、買ってくるしか……」



「──“電動は無いのか? ”」


「お前、人様に物借りてスッゲーワガママだなおい」


 俺はついイラッとして、そんな事を言ってしまっていた。

 この人、初めて会った時から思ったけど、結構傲慢な性格してるなおい。

 あるか、そんな高価な道具。


 そう思っていると、真面目な話だ、とメタルマンに突っ込まれる。


「この装備にどれだけネジやパーツが使われていると思っている? 細かいところはともかく、一々手作業をしていたら日が暮れるぞ」

「えー、別にいいだろうが、実質時間気にしなくていいんだし……」

「それに、やはり道具が足りなさ過ぎる。ドライバーはともかく、レンチのサイズも複数は欲しい。後は“はんだごて”とかもだな」


 ッチ、電動はともかく、やっぱりそもそもの道具が足りなかったか……

 まあ、そっちはしゃーねえ……


「わーったよ。じゃあ必要なの買ってくるから、リストか何か書いてくれ。ほれ、メモ帳とボールペン」

「いや、素人の君に任せるのは心配だ。私も付いていく」

「いや、付いていくって……その装備脱いでくれんの?」

「脱ぐ訳ないだろう。こんな見知らぬ場所で無防備を晒すなど。ふざけているのか?」


 ふざけているのはどっちだ。……そうツッコミたかったが、一応異世界人としての視点からすると、確かに心配になるのは当然だと思うので、一応黙って置いた。

 ユウカなら黙って付いてきてくれてたのに……


「じゃあどうすんだよ。そんな格好目立ちすぎるから付いてこれねーぞ?」

「む? ……確かに、流石に見知らぬ場所で目立つのは私としても不本意だ。そうか、この格好はこちらだと不適切か……」


 ならばこうしよう、とメタルマンが呟き、腕のパーツの一部をめくってポチッとボタンを押した。


 ──直後、メタルマンの姿がスーッと消えていく! 


「うお!? なんだ!?」

「嘘! 見えなくなった!?」

『これなら問題ないだろう。透明になって君達に付いていけば、問題ない筈だ』


 メタルマンの姿は見えないのに、声ははっきりと聞こえてくる。

 スッゲー、本当の透明人間じゃんか……


「はえー。科学ってこんなことまで出来るようになったのねー。あ、ここ固い。ここね」

『おい、ペタペタ素手で触るな。透明でも素通りするわけではないから、実際にはそこにいるんだ。私のスーツを指紋で汚さないでもらおうか』


 ソラが感心しながら触っていると、イラッとしたようなメタルマンの声が聞こえてきた。

 なるほど、ちゃんとそこにいるんだな……


「……ま、確かにそれなら大丈夫か」

『そうだろう。なら、さっさと出かけてくれ。そして私の道具を揃えてくれ』

「えらっそうに……あ、しばらく待ってくれ。お昼ご飯作ったから先食べてからな」

「あ、そうね。私お腹ペコペコー」


 そう言って、俺とソラはテーブルについた。

 既にお昼ご飯は並べてある。


『おいマジか? 私を放って置いて食事だと? 正気か?』

「別にいいだろうが。……あ、一応アンタの分もあるけど、食うか?」

「カイト、わざわざこんな奴の分も用意したの? 相変わらずお人好しというか……」


 俺のした事に、ソラが呆れ顔でそう言ってくる。

 なんだよー、別にいいだろ。

 つーか、こんな奴って……こいつ呼び出したのお前だろうが。


「いらん。見知らぬ奴らの食事を口に含むなど正気の行為ではない」

「あ、そう……じゃあ、ソラいるか?」

「わーい、ありがとう! あー、おいしっ。おいしーわー! こんなの食べられないって、可哀想よねー!」

『いいから、さっさと食べてくれたまえ……!』


 そうして、俺達は苛立ちのメタルマンが立っている中、見せ付けるようにしてゆっくりご飯を食べていったのだった……


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