「あー! カイトずるーい! 私も食べるー!」
「いや、ずるいも何も他に大量にあるだろーが!! これは俺の分だ! そのつもりで買ったやつだったし!」
「その“のり塩”味は、その袋しか無いじゃない! 私も食べたくなっちゃったの!」
「うっせえ! だったら選んどけ! お前はうすしお味があるだろーが!」
ギャイギャイと騒ぐ中、ユウカは他のクッキーのお菓子などを食べて、ほおを綻ばせているところだった。
更にそこに、ジュースをドンっと。
オレンジジュースはユウカも元の世界で飲んだ事自体はあったらしいが、やはりこっちの世界の方が味が甘くて良かったらしい。とても驚いている様子だった。
そんなこんなで、時間が過ぎていき……
「いやー、食べた食べたー」
「ああ。ごちそうさまでした。……本当に、ありがとう」
「どういたしまして、と。ったく、もはやこれ夜ご飯だな……」
こうして、俺たちはお菓子を食べ終えた。
実際はまだまだ大量に残ってはいるが、これ以上は流石に食べきれない。
賞味期限はまだまだあるし、ゆっくり食べて行こう。そう思って、片付け始めていた。
「さて、と。ユウカちゃんどうする? もう夜だけど、元の世界帰る?」
「それは……そう、だね。帰らない、と……」
そうソラが聞くと、明らかにテンションが下がった様子にユウカはなっていた。
まだダメそうか……まあ、一日や二日で治るわきゃねえか。下手すりゃ一生もんだろうしな……
「すぐに帰る必要はねえよ。何日かくらい、ウチでゆっくりしていけ」
「……良いのかい? そこまでしてもらう必要は……」
「そんな顔して、どの面で帰るつもりだ? 良いからゆっくりしていけ。幼女女神よりは相手楽だろうしな」
「ちょっとー、幼女女神って言わないでよー!」
プンプン、とソラが怒っている中、ユウカは、まだ落ち込んでいる様だが、明らかにさっきよりは顔色が良くなっていた。よしよし。
「ほれ、ソラ。テーブルの上、余ったお菓子片付けんの手伝えー」
「はーい。良いしょっと」
「あ、じゃあボクも……」
「あ、いや……いや、うん。そうだな、お願いするよ」
俺は一瞬、ユウカに座っておいて良いと言おうとしたが、自分から積極的に動ける様な意識になってたんだ。
わざわざ否定する事は無いと思って、ありがたく受け入れた。
そうして、テーブルの上は見事に綺麗になくなっていた。
ふう、後片付け完了っと。
「あ、そうだ。ソラ、お風呂もう入っておけよ。……そう言えばユウカ、風呂って入った事……?」
「風呂? 湯船のことかい? それなら入った事はあるけど……」
「シャワーは知ってる?」
「シャワー?」
ああ、うん。分かった。
これ説明しないと駄目だな。やっぱ異世界人なんだな、こいつ。
「ソラ、一緒に入って説明してやってくれ」
「はーい。ユウカちゃん、こっち来てー」
「あ、うん」
そうして、ソラとユウカはお風呂場に入っていった。
聞くと、シャワーや蛇口の仕組みにおおー、と言う関心の声が聞こえてきていた。驚いてくれている様で何より。
それはともかく。時折ひゃあああ!? とか、おっきいー! さ、触るのやめ……とか、そんな声が聞こえてきた様な気がするが、そっちは聞こえなかった事にしておいた。
決して、変に声だけで想像してムラムラしてしまいそうだったから、では無い。決して。
☆★☆
……こんなにゆったりしていて、良いのだろうか。
「──それじゃあ、カイト。おやすみー」
「おう、おやすみー」
「行こう、ユウカちゃん!」
「あ、ああ」
そうして、私はソラ様……女神の分神に連れられて、二階の部屋に上がって行った。
聞くと、そこはソラ様の部屋として割り当てられた部屋だったらしい。
私は流石に別の部屋で寝ようか提案したが、ソラ様たっての希望として、一緒に寝て欲しい、との事だった。
そう言われてしまうと、ボクとしては否定出来ないため、大人しく一緒にベットで寝る事になっていた。
ソラ様の部屋のベットで寝転ぶと、思った以上にフワフワだった。
ボクの世界のベットでも、これほどのふかふかだと貴族レベルの高級寝具として扱われてもおかしく無いほどで、とてもビックリした。
こんなもので本当に寝ても良いのかと、再度迷ってしまった程だった。
「それじゃあ、ユウカちゃん。おやすみー」
「あ、ああ。おやすみ」
そうして、部屋の電気を消して。(これもスイッチ一つで、簡単に消灯出来たのが驚いた)
ボク達は一緒のベットで寝る事にした。枕は別の部屋から一つ追加で持ってきていた。これもフワフワだった。
……けれど。
「────っ」
