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第56話 王国の罠

英雄の撃砕ヘロス=カタストロフ

魔国剣戯まこくけんぎ――極天滅葬斬ウルティメメント=モリ!」


 わたしの眼では捉える事の出来ない二人の攻撃。間合いに入る全てのものを粉々に打ち砕くバトラスの鉄球。対し、レイのひと振りは光の柱を創り出す。轟音と衝撃。舞台からの震動に闘技会場全体が揺れている。そして、揺れが収まった時、互いに武器を構えたままその場に立ち尽くす二人の姿があった。


「見事だ。クレイ・グラディウス!」

「バトラス・ウエストリバー。あんたは充分強かった」

「フ。敗者へ言う台詞ではないな」


 バトラスの背中についた刀傷から噴出する鮮血。血飛沫が舞台上に舞う中、王国最強と謳われた男はそのまま前のめりに倒れる。クレイの鎧も砕かれ、剥き出しになった右肩を押さえたまま剣を掲げるレイ。ここに新たな闘技大会チャンピオンが誕生した。


「勝者、クレイ・グラディウス!」 

 レイに贈られる大歓声。これで大魔女メーテルの杖も取り返せる。レイの目的は無事に達成だ。全身傷だらけのレイ。早く助けに行かないと。その時だった。闘技大会会場に、場違いな声が響いたのは。


「ちょっと待ってくれ!」

「ああっと! チャンピオンを祝福に来たのか。グリモワールの〝蒼き稲妻〟エルフィン・ネオ・スペーシオ第一王子の登場だぁ~~!」


『は? どうしてエルフィンが舞台上に!?』


「「「エルフィン! エルフィン! エルフィン!」」」


 わたしの疑念を他所に最高潮の熱気に包まれる会場。お姉さまは特別席へ座ったまま。エルフィン王子だけが舞台へ自ら足を運んでいた。〝投影水晶板プロジェ=クリスタル〟へ王子の顔が映し出され、彼の声は水晶板を通じて会場全体に反響する。


「クレイ・グラディウス選手、まずは新たなチャンピオン誕生おめでとう。素晴らしい闘いを披露し大会を盛り上げてくれた剣士へ、素直に拍手を贈ろうじゃないか」

「……」

 軽く会釈をするのみで無言のままのレイ。それはそうだ。王国の闇であるエルフィンを前にして、笑顔にはなれないのが本心だと思うから。


「ルワージュ神殿長! 今すぐ彼を回復させてくれ!」

「は」

 何故か治療役で控えていた神殿長ルワージュが舞台上へ上がり、レイを治療し始める。一体、何が起きているの? その間にバトラスは担架で運ばれ、舞台上には審判とルワージュ、レイ、エルフィンの四人が立っていた。


「さて、このまま表彰式へ移りたいところなんだが、せっかくなんでエキシビジョンといこうじゃないか? そうだな、〝大魔女メーテルの杖〟を賭けて、僕と一騎打ちなんてのはどうだい?」


「エルフィンー! いいぞー」

「最強対最強。最高じゃないか!」


 会場から湧き上がる歓声。そういう事か。ルワージュによってレイは治療されたけれど、応急処置のみで完治していない。魔力も消費した状態。会場が盛り上がりを見せる中、断り切れない状況を作り、〝大魔女メーテルの杖〟を渡さない気なんだ。


「エルフィン王子。止めておけ。あんたと俺がこの場で戦ったなら、舞台ごと吹き飛ぶと分かっている筈だ」

「フフフ。いいじゃないか? 心配なら、被害が広がらないよう、君は加減すればいい。それに……」

「なんだ」

「僕に負けるのが怖いんだろう? 魔国カオスローディア第一王子、レイス・グロウ・カオスロード」 


 嘘!? エルフィンはいつから気づいていたの? レイの魔剣は今回使っていない。なのにどうして。


「どこで気づいた」

「気づくも何も、あの魔国剣戯まこくけんぎ父親・・譲りだろう? あの技、戦争の記録にもちゃんと遺っている」

「そうか。ならば隠す必要はあるまい」


『アンリエッタ様は此処に居て下さい』

『え? ジズ』

 ジズの姿が消え、レイのからジズの姿が現れる。ジズがレイへ漆黒の魔剣――カオスロードを渡し、銀色の刀剣をジズが代わりに持つ。


「おぉーーっと! なんとなんと! クレイ・グラディウスの正体は、魔国の王子様だった模様です。エルフィン王子自ら出迎えるのも頷けます。二人の王子によるエキシビジョンマッチ。どうなるのでしょうか?」


「どうやらやる気になったみたいじゃないか?」

「そうだな。少し遊んでやろう」


 その時だった。レイが一瞬だけこちらへ視線を送ったのは。そうか。そうね。今しかないものね。わたしはわたしが出来る事をやる。湧き上がる歓声に紛れ、わたしは思い切りレイから教わった指笛を吹く。高らかと鳴る音色は高い空へ向かって響き渡る。観客は興奮した観客が吹いた笛に思うだろう。でも違う。


「キュウウウウウウウ!」


特別席があるお姉さまの席へ向かって、遥か上空より急降下していく光。七色に輝くその鳥は翼をはためかせて闘技大会会場を覆う結界を易々と通過し、お姉さまの座る特別席へ向かう。


お姉さまの視線は鳴き声のした上空へ。観客は舞台上のやり取りに夢中で誰も気づかない。王子はレイが引き付けている。これならやれる。


七色鳥レインボーバードには闇の魔力も悪意も一切ない。攻撃をする意思もないキュウちゃんは、特別席を覆う王国最強の結界すら通過出来る。


七色鳥レインボーバード……何故、此処に?」


口の動きから、お姉さまがそう呟いたように見えた。特別席を覆う結界をキュウちゃんの身体の一部が通過していこうとした……その時だった――


「遠雷――サファイア


それまで透き通るような青色で覆われていた空に、いつの間にか曇天が立ち込めていた。上空から真っ直ぐに落ちる蒼い稲妻は、お姉さまの目の前でキュウちゃんの身体を貫通する。


 そんな! キュウちゃん! 

わたしの眼には七色の光を失ったキュウちゃんが特別席の下にある周辺諸国の来賓席へと落ちていく様子がスローモーションに見えた。そして、魔力の発生源を追い、視線を映した先であいつがわらっていた。


「すまない、会場内に羽虫が入っていたみたいだ。レイス、試合を始めようか」


 下衆王子……許さない…………許さない! 



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