「粗茶ですが!」
「いらん。得体の知れない相手が入れた飲み物など、口に含められるか」
「あ、そう……」
目の前に、パワードスーツを纏った男。確かメタルマンと名乗った男が、対面のソファーに座っている。
ユウカの時と同じようにソラがお茶の入ったコップを渡したが、素っ気無い形で否定されてしまって、スゴスゴと引き下がっていた。
彼女の時とは違い、目の前のメタルマンは明らかにこちらを警戒してますよ、と言った不機嫌オーラを放っている。
「……さて、改めて状況を整理させてもらおうか」
メタルマンは、両腕を組んだ状態でこっちに向かい合っている。
ちなみに既に頭部のパーツは閉じた状態だ。よっぽどこちらに隙を見せたく無いらしい。
「君たちは、家入界戸(いえいりカイト)と女神ソラリスの分神、ソラと言うのだったな?」
「はい、そうです……」
「そうよ」
パワードスーツのマスク越しに、俺たち一人一人を見渡しながらそう確認して来た。
表情が分かんねえから、何考えてるかよく分からねえ……
「そしてこの家は、セーブポイントと呼ばれる異世界で、私は女神ソラリスと言う存在に選ばれて、ここにやって来れてしまったと……」
「大体そうね、うん」
「そして私が選ばれた理由は、セーブクリスタルとやらを使わせるのが目的なのだな?」
「そうそう」
メタルマンの問いかけに、ソラがテンポよく頷きながら返答していく。
なんだ、最初窓ガラスブチ破って現れたときはどうしたもんかと思ったが、意外と話が早いやつか……? 理解力が早えー。
「……なるほどな」
そんなことを考えていると、メタルマンがコクリ、と一度頷き……
「──“そんなホラ話で、私を騙そうとしているのがビックリだよ”」
そう、顎を上げて見下すような体制でそうのたまってきた。
あ、違ったこれ。全然信じてねえなコイツ。
「ちょっと!? 何言ってるのよ、ここは本当に異世界よ! あなたのいる世界とは別なの!!」
「ふん! そんなの、適当に“ワープゲート”を設置して、別の場所に繋げればいくらでも誤魔化せる。なんの証明にもなりはしない!」
ソファーからバッと立ち上がって反論するソラに対して、頭を横に向けて聞く耳持たないメタルマン。
なんか“ワープゲート”とか言ったけど、そんなものがそっちの世界にはあるのか? スッゲー技術だな、おい。
……って、よく考えたらソラにこの家のあちこちを異世界に繋げられまくってるから、こっちの方がスゲーのか?
まあ、それは置いておいて。……やっぱすぐには信じられねーよなあ、普通。ユウカが比較的素直に信じてくれてただけで。
「寧ろ私からすれば、君たちは私のホームの窓に変な“ワープゲート”を設置した変な奴ら、と言う認識だ。よくも私の拠点にそんなものを付けてくれたな。貴様ら、“インベーダー”の手先か!?」
「“インベーダー”? なんだよそれ?」
「ふん、シラを切るつもりか? 世界中に突如現れた、宇宙から現れた“機械生命体”。そいつらによって、我々人類は陸に安全に住む環境を失った。そんな奴らを知らないだと? 誤魔化すにしても適当過ぎるな!」
そう言って、こっちを馬鹿にしたように見てくるメタルマン。
なんだろう、だんだんイライラしてきたな……なんで俺がこんな敵意向けられなきゃいけねーんだよ。
「生憎、俺はそっちの世界の状況を知らねーんだよ。寧ろ、俺の方こそ勝手に人の家に不法侵入してくる奴だって思ってんだ。さっさと帰ってくれねーかな」
「ふん! 言われなくてもそうさせてもらおう。一刻も早くこの場から去りたいのでな」
そう言って、ソファーからメタルマンは立ち上がり始める。
それに待ったを掛けたのはソラだった。
「待って待って! その前にセーブクリスタルにセーブして行って! じゃ無いと困るわ!」
「断る。“私のパワードスーツの情報を抜かれるかも知れない”のでな。得体の知れないそれに触るつもりは無い」
「なんですって!?」
引き留めたソラに対して、そんな事を行って背を向けるメタルマン。
まあ、普通怪しいよなあ……と、俺も薄々同意していた。
否定されたソラは、ムキになって反論していく。
「いいからセーブして行きなさい! 女神ソラリスにも言われたでしょ!」
「あんな夢の内容。私は信じるつもりも、従う理由も無いからな」
「何よ! こうして分神である私がいるのが、その夢の内容の証拠よ! 信じるに値するでしょう!?」
「偶然だ。仮にそうだとしても、どの道言う事を効く義理は無い」
