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俺の家がセーブポイントにされてるんだけど!?
新月
現代ファンタジー異能バトル
2024年11月18日
公開日
58,105文字
連載中
 毎週月、水、金の21:00に更新です。

「あなたの家、セーブポイントにさせて貰うから!」
「はっ?」

 ある日、女神が我が家に現れ、目の前にセーブポイントを設置した。
 その日以来、我が家の至る所から異世界人共が現れる。
 どうやら家の玄関やら窓やらが、異世界に繋がったらしい。

 勇者、ヒーロー、魔法少女、ドクター、カードゲーマー、エルフ、宇宙飛行士。
 他にも様々な世界の、主人公と言えそうな奴らがやってくる。
 我が家のセーブポイントにデータを保存するために。

 セーブ目的もあれば、単に休憩所としての使用、はたまたこの世界での旅行など。
 様々な方法で活用しようとする異世界の主人公達。

 テメエら当たり前のように人の家不法侵入してんじゃねえよ!? 

 様々な世界の主人公達の交流。
 時には詰みセーブをしてしまった事の相談を受け。
 時にはご飯を出し、時には異世界人同士で交流、時にはこの世界で一緒に買い物など。
 我が家の未来はどうなる!? 

第1話

 俺の名は家入界戸いえいりカイト、カイトって呼んでくれ。

 見ての通り、ごくごく普通の一般人だ。

 近所の大学に受かり、念願の一人暮らしを開始し始めた所だったんだ。

 しかも一軒家! 良いだろ〜! まあ、と言っても実の両親と元々暮らしていた家で、親が外国で仕事する事になったから、元々実家として使っていた家を一人暮らし用としてそのまま貰ったってのが真相だが。

 けど、一人暮らしは一人暮らし! これから俺の花の大学生生活が始まるぜ! 


「──家入カイトよ。あなたはセーブポイントの守護者に選ばれました」


 ……そうウッキウキ状態だった俺の目の前に、謎の女が現れた。


「私は女神。女神ソラリスと申します」


 女神と名乗ったそいつは、リビングの天井に光の穴を開けて、そこからゆっくり舞い降りて来たのだ。

 それは水色のサラサラとした長髪で、ゆったりとした白い布を纏ったような格好をしている。

 なるほど、美術館の絵画でよくあるような、女神と題されているような女性と似たような神々しさの印象を受けた。


「【セーブポイント】。それをあなたの家に設置します。あなたは今後、このセーブポイントを守る使命を帯びるのです」


 混乱する俺を他所に、女神と名乗った女の会話が進んでいく。

 落ち着け、俺。こう言う事はよく想像しただろう。

 学生時代、学校でテロリストが襲って来た場合の想定。

 自宅にいる時、泥棒が入ったときの撃退方法。

 どれも授業中の暇な時間の時に想像したじゃないか。


 だから今回も一緒だ。


 俺は冷静になって、女神と名乗る女と相対したときの正しい対処法を想像した。

 それに従って、俺は当たり前のように正しい行動をする事にしたのだった……


 プルル。プルル。ガチャ。


「あ。もしもし警察ですか?」


「ツえいぃッ!!」


 俺の家の固定電話は、目の前の不審者の踵落としによって粉々に破壊されたのだった。


 ☆★☆


「あんた何考えてんの!? 仮にも女神に出会って、いきなり警察に電話するなんて本当に何考えてんのよ!?」

「こっちのセリフだバカ女!? 人の家に勝手に不法侵入して何言ってやがんだ!? つーか俺ん家の固定電話壊してくれちゃってんじゃねーよ?!」

「うっさい! おかげで私の踵の裏がめっちゃ痛くなっちゃったじゃない!? 破片刺さっちゃったわよ!? クイックロード、クイックロード!!」

「知らねーよ?! 弁償しろや弁償!!」


 俺は全力で目の前の女にツッコンだ。人様の家を勝手に侵入した挙句、セーブポイントなどと言う不法投棄、挙句に器物損壊を行った不審者に対して、徹底抗戦するつもりだった。

 すると涙目の女神は、自分の怪我した足に対して、なんらかの言葉を呟くと……


「ふうー、よし。これで足は治ったわ。全く、酷い目にあったわ」

「それはこっちのセリフ……!? 待て、本当に治ってる!?」


 見ると、さっきまで血塗れだった女神の足が、一瞬にして無傷になっていた。ダクダク流れていた血まで、綺麗さっぱり無くなっている! 


