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第5話

「二人とも、あんま離れんじゃねーぞー」

「はーい」

「あ、うん……」


 俺は、ソラとユウカを連れて外に出歩いていた。

 俺が先頭となってゆっくり歩いていて、後ろからソラ、ユウカがついて来ている状態だ。

 ソラは既に慣れた様子でついて来ているが、ユウカは常にキョロキョロと辺りを見渡していた。


「凄い……しっかりと整った道だ、これは巨大な石か何かで作られているのかい? 凄く平らに整った状態で、とても長い。土系統の魔法の応用かな……?」

「それはコンクリートって奴だな。えっと……粘土のすごい版みたいな奴で作られてる」

「説明雑くない? 大学生なのに」

「うっせえ、それなりにいい説明だろうが。……っと、ユウカ。ちょっとこっち寄ってくれ」


 ソラが茶化してくる中、え? と呟くユウカの手を引いて、道路の端に寄せる。

 すると、俺たちの後ろからブロロロロッと車が一台横通り過ぎて行った。

 それを見て、ユウカは目を見開いて驚いている。


「っ?! あれは何だい!? 鉄の箱……!? いや、中に人が見えた……馬車に近いかな? けど馬がいなかった……?」

「へえ、察しが良いわね。あれは“車”よ。馬の必要の無い馬車と思ってくれればいいわ。便利なのよ」

「へえ……!? どうやって動かしてるんだい? 魔石か何か?」

「ガソリンってのがあってね。燃える液体みたいなもので……」


 興奮しているユウカに対し、得意げに説明してくソラの姿。

 そうして歩いて行く中、目のつく様々なものに対して、同様に興味と説明を繰り返していっている。

 よしよし、気分転換は上手くいってそうだな……

 俺は二人の姿を見て、そう確信していた。


 ユウカ自体は、この世界を歩くのは初めてだからな。そりゃあもの珍しいだろうさ。

 とりあえず少しでも、このお出かけがいい影響になってくれると思って出歩いてみたが……さて、どうなることやら。

 っと、そうだ。


「ユウカ、その服大丈夫か?」

「え? あ、ああ。大丈夫。……思った以上に動きやすくて、着心地いいね、これ」

「悪いな。流石にこっちの世界で、あの鎧姿は目立ちすぎるんでな。その格好で我慢してくれ」


 そう、あの黄金鎧で外を出歩いた日には、職務質問待ったなしだ。

 だから俺はユウカに、問題無いように別の服を貸していた。

 手持ちのジーパンとTシャツを着させて、なんとか外を出歩けるように仕立て上げたのだ。


 流石に剣とかは申し訳ないが置いてきて貰った。じゃないと鎧を脱いでも意味ないからな。

 唯一の武器を手放した状態で、不安そうにしていたが……そこは仮にも女神であるソラに説得して貰って、なんとか渋々納得して貰った。

 俺より、女神としての言葉の方がまだ納得出来るだろうからな。見たところ、一応知り合いだったらしいし。……この幼女の方が信頼度が高いという事実に関しては、ちょっと思うところがないわけでもないが。


 ボサボサだった髪の毛や顔も、ソラの手によって元の綺麗な状態まで整えられている。

 まあ、綺麗にしたのはいいけど、元々のポテンシャルも相まってかその顔も髪も、どの道日本だと目立つからまだ注目は浴びるだろうが……まあ、流石に警察に呼ばれる事はないだろう。


 そんなことを考えていると、背後でソラがユウカに話しかけている声が聞こえてきた。

 多分、あいつも不安そうなユウカを落ち着かせようと、会話しようとしてくれてるんだろう。

 ひとまず、ここは任せようとして……


「大丈夫? おっぱいキツくない?」

「え!? あ、ああ、いや。一応、まあ、大丈夫だけど……」

「本当に~? あなた結構いいものお持ちだったじゃない。私の本体と同じぐらいよ。男物のTシャツじゃキツいんじゃな~い? 今もそのTシャツの柄が、可哀想な感じに伸びてるしー」

