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第54話 観戦中止

◆<アンリエッタside ~一人称視点~> 


『ミルフィーユ様。今日は違う宿へ泊ります。宿は先回りし、キララが手配します』

『え? どうして?』


 レイのカッコイイ姿を見届けた後、うっとりしていたわたしはジズさんからの念話に我に返る。


『我の鼠が監視していた王国の密偵がレイス様へ付きました。作戦はBプランへ移行します。決勝まで別行動がいいかと』

『Bプラン……つまりレイとは決勝まで逢えないの?』


 そんな……がっくり項垂れるわたし。レイの試合に熱中していて気づかなかったけれど、隣に居た筈キララは既に退席していた。魔国出発前、わたし達潜入メンバーは王国の動きに乗じた幾つかのプランを準備していた。Bプランはレイがもし警戒された場合に、わたしの存在が見つからないようにする王国潜伏プラン。


 このプランだと、わたしは暫くレイと逢えないどころか、決勝まで会場内での試合観戦も出来なくなる。〝常闇の衣〟で身を隠し、怪しい動きをしている者を監視するためだ。既にジズさんは魔国へ帰したジョーの代わりに密偵部隊から数名、王国へ潜伏させているらしい。


『ジズ……せめてレイの傷を直接回復させてあげたかった……』

『アンリエッタ様の気持ちは分かりますが、今は我慢です。あの程度の傷ならレイス様の持つ回復薬で問題ありません』


 ジズさんの予想通り、王国の動きは慌ただしかった。レイならばすぐに監視の眼がついている事に気づく事は容易。まだ監視の眼がついていないララさんがわたしとジズさんの宿の手配後、夜に冒険者風の格好へ戻りお付としてレイと合流。連絡事項はそこで伝え合った。


 レイと合流したララさんはお付として行動。

 そして、来たる決勝。わたし達は用意している作戦を実行する予定。


「部屋に一人がこんなに寂しいだなんて……」


 王国へ潜入してから数日、思えばずっとレイと同じ部屋で宿泊していた。それまで一人で眠る事なんて当たり前だったのに。今のわたしはこんなにもレイを求めてる……。


「お姉さま……わたしにはお姉さまだけだったのに……ごめんなさい。もうわたし、戻れないかもしれない」


 魔力変貌した姿はまだ元に戻っていない。恐らく〝常闇の衣〟への〝透過〟程度ではきっと、この姿は元に戻らないだろう。


「駄目だ。気を抜くと、レイの熱を求めて身体がうずいてしまう。……わたしが魔女になったから?」


 身体から溢れ出す熱と衝動を必死に抑えつつ、この日のわたしは眠れない夜を過ごした。


 翌日、闘技大会会場は前日以上の熱気に包まれていた。女魔導師ルーズは会場へ姿を見せず、騎士団らしき者達が数名、早馬で王都を出ていく様子が窺えた。ルーズの行方を追って向かったのだろう。バトラス・ウエストリバーは不戦勝で決勝へ進出。


 準決勝は東国の女刀剣士、サザメ・クレナイと、魔国歴戦の剣士、クレイ・グラディウス。奇しくも互いに剣術を扱う者同士の対戦のみとなりましたと紹介されていた。 


 あ、何故知っているのかって? 王国の怪しい人達を監視しつつ、会場内同様に、外での観戦用として会場横に設置されていた〝投影水晶板プロジェ=クリスタル〟で何度か試合の様子をチラ見していました。チラ見ですよ? ちゃんと王国の密偵は監視していましたから。


 それにしても対戦相手だったサザメさんの剣術は清廉されていて、まるで舞を踊っているかのようで美しかった。サザメさんがもし魔国の住民だったなら、きっとお友達になりたいって思ったに違いない。


 わざの名前も舞い散る華も、藤霞フジカスミ霞桜カスミサクラ、新たに準決勝で初お目見えした刀剣術も、東の地にしかない華の名ばかりだった。


 梅の花の華やかな香りと共に幾重にも重なる刃を同時に放つ梅重音ウメガサネ


 冷たい風と共に斬りつけた対象を凍らせる寒椿カンツバキ


 サザメさんと同じく研ぎ澄まされた剣戟で放たれるサザナミ流刀剣術を捌き、影を扱うサザナミ流影踏術えいとうじゅつまで見切り、背後からの攻撃を弾くレイは改めて凄いと思った。


 最後は準々決勝で放った剣戟よりも速い、魔刃瞬光エクス=オキュラス・改とサザナミ流刀剣術の奥義・蓮華葬レンゲオクリという技がぶつかり合い、倒れたのはサザメさんだった。


『よかった……レイ。勝てた』

『任務へ戻りますよ、アンリエッタ様』

『ごめんなさい、ジズ』


 一日闘技会場周辺を監視し、怪しい動きをしていた数名をマークした。ジズの〝黒影〟魔法によるマーキングをされた人物は、怪しい行動をした瞬間、影を通してジズへ知らせが行き、その場で影が縛られる。


 マーキング出来る数と対象を監視出来る距離に限りはあるものの、これで王都での怪しい動きを事前に防ぐ準備は整った。


 レイに逢えない事は凄く寂しいけれど、わたしとレイは離れていてもきっと通じ合っている。そう信じたい。


 こうしてわたしは、闘技大会決勝の日を迎える事となる。

 わたしにとって運命の日が、いよいよ始まった―― 



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