「ふふん、これこそ女神の力よ! どう? 信じる気になった? これほどの奇跡を目の当たりにしたら、如何に凡人と言えど私の凄さが分かって……」

「おい。お前の足はともかく、お前の足から落ちてた血痕がリビングに残ってるんだけど。後、だったら壊れた固定電話直せよ」


 そう胸を張って自慢して来る女神に対して、俺はふと話を遮って質問をした。

 すると女神は……


「……女神の奇跡は、女神本人しか効かないの。ごめん遊ばせ?」

「なっさけねー女神だなあ、おい」


 俺は女神に対して、心の底からの本音をぶつけていた。

 このテヘペロ♪ とでも言いたいような表情をしている女をどうしてくれようか……

 それを気にせず、女神のアマはよっこいしょ、っと人様の家のソファーに座り込みやがった。


「それはともかく、本題よ本題。“あなたはセーブポイントの管理人”に選ばれました。よって、あなたの家にセーブポイントを置かせてもらいます」

「待て待て待て、だから話が見えねえって。さっきも言ってたけど、なんなんだよセーブポイントって?」

「あら、知らない? あなたゲームとかやった事ないの? ほら、RPGとかでよくあるデータをセーブ出来る箇所。あれの事よ」


 ほら。そう言って女神は、手のひらを上げてそこが一瞬ピカリと光る。

 その手には、結晶状のクリスタルのようなものが持ち上げられていた。


「これがセーブクリスタル。これがあると、文字通りセーブ出来るの」

「セーブって、何をだよ?」

「“その人の人生を”、よ」


 は? そう言った俺の疑問の声を他所に、女神はポイっと。そう言いながら女神は手のひらからセーブクリスタルをリビングの床に投げつけた。

 すると、クリスタルは破壊されず、フワッとその場に浮かび……ブウンッ!! と大きくなった!! 


「うおっ?! デッカくなりやがった!?」

「これで設置は完了ね! あー、仕事したわー」


 まるで今日の仕事が終わったかのように背伸びをする女神。

 あー、疲れた疲れた、との事……じゃねえよ!? 


「いや、テメエ!? 人様の家に勝手にこんなもの設置していくんじゃねえよ!? いいから持って帰れ!?」

「残念ー。もう座標固定しちゃったから、簡単には取れませーん」

「んだと!?」


 その言葉に驚いた俺は、設置されたセーブクリスタルをガシッと掴んで思いっきり持ち上げたり、転がせたりしようとした。

 ウギギッ!! うわ、マジだ!? 本当にガッチリ固定されてやがる!? 


「はーい、いい加減諦めてくださーい。これがあなたの使命でーす」

「テメエ!? そう簡単に諦められるか!? 人様の家に不法侵入した挙句、勝手にこんなもの設置されて、使命とかだって!? ふざけるのも大概にしろよ!! そんなの受けるわけ……」

「それじゃあ、あとヨロシク〜。期待してるわねー!」

「いや、ちょっ!? 言うだけ行って帰って行きやがったアイツうううッ?!!」


 俺の叫び声を他所に、女神はとっととその場から去って行きやがったのだった……


 ☆★☆


 ──そうして、来たときの逆再生のように、女神は天井の光の穴にふわふわと上がって行って帰って行った。

 追いかけようにも、既に光の穴は閉じられている。

 もはやこの場には俺と、設置されたセーブクリスタルとやらが残されただけだった。


「…………」


 ……俺は暫く呆然とし。


 ようやく再起動果たした後、一旦リビングを出て行った。

 そうして倉庫から、マイナスドライバーとハンマー、後ついでに巨大なシートを持ってきて、リビングに戻ってきた。

 浮かび上がってるセーブクリスタルの下にシートを敷き込み、目の前にどっこいしょっと座り込む。

 そうして、マイナスドライバーをセーブクリスタルに突き立てて、ハンマーを構えて一振り。


 カアアアアアンッ!!! 