……“寝れない”。
ワタシは今、眠る事が出来そうに無かった。
昼間はまだ、カイトやソラ様と一緒にいて、彼らの様子を見ることが出来て誤魔化せた。
けれど、こうして電気を消してベットで横になると……否が応でも思い出す。
ワタシが……死んだ時の事を。
──ワタシは、今生きている。それは確かだ。
けれど……死んだ事も、また事実だった。
その恐怖が。痛みが。まだワタシの心に突き刺さっている。
彼らが気を遣ってくれていた事は、すぐに分かった。けれど、だからと言って、この恐怖が簡単に消え去る訳ではなかった。
体の痛みは、既に消えた。けれど、記憶が……心が覚えてしまっている、この痛みは。消えないのだ。
──こんな事なら、記憶すら戻ってくれたらありがたかったのに。そんな事を思ってしまう。
……分かっている、こんなのは我儘だって。
そもそも、死んだはずの私がもう一度こうして生きているのだって、女神ソラリス様のおかげだ。
だから、女神様のお力に感謝こそあれど、否定する様な意思など……
「──眠れないの?」
「──っ!!」
「良いよ。正直、まだちょっと喋りたかったし」
……ボクがそんな事を考えていると、ソラ様が目覚めてしまっていた。
そうして寝転がりながら私に向き合い、ポツリと話し出した。
「──ごめんね」
「……え?」
すると、唐突にソラ様は謝り出した。ボクは理由が分からなかったが……
「……あのね。実は私、“人の心がよく分かってないの”」
「──っ!!」
「私、これでも一応神様だからなのかな? 人の視点で立って考える、って言うのが、思った以上に難しくて」
いろいろ試しているんだけどね、とソラ様はそう言った。
それは軽く微笑みながらも、どこか寂しそうな表情で。
「だから、ね。……本当は、あなたが何故そんなにショックを受けているのか、理解してあげられないの」
「……それ、は……」
真正面から、ワタシの気持ちが分からない、と言われてしまい、どう反応すれば良いか分からない複雑な感情を抱いていると……
「……私にとって、人ってね。“セーブさえしていれば、いくらでもやり直せる存在”と思ってしまっているの」
「あ……」
「だからね。あなたがセーブしたあと、オークに殺されたって言われても。“あー、死んじゃったんだなー”って、そんな感想しか抱けなかった。……人にとっては、そんな問題じゃないらしいって事は、知識としては知ってるんだけどね」
けれど、実感は出来ていなかったと。ソラ様はそう告白していた。
「ごめんね。こんなひとでなしで」
「それ、は……いいえ、そんな、事は……」
「けど、ね……」
そう言って、ソラ様は額をワタシの額に当てて……
「──“カイトの事は、信じて良いよ”」
「──っ!!」
「彼は、私と違って“人の痛みを分かってあげられる人”。“人の苦しみを理解してあげられる人”。私は、あなたの苦しみを理解してあげられないけれど……彼なら、理解してくれようとしてくれるわ」
例え、世界が違ったとしても。
体験した事のない事は、本当の意味で、理解して上げられないとしても。
それでも。彼は分かってあげようと……知ってみようとし続けてくれるだろう。
そう、ソラ様は言っていた。
「──そう、なんでしょうか……」
私は、彼とは昨日出会ったばかりだ。そんな深く知った仲ではない。
けれど……それでも、彼が大分お人好しだと言う事は、短い期間ながらもはっきりと感じていた。それだけは確かだ。
「そうなのよ」
クスクス、と女神様は笑い……
「──だって、私が選んだ男だから」
そう、綺麗な笑顔でそう言っていた。
それがワタシにとってちょっとクスリとして。
「……ずいぶん、信頼してるんですね。彼の事」
「まあ、そうね」
「差し出がましい様ですが、何故そんなにも信頼を? 彼、確かあなたにも昨日出会ったばかりと聞きましたが」
私はそう、疑問に思った事をソラ様に聞いていた。
ちょっと不躾な質問かな、と思ったけど、ソラ様はうーん……と悩み始め。
「……まあ、これくらいなら話してもいっか。私はセーブポイントを司る神様だと言う事は知ってるわよね?」
「ええ、まあ。女神ソラリス様がそう言ってましたね」
でさー、と彼女は続けて……
「──この世界が、“既にやり直した世界”だったと言って、あなたは信じる?」
「──え?」
「その上で。この世界だけでなく、複数の世界がバットエンドで終わった事があったとしてー……」
それから。一呼吸置いて、ソラ様は……
「──それを覆せるかもしれない存在がいたとしたら、あなたはどうする?」