尽く反論されて、ソラはむむむ……とほっぺを膨らませた顔をしていた。
まあ、正直メタルマンの言ってる事の方が、普通に納得出来るからなあ。
「……死んでも、取り返しが付かないわよ?」
「ああ、そう話していたな。しかし、こう言おう。“そもそも、死んだら取り返しがつかないものだ”。そんなものを信用しろとでも?」
ソラのその言葉に、メタルマンはセーブクリスタルの方をチラリと見ながら、そう言っていた。
……確かに、激しく同意だ。本来、死んだら取り返しがつかないもの。
……ユウカのように、死んでももう一度やり直せると言う状況の方が、イレギュラーなのだ。
「……そう」
そうすると、ソラはそう呟いて頭をうつむいてしまっていた。
「ようやく分かったか。ならば私は、このまま帰らせてもらおう」
そうしてメタルマンは、入ってきたときの窓枠に向かって歩いていく。
よくみると、外につながっている風景が俺の庭じゃ無い。ユウカの時のように、異世界に繋がっているんだろう。
それと反対に、ソラは俺の方にトテトテと近づいてくる。すると、俺の腕を握ってきた。
なんだ、ショックを受けたか? そう思っていると……
「……それなら、こっちにも考えがあるわ」
ソラはそう言って、パチンと片手で指パッチンしていた。
「っ!? な、なんだ!? 何をした、そこの幼女!!」
すると直後、メタルマンが急に慌て出したように叫び出す。
どうしたんだと振り返ってみると……
「……あれ、“窓の外が直ってる? ”」
よく見ると、先ほどまで違う風景だった窓枠の先が、“元の俺の庭”になっていた。
つまり、メタルマンの世界らしき場所ではなくなっていた。
「貴様! まさか“ワープポイント”を解除したな!?」
「えー? 知らなーい。“ワープポイント”なんて、私知らないし。“ただマーカーのリンクを、解除しただけ”だよー?」
ソラは素知らぬ顔で、そんなことを抜かしていた。
マーカー、つまりユウカの時のような、異世界をつなげるために必要な奴の効果を無くしたってことか……?
「でもそうねー? もしどこかの誰かさんが、セーブクリスタルに触ってくれたなら、マーカーのリンクが再接続されるかもねー?」
「きっさまあ! そこまでして、私の情報を得たいのか!!」
ソラのその言葉に、メタルマンは苛立ちを隠せないようにソラに詰め寄っていた。
対してソラは、情報なんていらなーい。ただセーブだけしてもらえればいいだけー、と呟く。
「ック! まあいい、この場所から出て現在位置を調べれば、自力で帰れる! 貴様のようなやつに“ワープポイント”を再起動してもらう必要すらない!」
そうして、やはりズンズンと窓に向かっていくメタルマン。
やべえ、あんな奴があの格好でこの世界の外に出られたら、一気に騒ぎになるぞ!
そう思って、俺も止めようとすると……ギュッとソラに腕を握られる。
振り返ると、ソラは怪しい顔をしており……
「……ふふ。出られたらね」
そんなことを呟いていた。
「あ? ソラ、どう言うこと……」
「ふん。さらばだ」
俺の問いかけを遮って、メタルマンが窓枠を開けて外に出ると──
──“別の窓から入ってきた”
「──何?」
メタルマンがそう疑問の声を上げて、一歩元に戻ると、通った窓枠の位置に戻っていた。
今度は別の窓から出ようとすると、再度別の窓枠から戻ってくる。
ドアを選んでも同様だった。玄関のドアから出ようとしたら、リビングのドアから戻ってくる!
「くくっ、あーっはっはっは!! 無駄よ! この家は今“無限回廊状態”なの! どこから出ようとしても、この家内のどこかに通じているわ! あなたは閉じ込められたの!」
「き、きっさまああああ──ッ?!!」
「これで分かったでしょ? これでも私は分神なの! さあ、元の場所に戻りたかったら、大人しくセーブしなさい! あーっはっはっは!!」
「お前、人の家をこんなメチャクチャに……」
まるでどこかの悪人のように声を上げているソラに対して、俺は色々言いたい事があったが、正直昨日からユウカの件もあったから凄く疲れていた。
なのでソラのこの状況の事についてはしからず、ただ成り行きを眺めている事にする。
「く! 誰が屈するか!! こうなったら、この家の構造ごとぶち壊して……!!」
「いや、止めろテメエ?!」
と思っていたら、あからさまにヤケになったメタルマンに、家そのものを吹っ飛ばされそうになってやがる!?
止めろ!? その手のビーム砲らしき物のチャージを止めやがれ!!