「え、や? その……っ!?」

「おいクソ幼女。お前天下の往来でセクハラしてんじゃねえよ。誰かとすれ違ってたらどうすんだ」


 全然任せられなかった。何やってんだコイツ。

 俺の背後で、下世話な目をしてユウカを見つめていたソラに対して、俺は釘を刺しておく。

 見ろ、ユウカのやつ胸を腕で押さえて赤くなってるじゃねえか。


「そんな事言ってー。カイト結構いいお年だし、男の象徴が暴走しそうになってんじゃないの~? ユウカちゃん、気をつけなさい! 男はみんなけだものよ!」

「おうテメエ。人の評判落とそうとしてんじゃねえよ、居候がよお」

「い、いや! 大丈夫さ! ボクは勇者だからね! 自分が女であるという事は、冒険の旅に発ってから意識した事はなかったし……」


 そう言ってる割には、ユウカは多少のテレが隠せていない。

 それに気づいているソラは、ふーん……と、いたずらを思い付いたような表情で呟く。


「へー、そう。と言う事は、男湯に入っても問題無いって事かしら。カイトー、これから銭湯行きましょう銭湯。……あ、もしかして元々そのつもりだった? だとしたらごめーん、余計なお世話だったわ。ユウカちゃんと一緒に入って来てね」

「行くかボケエ!? 全然違う所だよ、今向かってる場所は!!」


 お前本当に俺の評判どうしたいの? 貶めたいの? 一度分からせた方がいいんじゃねえのか、このクソガキ……

 そんなことを考えていると、ユウカが怯えたような表情でこっちを見ていた。

 いや違うから、俺そんなんじゃないから! と、思っていると、何やら違うようで……


「戦闘……? た、戦いに行くのかい? け、剣は置いて来ちゃって……た、戦いじゃないって……っ」

「あらやだ。渾身のボケが潰されてしまったわ。無知って怖いわー。ムチムチだけに」

「お前マジで暫く黙っててくれない? 頼むから」


 俺は心の底から、ソラに対してそう思っていた。

 どうやら、銭湯を戦闘と聴き間違えてしまったらしい。

 オークとの戦いでトラウマ発生中にとっては、戦闘行為の連想自体今は恐怖になってしまっているんだろう。

 そういうのじゃないから、と俺は怯えるユウカを宥める。


「ったく。これから行くのは“買い物”だよ買い物、ただの」

「なーんだ。じゃあどこ行くの?」

「コンビニだよコンビニ。丁度近くにあったからな」


 ほら、あそこだ。と、俺は遠くに見える高い看板に指を刺していた。

 デカデカと、よくあるチェーン店の看板がそこに立っている。

 スーパーじゃないのー? という言葉に対しては、流石に初見で広い店に行かせるのは心配だったから、今回は無しにした。


 とりあえず、だから戦いじゃないと説明したつもりなのだが……まだユウカは心配そうな顔をしていた。

 何だ、まだ何が心配なんだ? と思っていると……


「か、買い物かい? だとすると、お金は……? あ。一応聞くけど、この金貨って使えるかい……?」


 そう言って、ズボンから取り出してきたのは皮の袋で、その中から言う通り金銀銅の通貨を取り出して見せてきた。

 うお、スッゲー。マジの金貨か、これ? 実際にこうして見るのは初めてかもしれねえ。

 でも……


「悪いが、使えねえな。金貨そのものに価値はあっても、通貨としては直接は無理だな」

「うう、やはり……どうしよう、となるとボクはこの世界の通貨は一切持っていないよ……」

「ああ、それなら安心しろ。今回は俺の奢りにする予定だから」


 なるほど、通貨の心配をしてたのか。

 結構しっかり状況把握してたんだな、コイツ。

 それを聞いて、ユウカは驚いた表情でこっちを見てきた。


「い、いいのかい? そこまでしてもらう理由は……」

「いいっていいって。とりあえず、お前の気分転換にはなるだろ? ついでに、ちょっとこっちの世界の事知って貰おうと思ってな」


 これは一応本当だ。

 あんな死にそう、というか実際に死んだ目にあったユウカを、放っておくには忍びなかった。

 だから無理矢理にでも、別のことを考えられるようにとここまでやってきたわけだ。


 ユウカにとって、ここは全く知らない未知の世界だ。

 だからこそ、余計な事考える余裕がないほど、新しい情報でいっぱいにしてやる。そう画策してのことだった。


 それを聞いて、ユウカは申し訳なさそうな表情でお礼を言ってくる。


「君は……あ、ありがとう。それなら、素直にありがたく貰うとするよ」

「ああ、そうしとけ」

「マジでー!? やったー! お菓子買っちゃおう!」

「お前には言ったつもりねえんだけど!? あ、こら! 走るな!?」


 勝手にそう解釈したソラが、先にコンビニに走り出していきやがった。

 それを、慌てて俺たちは追いかけたのだった……



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