「二人とも、あんま離れんじゃねーぞー」
「はーい」
「あ、うん……」
俺は、ソラとユウカを連れて外に出歩いていた。
俺が先頭となってゆっくり歩いていて、後ろからソラ、ユウカがついて来ている状態だ。
ソラは既に慣れた様子でついて来ているが、ユウカは常にキョロキョロと辺りを見渡していた。
「凄い……しっかりと整った道だ、これは巨大な石か何かで作られているのかい? 凄く平らに整った状態で、とても長い。土系統の魔法の応用かな……?」
「それはコンクリートって奴だな。えっと……粘土のすごい版みたいな奴で作られてる」
「説明雑くない? 大学生なのに」
「うっせえ、それなりにいい説明だろうが。……っと、ユウカ。ちょっとこっち寄ってくれ」
ソラが茶化してくる中、え? と呟くユウカの手を引いて、道路の端に寄せる。
すると、俺たちの後ろからブロロロロッと車が一台横通り過ぎて行った。
それを見て、ユウカは目を見開いて驚いている。
「っ?! あれは何だい!? 鉄の箱……!? いや、中に人が見えた……馬車に近いかな? けど馬がいなかった……?」
「へえ、察しが良いわね。あれは“車”よ。馬の必要の無い馬車と思ってくれればいいわ。便利なのよ」
「へえ……!? どうやって動かしてるんだい? 魔石か何か?」
「ガソリンってのがあってね。燃える液体みたいなもので……」
興奮しているユウカに対し、得意げに説明してくソラの姿。
そうして歩いて行く中、目のつく様々なものに対して、同様に興味と説明を繰り返していっている。
よしよし、気分転換は上手くいってそうだな……
俺は二人の姿を見て、そう確信していた。
ユウカ自体は、この世界を歩くのは初めてだからな。そりゃあもの珍しいだろうさ。
とりあえず少しでも、このお出かけがいい影響になってくれると思って出歩いてみたが……さて、どうなることやら。
っと、そうだ。
「ユウカ、その服大丈夫か?」
「え? あ、ああ。大丈夫。……思った以上に動きやすくて、着心地いいね、これ」
「悪いな。流石にこっちの世界で、あの鎧姿は目立ちすぎるんでな。その格好で我慢してくれ」
そう、あの黄金鎧で外を出歩いた日には、職務質問待ったなしだ。
だから俺はユウカに、問題無いように別の服を貸していた。
手持ちのジーパンとTシャツを着させて、なんとか外を出歩けるように仕立て上げたのだ。
流石に剣とかは申し訳ないが置いてきて貰った。じゃないと鎧を脱いでも意味ないからな。
唯一の武器を手放した状態で、不安そうにしていたが……そこは仮にも女神であるソラに説得して貰って、なんとか渋々納得して貰った。
俺より、女神としての言葉の方がまだ納得出来るだろうからな。見たところ、一応知り合いだったらしいし。……この幼女の方が信頼度が高いという事実に関しては、ちょっと思うところがないわけでもないが。
ボサボサだった髪の毛や顔も、ソラの手によって元の綺麗な状態まで整えられている。
まあ、綺麗にしたのはいいけど、元々のポテンシャルも相まってかその顔も髪も、どの道日本だと目立つからまだ注目は浴びるだろうが……まあ、流石に警察に呼ばれる事はないだろう。
そんなことを考えていると、背後でソラがユウカに話しかけている声が聞こえてきた。
多分、あいつも不安そうなユウカを落ち着かせようと、会話しようとしてくれてるんだろう。
ひとまず、ここは任せようとして……
「大丈夫? おっぱいキツくない?」
「え!? あ、ああ、いや。一応、まあ、大丈夫だけど……」
「本当に~? あなた結構いいものお持ちだったじゃない。私の本体と同じぐらいよ。男物のTシャツじゃキツいんじゃな~い? 今もそのTシャツの柄が、可哀想な感じに伸びてるしー」
「え、や? その……っ!?」
「おいクソ幼女。お前天下の往来でセクハラしてんじゃねえよ。誰かとすれ違ってたらどうすんだ」
全然任せられなかった。何やってんだコイツ。
俺の背後で、下世話な目をしてユウカを見つめていたソラに対して、俺は釘を刺しておく。
見ろ、ユウカのやつ胸を腕で押さえて赤くなってるじゃねえか。