「ッチ! この程度じゃ壊れねえか……やっぱちゃんとしたピッケルとかじゃねえと駄目なのか……?」

「何やってるのよカイトのバカぁああっ?!!」

「何って、壊して破片を売っ払ってやろうかなって……うん?」


 帰ったはずのバカ女神の声。まさか戻ってきたのか? と思考する。

 が、俺は聞こえてきた声に違和感を持った。聞こえてくる声が若い。若すぎる。

 俺はふと、後ろを振り返ると……


「──いや。誰だこの幼女?」


 そこには、見知らぬ幼女がいた。

 10歳くらいの年齢で、あの女神に面影がそっくりな水色の髪で、ワンピースを来ている少女だった。


「幼女じゃない! 私はソラ! 女神ソラリスの分神の分け御霊! あなたが使命を果たしているかどうか、見届ける為にやって来たの!!」


 分神? 分け御霊? って言うと……


「つー事は、何か? お前は、あの自称女神とほぼ同一の存在って見ていいのか?」

「そう! 自称は余計だけど! ほとんど本体と私は一緒よ! だから崇めなさい、敬いなさい!  こんな小さな体でも、私は敬愛すべき女神様な……」

「ほーほー、こんな幼女が女神様、ねえ。ほう、ほう……」


 そうして俺は立ち上がり、幼女女神の前に立った。

 ふむ、身長差が結構出るな。


「な、何よ……?」

「いや、何、なあ……」


 俺はなんとなしに、この幼女女神の頭を撫で始めた。

 ふむ、結構サラサラしているな? 


「わっぷ、頭を撫でてる? もう、不敬よ不敬〜♪ でも、もっと撫でてもいいわよー♪」

 それを幼女は、目を細めてもっともっととせがんで来た。


「ふふふふふっ」

「うふふふふっ」


 こうして、互いに穏やかな微笑みを返し合い……


「──こんの駄女神があああ!! 幼女になったからって、俺が容赦するとか思ってんのかあああ!?」

「フィギャアアアアッ?!!」


 俺は、キレた。

 もう溜まりに溜まった不満を、遠慮なくこの幼女となった女神にぶつけてやったのだった。


「ヒハイ、ヒハィ、ほっへひっはらないへええええッ!??」


 涙目になりながら、ひぎゃあああっ!?? っと叫ぶ幼女女神と格闘する事数分。

 ひとまず落ち着いた俺は、ようやくつねっていたほっぺたを離す。

 幼女女神はヒリヒリとしたほっぺたを抑えて、涙目でこっちを睨み付けていた。


「もう! 女神に対して、こんな事! もう!」

「うっせえ。帰ったと思ったのに、わざわざ戻ってきたお前が悪い。……どうせだ、この際ついでに聞きたい事がある」

「ん? 何よ?」


 疑問の声を上げる幼女女神に対して、俺は一言。

 どうしても聞きたい事があった。


「──どうして、俺なんだ? なんで俺の家にセーブポイントなんてもの、設置しやがったんだ?」


 俺は騒動で、根本的に聞くべき事を聞き逃していた。

 だから、今幼女状態とはいえ、女神本人がいるのなら問い詰めるべきだと考えた。


「ふふん、そんな事? それはね……」

「それは……?」


 ゴクリ、と唾を飲み込んで言葉を待つと……


「──私も知らない!」


「ペンチどこに置いてたかなっと……」

「それでほっぺたつねる気?! いや知らない! 本当に知らないの!? だって、本体に教えられてないし!!」


 俺が小道具を探しに部屋を出ようとすると、泣き叫びながら俺の服にしがみついて来る幼女女神。

 おい服引っ張るのやめろ、伸びるだろーが。


「あ? お前幼女とはいえ、一応女神本人じゃねえのかよ? 分神ってそういう事じゃねーのか?」

「分神と言っても、私はどちらかと言うと使い魔のイメージが近いわ。本体の全てが反映されている訳じゃないの。ついでに、私のスペックは今この体のキャパシティにあった状態しか発揮されないわ」


 ぺったんこな胸に手の平を当てながら、幼女女神は自身の今の体の事を説明してきた。

 ふむふむ。


「……つー事は、お前女神とはいえ、10歳相当の能力しか発揮出来ねえって事でOKか?」

「OK! ちなみに、私の知った事は本体に反映されるけど、本体の情報は私には伝わってこないわ。一方方向なの。最初に設定された部分の知識しか知らない」


 ふーん、一方向ねえ。

 けどまあ、こっちの情報自体は筒抜けな事は変わらないんだよな? 


「なるほど、なるほど……つまり、女神に文句がある時は、お前自身に言えば本体にも伝わる訳だな? それはいいことを聞いたな」

「あ、あれ? 藪蛇だった? 言わない方が良かった事まで言っちゃった!?」


 いやいや、それ自体は言ってくれて良かったぜ。じゃないと、本当にほとんど関係無い幼女を置いて行かれちまった事になってたからな。

 ……ん? 置いていかれた……? 