「──そんな無駄な事にエネルギー使う余裕あるの?」
「……何?」
すると、さっきまでの煽りの表情はなりを潜めて……ソラが真面目な表情になってメタルマンに問いかけていた。
さっきまでとは違う様子に、メタルマンも疑問の声を出している。
「あなた、その急いでいる様子を察するに、“母艦の危機的状況”なんでしょ? だから急いで帰りたい」
「……それがどうした」
ソラの言葉に、メタルマンは低い声で返事をしていた。
どうやら、図星のようだ。
「だったら、こんな場所で無駄なエネルギーを使う余裕なんて無いはずよね? 元の世界に戻ったら、即戦闘よ? エネルギー不足の状態で勝てる戦いな訳? あなた達の敵って」
「…………」
「頭に血が上りすぎよ。自分の守るべき優先順位を考えなさい」
そう両腕を組みながら、説教をしたソラだった。
メタルマンも、その言葉を否定出来ないのか顔を少し俯かせている。
……一見ソラの言ってることが正しいように聞こえるんだけど、けどこいつ、よくよく考えたら閉じ込めてる張本人なんだよなコレ。俺はふとそうツッコミたくなったが、黙っておいた。
「……しかし、私のデータが奪われたなら、今後の戦いが……」
「逆に聞くけど、私達があなたのデータを奪ったとして、それを利用出来ると思う? そもそも、私達があなたの敵と繋がってる可能性があるように見える?」
そうソラが言うと……メタルマンは、ゆっくり顔を上に向けていた。
天井を仰ぎ見て、何か考え込んでいるようだ。
「……こんな変哲も無い男と、不可解な幼女が、機械生命体の仲間の可能性は低い……それに、時間を掛ければ掛けるほど、母艦の危険がある、か……」
くっ……! と、めっちゃ悔しそうにメタルマンが、伸ばした腕を折っていた。
そして諦めたのかズカズカとセーブクリスタルに近づいて……
「タッチだ! おい、これでいいんだろう!」
「ちゃんと“セーブする”って念じた?」
「チイッ! “セーブする”! ッヌ?!!」
イラつきながらも、メタルマンはソラの言う通りに行動して、セーブクリスタルはパアアッ!! っと、ユウカの時のように一瞬激しく輝いていた。
「はい、ありがとうー♪ これで用事は済んだわ。帰っていいわよ」
そう言って、パチンと再度指パッチンをすると、窓枠の外が再度メタルマンの世界らしき風景に繋がっていた。
「ふん! 私のデータを何に使うか知らないが、悪用するんじゃないぞ!!」
「そんなつもり、一切ないわよー」
「どうだかな! では、さらばだ! 2度と会うことはないだろう!」
そう言って、メタルマンは割れた窓枠からメタルマンの世界に向かって、飛び出して行った。
あー、あれやっぱり飛べるんだー。と俺は場違いな感想を感じており……
「あー……疲れたわー、カイト、オヤツ頂戴ー」
「お前、あんだけ好き勝手して……」
好きに振る舞ったこの幼女は、あろうことか一仕事終えたかのノリで、おやつを要求して来やがった。
疲れたのは俺もだよ、どうすんだよこの割れた窓。まだ片付けてねーぞ。
俺はそんなことを、天井に視線を向けてそう思っていたのだった……
☆★☆
「ったく、窓ぶち破ったまま帰りやがって……片付け請求すればよかったか?」
俺は、リビングに散らばった窓ガラスの破片をチリトリで取りながら、そうぼやいていた。
そして、あんなパワードスーツのやつを呼び寄せた原因である幼女は、椅子に座ってソーダアイスをペロペロと舐めやがっている。
「いやー、本当に無事セーブが終わってよかったわー。これで一安心ね」
「というか、そんなにセーブをして欲しかったのかよ、あいつに。なんでそんなに?」
「なんでって、そりゃあ……」
……と、ソラの言葉を聞く前に。
セーブクリスタルが急に一際輝き出した。
「って、またか!? まさか、またユウカか!?」
「んー、いや多分……」
ビカアアアッ!! っと輝きだし、部屋中が真っ白になり、そして……
「────は? ここは……さっきの場所、か?」
……さっき別れたばかりのメタルマンが現れた。
おい待て、まだ20分も経ってねーぞ。
「あーあ。やっぱり、“早速死んじゃったんだ”……」
額に手を当てながら、そんな言葉を溢すソラ。
ユウカの時と同じような言葉で、けど何故か悲壮感が感じられない、呆れが8割混ざっているかのような声色だった……
ヒーロー:メタルマン
本名:スカイ・ウォーカー
33歳
185cm
イメージカラー赤
秩序・中庸
男
アメコミヒーロー世界観から来た存在。変身スーツを装着して戦う。
警戒心が強く、最初はセーブポイントの事も眉唾だったが、状況的に母艦の危機真っ最中の為、渋々いう通りにセーブだけはした。
そもそも敵は機械生命体で、人間同士で争う、ましてや幼女と青年と戦う気など起きなかったらしい。
それが彼にとって、人生をやり直せる間一髪のセーフとなった。