「そんな事言ってー。カイト結構いいお年だし、男の象徴が暴走しそうになってんじゃないの~? ユウカちゃん、気をつけなさい! 男はみんなけだものよ!」
「おうテメエ。人の評判落とそうとしてんじゃねえよ、居候がよお」
「い、いや! 大丈夫さ! ボクは勇者だからね! 自分が女であるという事は、冒険の旅に発ってから意識した事はなかったし……」
そう言ってる割には、ユウカは多少のテレが隠せていない。
それに気づいているソラは、ふーん……と、いたずらを思い付いたような表情で呟く。
「へー、そう。と言う事は、男湯に入っても問題無いって事かしら。カイトー、これから銭湯行きましょう銭湯。……あ、もしかして元々そのつもりだった? だとしたらごめーん、余計なお世話だったわ。ユウカちゃんと一緒に入って来てね」
「行くかボケエ!? 全然違う所だよ、今向かってる場所は!!」
お前本当に俺の評判どうしたいの? 貶めたいの? 一度分からせた方がいいんじゃねえのか、このクソガキ……
そんなことを考えていると、ユウカが怯えたような表情でこっちを見ていた。
いや違うから、俺そんなんじゃないから! と、思っていると、何やら違うようで……
「戦闘……? た、戦いに行くのかい? け、剣は置いて来ちゃって……た、戦いじゃないって……っ」
「あらやだ。渾身のボケが潰されてしまったわ。無知って怖いわー。ムチムチだけに」
「お前マジで暫く黙っててくれない? 頼むから」
俺は心の底から、ソラに対してそう思っていた。
どうやら、銭湯を戦闘と聴き間違えてしまったらしい。
オークとの戦いでトラウマ発生中にとっては、戦闘行為の連想自体今は恐怖になってしまっているんだろう。
そういうのじゃないから、と俺は怯えるユウカを宥める。
「ったく。これから行くのは“買い物”だよ買い物、ただの」
「なーんだ。じゃあどこ行くの?」
「コンビニだよコンビニ。丁度近くにあったからな」
ほら、あそこだ。と、俺は遠くに見える高い看板に指を刺していた。
デカデカと、よくあるチェーン店の看板がそこに立っている。
スーパーじゃないのー? という言葉に対しては、流石に初見で広い店に行かせるのは心配だったから、今回は無しにした。
とりあえず、だから戦いじゃないと説明したつもりなのだが……まだユウカは心配そうな顔をしていた。
何だ、まだ何が心配なんだ? と思っていると……
「か、買い物かい? だとすると、お金は……? あ。一応聞くけど、この金貨って使えるかい……?」
そう言って、ズボンから取り出してきたのは皮の袋で、その中から言う通り金銀銅の通貨を取り出して見せてきた。
うお、スッゲー。マジの金貨か、これ? 実際にこうして見るのは初めてかもしれねえ。
でも……
「悪いが、使えねえな。金貨そのものに価値はあっても、通貨としては直接は無理だな」
「うう、やはり……どうしよう、となるとボクはこの世界の通貨は一切持っていないよ……」
「ああ、それなら安心しろ。今回は俺の奢りにする予定だから」
なるほど、通貨の心配をしてたのか。
結構しっかり状況把握してたんだな、コイツ。
それを聞いて、ユウカは驚いた表情でこっちを見てきた。
「い、いいのかい? そこまでしてもらう理由は……」
「いいっていいって。とりあえず、お前の気分転換にはなるだろ? ついでに、ちょっとこっちの世界の事知って貰おうと思ってな」
これは一応本当だ。
あんな死にそう、というか実際に死んだ目にあったユウカを、放っておくには忍びなかった。
だから無理矢理にでも、別のことを考えられるようにとここまでやってきたわけだ。
ユウカにとって、ここは全く知らない未知の世界だ。
だからこそ、余計な事考える余裕がないほど、新しい情報でいっぱいにしてやる。そう画策してのことだった。
それを聞いて、ユウカは申し訳なさそうな表情でお礼を言ってくる。
「君は……あ、ありがとう。それなら、素直にありがたく貰うとするよ」
「ああ、そうしとけ」
「マジでー!? やったー! お菓子買っちゃおう!」
「お前には言ったつもりねえんだけど!? あ、こら! 走るな!?」
勝手にそう解釈したソラが、先にコンビニに走り出していきやがった。
それを、慌てて俺たちは追いかけたのだった……