「……ちょっと待て、幼女女神。一つ確認したい事がある」

「幼女女神じゃなくて、女神ソラ!! ……何かしら?」

「──お前、これからどこに住むつもりだ? 置いていかれたって言ってたけど」


 このご時世、ホテル暮らしなんて馬鹿にならない費用になる。

 ましてやこの幼女、金目の物自体持ってるようには一切見えなかった。

 それで疑問に思った事を質問してみたが……


「え? もちろん、“ここ”に」


 そう言って幼女女神は、当然の事を言うような雰囲気で、床に指を刺していた。

 ……よし、念のため確認しようか。


「ここって、何処だ?」

「だから、“この家に”」


 ……ほーん。なるほど。この家ねえ。この家。


「──いや、お前ふっざけんなあああッ?!! せっかくの一人暮らしなんだぞ!? それをお前、何急に押しかけてんだこのクソ女神!?」

「何よ! こんな幼女を道端に放り出すつもり!? 鬼畜ね、最低! ひとでなし!!」

「お前さっき、幼女女神じゃねえって自分で言ってだだろうが!? つーかなに、食費は? 養育費は? まさかそれ全部俺持ちなの!? 俺親からの仕送りでやりくりしてるのに!?」


 ウッソだろ!? 俺まだ未成年だけど、子供一人育てるのにどんだけ金かかるかは少しは分かってるつもりだぞ!? 

 仕送り生活中の俺に対して、そこに幼女一人の世話の費用も掛けろと!? 

 そう驚愕している俺に対して、幼女女神はぺこりと頭を下げ……


「──えへへ。ゴチになります」


 くっそいい笑顔でそう宣いやがった。


「うるせえよ!? ふざけんな、さっさと帰れ!? 本体がやってたみたいに、天井光らせてパーっと、パーっと!!」

「私、その能力持ってなーい。本体が回収してくれないと無理ー」

「じゃあ本体迎えに来いよ!? この情報も伝わってるんだろ!?」


 俺は至極当然な提案を、幼女女神にしてやったつもりだった。

 が……


「伝わってはいても、本体が反映してくれるかどうかは分かりません。本人曰く、可能な限り、善処しますとしか」

「それやる気最初から無いやつううう!!」


 どこぞの政治家の言い訳のように、手の平を横に広げながらそう言いやがった。

 そうして頭を抱えている俺に対して、幼女は追い打ちを掛ける。


「よろしくお願いね? パーパ♪」

「やめろ、俺まだ19歳で、子供がいるような歳じゃねえ!!」

「いや、ほら、あれよ。パパ活ってやつ?」

「意味が違えええ!! 合っててもガチで洒落にならねえ!?」


 うっそだろ!? なんで俺この年でコブ付きにならなきゃいけないの!? 働いてもいねえのに!? まだ学生なのに!! 

 つーか、結局使命ってなんだよ、セーブポイントってなんだよ! まだなんにも分かってねーぞ!? 


「それじゃあカイト、私夜ご飯ハンバーグカレーが良いー」

「いや何勝手に馴染んだように言ってんの? つーか何気にめっちゃ手間かかるもの頼んでんじゃねーか!?」

「いやほら、せっかくだし豪華なものがいいじゃない? せっかく一緒に暮らす記念日なんだし!」

「厄日だよ!? 俺にとっては!!」


 くあああ!? っと、大声を上げながら両膝を付く俺。

 そんな俺の叫びを無視して、幼女女神はウフフ、とこっちに笑いかける。


「まあ、何はともあれ……これからよろしくね、カイト!」


 そうとってもいい笑顔を、項垂れている俺に対して向けてきたのだった……



 主人公:カイト

 本名:家入界戸いえいりカイト

 19歳

 172cm

 黒髪

 中立・善

 男

 今回家にセーブポイントを設置された不幸な男。

 なんだかんだ騒ぎながらも、この後わざわざ幼女女神の部屋を用意してくれる結局甘い男でもある。

 いつか女神本体を殴りたいと思っている。


 女神:ソラリス

(女神本体)

 ──歳

 167cm

 水色髪

 中立・善

 女


(幼女女神:ソラ)

 10歳ボディ

 129cm

 主人公の家にセーブポイントを設置した張本人。

 さらに監視も兼ねて、分身として幼女状態の自分を置いていった。

 本体のテンションにつられて、幼女女神もハイテンションで誤魔化しているが、実際の所カイトに迷惑を掛けている自覚はあって申し訳ないようだ。

 ちなみにこの件について、女神本体はどう考えているかは知らない。


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